<モデルナ社のコロナワクチンを接種した大江千里氏。2度目を接種して数時間後に異変が訪れた。モデルナワクチンのアナフィラキシーショクは40万人に1人とされる。大江氏自身がつづった、壮絶のワクチン体験> ニューヨークでは、あるベニューでジャズライブをやる場合、その前後1カ月は他の会場でのライブが禁じられている。新型コロナウイルスのワクチンも同じだ。 先日、肝炎のワクチン接種の予約があった僕はついうっかり病院へ行き、ワクチン接種前に何気なく「そういえばコロナワクチンを打ったんだ」と報告をしたら「え? まだ1カ月経っていない。しかも2回目があるでしょ?」と接種せずに帰された。 僕の頭はコロナワクチンだけにフォーカスされていたため、他のワクチンとの兼ね合いには気付けなかった。全てのワクチンがダブルトリプルブッキングなきよう気を付けなければいけない。 僕が加入している医療保険では、60歳を皮切りに帯状疱疹(2回)をはじめ、肝炎(3回)、インフルエンザなどしょっちゅう病院から連絡がありワクチンを打つ。そんな中へ、いきなり乱入ワクチン、コロナ。 1度目のコロナワクチン接種は今年1月10日だった。1月9日、僕のもとにニューヨーク市から携帯メールが届き、ワクチン接種の予約が開始されたとある。60歳の僕は優先接種の対象になる65歳以上の高齢者でもなく、医療従事者等でもない。 なぜ自分が早期に接種できたかは分からないが、携帯メールで「あなたは医療従事者ですか?」「COVID-19の患者を世話したり看取ったりしたことがある?」「葬儀屋ですか?」などの質問に答えていくと、僕が住むブルックリンに大型のワクチン接種会場がオープンした1月10日の予約が取れた。 翌日、接種会場である小学校に着くと長蛇の列が出来ていたが、思ったより早く、2時間ほどで接種テーブルへ。申し込む際にファイザー社とモデルナ社のものが選べるのだが、最初からモデルナにチェックが入っていたので僕はそのままモデルナを接種。打った後は別の場所で15分待機し、何もなかったので外に出た。モデルナのワクチンは、1本目を打った後、28日置いてから2本目も同じものを打つことになる。 2回目のコロナワクチンは2月10日に予約したので(予約日は自分で選べた)、3回打たねばならない肝炎のワクチンは2回目が3月10日以降になり、3回目はその6カ月後になる。長いワクチンストーリーに気が遠くなる。しかしまずはコロナだ。 ===== モデルナ社のワクチンを1月10日と2月10日に接種したことを記録したカード さて副反応もなく1カ月が経過し、2回目のコロナワクチンは、1回目と同じ場所にて同じ要領で。しかし、会場はガラガラだった。予約を取ったのにキャンセルする人も多く、用意されたワクチンがその日に破棄される場合もある。 並び始めてからショットを打つバスケットコートまでわずか10分。ワクチンを打つ担当のアイラスは「どんな気分? この1カ月どうだった?」など僕との会話を急くことなく進める。ワクチン接種の前にはリラックスすることが最も必要なのだ。 「今度のワクチンは打った腕が腫れたり痛くなったりすることも多く、体全体が痛んだり熱を出したりする症例も報告されているの」。 じゃあ、打った後にワインは?「それはOK。飲んでリラックスでしょ?ただ、3日間は家にいてゆっくりしてね」。そんなに?「そう、何が急変するかわからないの」。了解。 目の前に僕用のモデルナワクチンの瓶がある。「緊張してる?」。はい。「私もよ。でもお互い気楽にしたほうがいい」。30番くらいまである接種テーブルで僕は23番。10カ所以上のテーブルで看護師たちが手持ち無沙汰にしている。1回目を初日に打ちに来た時のにぎわいが嘘のようだ。 「じゃ、行くわよ」。一瞬だ。1回目と違うのは、その痛みは尾を引いた。流線型のドーンと奥へ向かう鈍い痛みがあった。終わったあと、拳骨ハグしてスタッフ数人から「15分よ。絶対に動いちゃダメよ」なんて言われ、わかってる!と交わし合い講堂へ。 「あなたは1回目? 2回目?」「2回目です」。「じゃああっちへ。」1回目の人は、時間がないと接種後の15分を待たずにそのまま帰っちゃう人もいる。しかし2回目の場合はスタッフがしっかり監視していて15分は絶対にその場から動かないように見張られる。僕はリラックスして15分その場にいた。 全てが終わりスタッフたちに「ありがとう」を言うと、彼らも口々に「ありがとう」と言う。そんなふうに感謝とリスペクトを交わし合い外へ出る。この日の光はとにかく眩しかった。 だがその日の夜、体調が急変した。2月10日夜、自宅でピアノを弾いているとワクチンを打った左手が激痛で上がらなくなり、そのうちに打っていない方の右手も上がらなくなった。 ===== だんだん全身が痛くなり息が苦しくなった。なので、ベッドへ。ショットを打ったのが午前11時35分ごろ。この症状が始まったのが午後6時ごろ。きつくなったのが午後8時ごろ。そしてベッドで8時半ごろ、急激に調子が悪化。 全身が痛み、ゾクゾクするのになぜか熱い。心臓をわしづかみにされるようで、呼吸もさっきよりも苦しくなる。知らない何かに身体を乗っ取られた感覚がして、僕は直感でやばいと思いマネージャーにメールをするが、彼女からの返事が来るまでの数秒の間に自分の黒目が動かせなくなる。 今まで一度も経験したことのない症状だ。心じゃひたすら「絶対に生きる」と唱えて、そのまま気を失った。 夜明けに2回、水を補給しに起きる。起きようとするのだが、丸虫のように何度も身体をテコにして勢いをつけなければ起き上がれない。 しかし給水後は熟睡して朝6時過ぎに目が開く。再び水を飲み、調子が良くなったので体温を測ったら37.6度だった。ということは昨夜の熱はどれだけ高かったのか? その日は熱が上がったり下がったりで仕事は全くできない。お腹はやたら空くので残り米でおかゆを作り食べた。寝て起きて食べて水分を摂取してまた寝て起きる。 11日の夜9時までに数時間おきに計って、37.6度→37.5度→36.7度→36.5度→36.4度→37.4度→36.0度。でも昨夜の事故のようなあの苦しみはなく、あの誰かに締めつけられたような感覚に悶絶した痛みのカケラが節々に残っていた。 念のため主治医を含める3人のドクターに症状を話すと、みな同じ見解で「アナフィラキシーショックの疑いがある」と言うことだった。 米疾病対策センターが1月22日に発表した報告書によると、モデルナのコロナワクチンを接種した404万人のうち10人がアナフィラキシーと呼ばれる激しいアレルギー反応を示したという。 つまり40万人に1人の頻度で、外部からの異物に過剰に反応し、複数の臓器や全身にアレルギー症状が出て、血圧低下や意識レベルの低下、失神を伴うなどの症状になる。 通常は数分から数十分以内に起きるため、接種後に会場で待機させられたわけだ。しかし接種の仕方、その吸収の仕方の違いや、個人差などで数時間後に出ることがあるらしい。 ちなみに僕はこれまでにワクチン接種後にアナフィラキシー反応が出たことは一度もなく、持病もない。ただ、いまから考えると少し喉が痛い日々が続いていたので前日まで葛根湯で抑えてはいた。(腕の痛みは10月9日に帯状疱疹の1回目のワクチンを右腕に接種後も起こったが、この腕はもともと脂肪腫が筋肉を圧迫していた。帯状疱疹2回目は左に打ち、何も症状は出なかった) ===== 2月9日に敬愛するチック・コリア氏が亡くなったので、ベッドに横たわりながらじっとチックさんのことを考えた。考えながら、きっと彼は世界のどこかを今もツアー中なのだと思うことにする。と同時に今ここに生き残った僕がいて、自分の心臓の音を聞いている。静かに思う。生きている意味が1つ増えた、と。 回復したはずの身体は5日経った今もきつい。寝たり起きたりしながら本調子ではない。食欲はあるし普通に生活するにはなんの問題もない。しかし気がつけばベッドに横になっているといった感じが続く。ピアノは弾いているが、まだ外出はせずに温かいものを食べてゆっくり体を休める日々が続いている。 セカンドオピニオンをくれた別のドクターが「病院中でワクチンを接種し、副反応がでた医療従事者はいたがアナフィラキシーはいなかった。大江さんの場合はきっと、血圧が急激に下がっての失神だ。よく助かった。90日間はコロナにはかからないですね」と言われ、そこで思い出す。そうだ。90日後にまたワクチンがやってくる。 その時僕は受けるか? うーん、受ける。僕は科学を信じる。ただ、受けるも受けないも個人の自由で、どちらも同じように尊重されるべきだ。 コロナとの戦いで、このワクチンの成果がどれほどのものなのか誰にもわからない。しかしワクチンを打たなければ現状は変わらない。可能性に賭ける、その症例が集まって次の信頼性につながる。未来は用意されたものではなく、僕たちで作るものだからだ。世界は変わる、僕はそう思う。 【関連記事】 ・NY在住の大江千里が明かす、不思議な感覚を生むコロナワクチン接種(1度目のワクチン体験記) ・コロナワクチン副反応の4割が深刻な影響、女性は男性の2倍 スイス当局の最新レポート