<党派色の強い粗製乱造の報道がはびこるなか市民は質の高い正確なニュースを求めている> イギリスの公共放送局BBCが昨年7月、驚くような数字を発表した。その前月までの1年間に世界の4億3800万人がBBCニュースを、3億5100万人が国際放送のBBCワールドサービスを、さらに1億3700万人が同じく国際放送のBBCグローバルニュースを視聴・聴取・閲覧したというのだ。 これら3部門、それにBBCのエンターテインメント部門はいずれも2桁台の成長を遂げている。一部のアメリカのメディアと違って、BBCは対立をあおって視聴率やページビューを稼ぐ手法に頼っていない。それでも、これだけの実績を上げている事実をどう受け止めればいいのか。 アメリカではここ数年、偏向報道の嵐が吹き荒れ、手の施しようがないほど社会の分断が深まった。今この国に必要なのはBBCのような公共メディアかもしれない。 公共放送として特許状を付与されたBBCは、公平性を重視した報道を行うよう法的に義務付けられている。先に挙げた実績を発表した際、当時のトニー・ホールBBC会長はこう語った。「われわれは間違いなく最強にして最も有名な英国ブランドの1つであり、世界が認める高品質と正確性の同義語だ」 そう、人々が求めているのは高品質で正確な報道なのだ。一方で「アメリカ人は違う」という声も聞こえてくる。アメリカの視聴者が求めているのは感情に訴えるようなストーリーや自分の考えの正しさを肯定してくれる情報だ、というのだ。 本当にそうだろうか。データが語る答えはノーだ。 オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所の昨年の報告書によると、アメリカ人の60%は中立なニュースを求めている。また56%はBBCの報道を信頼できると答えていて、BBCはアメリカ人が信頼する外国メディアのトップとなっている。 BBCニュースを視聴・閲覧しているアメリカ人は5000万人弱。この数はイギリス本国を除けば、インドに次いで多い。 保守もリベラルも同罪 分断をあおるような報道が目につくアメリカだが、オックスフォード大学の調査を見る限り、事実に基づいた報道が求められている点では他の多くの国々と変わらない。 自分の考えと合う報道、合わない報道、または中立な報道のどれを求めるかという問いに対して、ドイツ人の80%、日本人の78%、イギリス人の76%、デンマーク人の68%、イタリア人の65%、フランス人の58%、スペイン人の55%が中立な報道を求めると答えている。 先に述べたようにアメリカ人も60%が中立な報道を求めているのだが、現状ではそのニーズは満たされていない。穏健派の共和党議員ベン・サシは雑誌に寄稿した論評で「ジャンクフード並みの報道がはびこる」状況を批判した。 「これは右派や無名の人のブログに限った問題ではない。明確なイデオロギーを持つ層をターゲットにしたFOXニュースなどの経営戦略は、MSNBCやCNN、ニューヨーク・タイムズにも共通する。選挙の不正疑惑だろうと、地域警察の廃止要求だろうと、時流に乗った『正義のメッセージ』を打ち出して視聴率やページビューを稼ごうと、メディアは躍起になっている」 ===== 当然、こうした報道では幅広い信頼は得られない。アメリカ人の56%がBBCの報道を信頼し、60%がローカルテレビ局のニュースを信頼している一方で、全米規模のテレビ局では最も信頼されているCBSとABCでさえ、その割合は51%にすぎない。NBCおよびMSNBCは49%、CNNは47%だ。 ウォール・ストリート・ジャーナルの報道を信頼しているアメリカ人は52%、ニューヨーク・タイムズは50%、ワシントン・ポストは48%だが、この3紙のウェブ版は有料で誰でも読めるわけではない。公共放送のナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)を信頼する人は49%だが、コンテンツも予算もBBCに遠く及ばない。 イギリスではここ数年、BBCの信頼度が下がっている。それでも、オックスフォード大学の調査ではイギリス人のうち中道派の70%、特定の政党の支持者の63%、特定の政党の強固な支持者の47%がその報道を信頼していた。 ヨーロッパの公共メディアも大半はBBCと同様、市民に信頼されているが、信頼度は若干下がりつつある。 アメリカの場合は明らかに、公共メディアを増やすことが改善につながる。60%の市民が中立な報道を求めているという事実は大手メディアも議会も無視できないはずだ。 公共メディアを育てよう そこで大胆な提案をしたい。フェイスブックなどSNS運営会社、テレビ局、新聞社、そして政府が共同出資して公共メディアを立ち上げてはどうか。目指すは公平性をモットーとし、質の高いニュースを届ける非営利のメディア。加えて、誰でも無料で視聴・閲覧できることが条件だ。 併せて地方メディアへの支援も必要だろう。アメリカにはざっと9000の地方紙があったが、2005年から20年までに、実にその約25%が経営破綻した。SNS運営会社と全米規模のメディアが共同出資し、議会が監視する基金を設立して経営難の地方紙を救済し、新規の起業を支援することが急務だ。 既成メディアも報道の質を高めることはできる。有効な方法の1つは、ニュース番組や記事の制作現場を市民に見てもらうこと。既成メディアに批判的だった人も現場の奮闘ぶりを見れば考えが変わるだろうし、制作側も人々の生の声を聞くことは励みにも刺激にもなる。 想像してみてほしい。正確性や公平性が担保された質の高いニュースに、アメリカ人がいつでもアクセスできるようになったらどうなるか。 もちろん自分の考えを裏付けるような情報ばかりを求める人もいるだろう。だがデータを見る限り、それは一部にすぎない。 公共メディアはすぐには実現しないかもしれないが、視聴率至上主義の偏向報道が対立と分断を招いたのは明らかだ。オックスフォード大学の調査を見ると、新型コロナウイルスの感染が拡大するなか党派色の強いニュース番組やニュースサイトの視聴率やページビューは減っている。 無理もない。危機のさなかに求められるのは正確な情報であり、信頼性の高いニュースなのだから。 From Foreign Policy Magazine <本誌2021年2月23日号掲載>