<適応障害の外部要因(ストレス要因)の調整は、医師など第三者にはできないこと。「特別扱いはできない」などの言い訳は許されないと心療内科医の森下克也氏は言う。対処しなければ、法的な責任まで問われかねない> 適応障害とは、どういう病気なのか。部下が適応障害にかかってしまったとき、その兆候が見られたとき、上司は一体どう行動すればいいのか――。 「職場のうつ」と呼ばれることもある適応障害。約30年にわたってその治療に当たってきた心療内科医の森下克也氏は、『もしかして、適応障害?』(CCCメディアハウス)を当事者向けに上梓。そしてこのたび、その続編的な位置付けとなる『もし、部下が適応障害になったら』(CCCメディアハウス)を世に出した。 適応障害には、家族や友人など、当事者以外にも多くの人が関わっており、なかでも職場の上司の果たす役割が計り知れないほど大きいからだ。 具体的な事例も紹介しながら、分かりやすく書かれた『もし、部下が適応障害になったら』から、ここでは一部を抜粋し、3回に分けて掲載する(この記事は第3回)。 ※抜粋の第1回:部下が適応障害? 親身に相談に乗り、仕事を減らしてあげるのが良い対応とは限らない ※抜粋の第2回:適応障害で多いパターンは、相当悪化してから、あわてて心療内科を受診すること ◇ ◇ ◇ 外部要因をいかに調整するか 第2章で述べたように、適応障害の外部要因とは、職場環境に生じている直接のストレス要因です。この外部要因をいかに調整すべきかは、組織内にいる上司としてのあなたが最も力を発揮できるところです。と同時に、医師など組織外の第三者が介入するのは困難な部分です。 適応障害の患者さんの全例に言えるのが、その調整がほぼされていないということです。過重労働、長時間勤務、パワーハラスメント、悪しき人間関係が軽減されることなく漫然と続いています。 なぜ調整が行き届かないかと上司に問うと、おそらく「忙しいから」「みんな我慢していること」「特別扱いはできない」「人員にゆとりがない」などと答えます。たしかに、その通りで、その答えに偽りはないでしょう。 しかし、本当に調整が不可能なのかというと、決してそうではないはずです。なぜなら、業務の遂行が困難になった患者さんに、「適応障害」の病名とともに「軽減勤務が望ましい」といった一筆を添えると、たいていの組織は調整に向けて重い腰を上げるからです。 外部要因の調整が実行されない理由として、次の項目が挙げられます。 ①部下の状態への認識が不足している ②調整のために割く労力の余裕がない ③そもそも調整しようという意識がない ほかにも挙げればきりがありませんが、大枠としてはこの3つだろうと思われます。そして、先の問いへの答えとして聞こえてきた数々の上司の言葉は、これらを覆い隠す言い訳にすぎません。 ===== あなたは、適応障害の部下を前にしたとき、この3つを自問してみる必要があります。そして、部下を適応障害から救うために、多忙を極める中ではあるにしろ、何かできることはないかと考えてみるべきです。 ここで一つ注意すべきは、外部要因の調整を一刻も早くしなければならないケースを見逃さないことです。もし、そうしなければ、あなたも会社も、法的な責任を問われかねません。それは、労働災害と認定されるケースです。 精神障害の労災認定要件は、次の3つです。 ①認定基準の対象となる精神障害を発病していること ②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること ③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと 精神障害の労災認定について、2000年には請求件数が212件、認定数36件でした。しかし、15年後の2015年には、それぞれ1515件、472件と急増しています。今後、さらに増加していくことが見込まれます。自己防衛という意味でも、外部要因の調整を軽く考えてはいけません。 ①の認定基準の対象となる精神障害には気分障害が含まれ、適応障害はこれに当たります。②は、ストレス源としての外部要因の存在を6ヶ月以上放置してはいけないということです。 労災認定という視点から見たとき、次に挙げる状況が部下に起きたとき、あなたはすみやかに調整すべきです。 ①月80時間以上の残業 ②2週間(12日間)以上にわたる連続勤務 ③達成困難なノルマ ④ひどい嫌がらせ、いじめ、暴行 ⑤上司や同僚、部下によるパワーハラスメント ⑥セクシュアルハラスメント これらは、労災認定を回避するためだけではなく、労災認定されかねないほどに劣悪な外部要因を取り除く義務があるという視点でとらえてください。 ちなみに、労災の認定は、あくまで個々の事案ごとに判断することになり、客観的な基準はありません。ただし、勤怠の時間だけは数字で判断できる部分なので、注意してください。万が一、労災認定の請求をされた際、月の残業時間だけは申し開きができません。あなたは上司として、厳格にこれを管理しておく必要があります。 『もし、部下が適応障害になった ――部下と会社を守る方法』 森下克也 著 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます) 『もしかして、適応障害? ――会社で"壊れそう"と思ったら』 森下克也 著 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)