<投資家はなぜ1BTCに600万円も払うのか。記事前半に続き、ビットコインの「本源的な価値」を探る> ※記事前半:ビットコインに「600万円の価値」があると米大手企業が認める理由とは ■将来得られる価値 株式の場合、「ディスカウントキャッシュフロー(DCF)」や「配当割引モデル(DDM)」に見られるように将来得られるキャッシュフローを現在価値に直すことで、「本源的な価値」を出す方法がある。DCFは、企業が将来獲得すると期待されるキャッシュフローの金額、DDMは株式を持つことで得られる配当金を市中金利などで割り引いた値だ。もし時価総額がDCFやDDMから導き出される現在価値を下回っていれば、その株式は割安と言える。 また、債券の場合、将来支払われる利子を考慮に入れて現在価値を出す。ビットコインには、株式や債券のように将来生み出す価値があると考えられるのだろうか? 注目すべきは、ビットコインのオープンソースのコードだ。オープンソースであるため、ビットコイン保有者は、ビットコインの将来像や理想の姿で意見が割れた場合、ハードフォーク(分裂)することで新たに生まれるコインに対する権利を主張することができる。ビットコインを保有することで、イノベーションがもたらす将来的な価値の恩恵を受けられると考えられるのではないだろうか。 例えば、2017年にビットコインのハードフォークでビットコインキャッシュが誕生した際、保有していたビットコインと同数のビットコインキャッシュが配布された。その後、ビットコインを保有することで、ビットコインキャッシュの他、ビットコインダイヤモンド、ビットコインゴールド、ビットコインプライベート、ビットコインSVの保有権利を主張できた。 2017年末〜2020年9月の間にビットコインを保有していた場合、ハードフォークによる恩恵という将来の価値を考えれば、以下のような4つのパターンで現在価値が出せていたことになる。 ①ビットコインだけを保有 ・・・1万225ドル ②ビットコインとビットコインキャッシュ、ビットコインダイヤモンド、ビットコインゴールド、ビットコインプライベート、ビットコインSVを保有 ・・・1万595ドル(3.7%の利回り) ③ビットコインと上記のコイン全てを30日間で売却 ・・・1万1005ドル(7.6%の利回り) ④ビットコインと上記のコイン全てを30日間で売却してビットコインに再投資 ・・・1万2405ドル(21.3%の利回り) ===== ■無形資産 株式投資において株価収益率(P/E)や株価純資産倍率(P/B)から本源的な価値を算出するやり方では、しばしばビジネスが持つ「無形資産」を測り損なってしまうことがある。その結果、思わぬ株価急落の憂き目に直面したり無形資産の恩恵を取り逃したりしてしまうケースがある。 そしてビットコインには、数々の「無形資産」があると考えることができる。 ①セキュリティ セキュリティとは、普段はあまり有り難みがわからない無形資産だ。サイバー攻撃を受けて顧客資産や個人情報を流出させたときにその重大さがわかる。 2017年消費者信用情報会社エクィファクスはハッキング攻撃を受けて1億4700万人分の個人情報を流出させた。その結果、株価は1週間で35%近く急落し、時価総額50億ドルが吹き飛んだ。また昨年11月に日本のカプコンがサイバー攻撃を受けて顧客情報など最大35万件を流出させた可能性があると発表した。発表後の1週間ほどでカプコンの株価は、16%ほど下落した。 ビットコインのセキュリティは、暗号化技術と増え続けるネットワークへの参加者に支えられており、誕生してから12年間、一度もセキュリティに関する事故を起こしていない(よく混同されるのだが、ハッキングによる巨額仮想通貨流出はビットコインのネットワークの問題ではなく、取引所の管理体制の問題である)。 ビットコインなど仮想通貨は、理論上、基盤となるブロックチェーンに対する「51%攻撃」に晒される可能性が存在する。ネットワークに参加するコンピューターの51%分が何者かにコントロールされてしまえば、ブロックチェーン上の取引記録を書き換えることができる。 しかし、2020年9月時点(ハッシュレートが127E/Hs)で、ビットコインに51%攻撃を仕掛けるためには29億ドル以上相当のハードウェアが必要になる。そして、電気代が1キロワットあたり5セントとした場合、攻撃者は1日に500万ドルを支払い続けなければならない。こうまでして51%攻撃を仕掛ける経済的なインセンティブが誰にもないことは明白だろう。 ②不正・改ざん耐性 世の中には、偽物の金や宝石、プラチナなど多くの偽造品が出回っている。1990年代に米国とカナダの証券市場を大混乱に陥れたBre-X社による鉱山詐欺事件が有名だ。カナダのBre-X社が所有する鉱山から実際に出てきた金が偽物と判明したため、最大で60億ドルあった同社の時価総額は一気に崩れた。 ビットコインの取引記録は改ざん不可能。現在の取引も過去の取引もネットワークの参加者が確認(verify)するように動機づけられており、不正・改ざん耐性の面からビットコインは資産として差別化ができている。 ===== ③再帰性理論(The Theory of Reflexivity) ジョージ・ソロスが支持する再帰性理論は、投資家は現実そのものではなく現実に対する認識を根拠に意思決定をすると主張する。つまり、より多くの人々が成功を信じれば成功の確率が高まることを意味する。例えば、アマゾンやグーグル、テスラの今日の成功は、現時点で存在するサービスや商品ではなく、多くの人々が成功する将来の姿を認識しているからだ。 成功を信じる人が多くなればなる人、それがポジティブなフィードバックループとなってさらなる信者を呼び込む現象が再帰性だ。ビットコインは、過去に「死亡説」や大規模ハッキング事件、バブル崩壊といった危機を何度も乗り越え、未だに多くの人々を魅了し続けている。「ビットコインの未来を信じている」という人々の認識によってビットコインは結果的に成功している。 通貨とビットコイン 円やドルなどの法定通貨は「価値の尺度」、「交換価値」、そして「価値の保存手段」として機能することで価値が生まれると考えられており、根拠となるのは発行体となる国だ。金が法定通貨の価値の裏付けではなくなり国の競争力や信頼性のみが根拠となったのが1971年。今の形での法定通貨は、実は誕生してからたった50年しか経っていないのだ。 最近では資産としての価値が注目されたビットコインだが、元々は通貨として法定通貨の代替手段として提案された。しかし、ビットコインは、通貨として本源的な価値がないとよく言われる。 ビットコインは「価値の尺度」と「交換価値」として機能するが、高いボラティリティから「価値の保存手段」になりえないというのがよく聞く理由だ。確かに今日1ビットコイン=500万円だったのに明日には1ビットコイン=600万円になることもある(もちろん、その逆もある)。 しかし、ビットコインのボラティリティは年々小さくなってきている。 「ビットコイン価格とボラティリティ(30日間ローリング、年率換算)」 また、先述の通り、最近では米国の機関投資家をはじめとして投資のプロが参入してきている。流動性が高まるとともに様々な形の思惑買いが増えることから、今後はますます相場が一方向に偏りづらくなるかもしれない。この点でもさらなるボラティリティの低下が期待できそうだ。 お金の7つの特性とビットコイン セントルイス銀行によると、お金には「耐久性」、「持ち運びやすさ」、「分割しやすさ」、「単一性」、「限られた供給量」、そして「普及率」という7つの特性がある。以下のように、ビットコインは7つの特性を全ての特性を持っていると考えることができる。 ===== 「耐久性」(durability) ビットコインを誤って知らないアドレスに送金したり秘密鍵を紛失したりするとビットコインは永遠に失われることになる。しかし、ビットコインそれ自体が破壊されることはない。 「持ち運びやすさ」(portability) 1ドルであろうと10億ドルであろう、どんな量のビットコインもPCやスマホに保管でき持ち運びできる。 「分割しやすさ」(divisibility) 1ビットコインは、小数点以下第8位(0.00000001)まで分割できる。0.00000001ビットコインは、「1サトシ」という単位で 呼ばれている。 「単一性」(uniformity) ビットコインは違う時期と場所で生成されるが、どこでも1ビットコインは1ビットコインだ。 「限られた供給量」(limited supply) ビットコインの供給量上限は2100万ビットコインだ。 「普及率」(acceptability) 2020年10月時点で、ビットコインは世界で1万6000のビジネスによって何らかの形で使われている。まだ発展途上ではあるが、2013年11月の約550ビジネスと比較して、2万8000%の上昇だ。 終わりに 上記に掲げたビットコインの本源的な価値を示す理論は、仮説段階のものが多いものの、本源的な価値について考えるきっかけになったのではないだろうか。 デジタル資産と伝統的な資産の価値の測り方が同じでなければならないという根拠はどこにもない。オープンソースコードなど、デジタル時代ならではの新たな手法に基づいた本源的な価値の導き方に関しては今後も研究が必要だ。また、伝統的な価値尺度では測れない無形資産をビットコインは複数持っている点も忘れてはならない。 再帰性理論が主張するように、本源的価値のあるなしは、結局、人々がそう思うかどうかにかかっているかもしれない。最近ではストック・フロー分析がようやく人々に浸透し始めているが、最終的にはどの理論がビットコインの本源的な価値を示す理論として最有力になるか注目だ。 生誕から12年。ビットコインの本源的な価値をめぐる研究は始まったばかりだ。 [筆者] 千野剛司 クラーケン・ジャパン(Kraken Japan)- 代表慶應義塾大学卒業後、2006年東京証券取引所に入社。2008年の金融危機以降、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画し、日本取引所グループの清算決済分野の経営企画を担当。2016年よりPwC JapanのCEO Officeにて、リーダーシップチームの戦略的な議論をサポート。2018年に暗号資産取引所「Kraken」を運営するPayward, Inc.(米国)に入社。2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)修了。