<約45億年前に火星くらいの大きさの天体「テイア」と原始地球が衝突し、月ができたとする「ジャイアント・インパクト説」。その天体「テイア」が、地球深部に存在するとの説が発表された......> 月の起源については、約45億年前に火星くらいの大きさの天体「テイア」と原始地球が衝突し、周囲に拡散した破片が集まって月が形成されたとする「ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説)」が広く知られているが、テイアの存在を示す証拠は未だに見つかっていない。 ●参考記事 「地球の内核に新たな層が存在する」との研究結果 テイアは月よりも大きいと考えられており、残された物質の行方も不明だ。 ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説)ーNASA 地球の核-マントル境界にテイアの遺物が残されている 米アリゾナ州立大学の博士課程に在籍するチェン・ユアン研究員は、2021年3月にオンラインで開催された第52回月惑星科学会議(LPSC)で、「地球の核-マントル境界にある『大規模低せん断速度領域(LLSVPs)』にテイアの遺物が残されているのではないか」との説を発表した。 アフリカと太平洋には、広範囲にわたって地震波の伝播速度に異常がみられる「大規模低せん断速度領域」が存在する。その質量は月の質量よりも大きく、地球の質量の2〜6%を占める。 「大規模低せん断速度領域」は、月の形成に至る衝突があったときから存在していたと考えられている。米カリフォルニア大学デービス校のスジョイ・ムコパディヤーイ教授は、ハーバード大学在籍時の2012年に発表した研究論文で、アイスランドで採取した海洋島玄武岩(OIB)を分析し、「大規模低せん断速度領域」が月よりも前に存在したことを示した。 「密度の大きいテイアのマントルが地球の最下部マントルに沈み込んだ」 テイアのマントルは、地球のマントルよりも密度が高いと推測される。フランス国立科学研究所(CNRS)らの研究チームは、2014年に発表した未査読の研究論文で、地球と月のケイ酸塩マントルの化学組成を用いてテイアのマントルの化学組成をシミュレーションし、「テイアのマントルの密度は地球よりも2〜3.5%高い」と推定した。 ユアン研究員らの研究チームも、テイアのマントルの密度をシミュレーションし、「テイアのマントルの密度は地球よりも1.5〜3.5%高い」との結果を得ている。このことから、ユアン研究員は、「密度の大きいテイアのマントルが地球の最下部マントルに沈み込み、『大規模低せん断速度領域』をもたらす『サーモケミカル・パイル(密度の大きい物質が蓄積した高温の領域)』に蓄積されていったのではないか」と考察している。 月と「大規模低せん断速度領域」は大衝突による「ふたごの産物」か ユアン研究員は、「大規模低せん断速度領域」が非常に大きく、月が形成される前から地球に存在し、テイアのマントルの密度が地球のマントルよりも大きいことを根拠として、「『大規模低せん断速度領域』にテイアの物質が含まれている可能性がある」と主張。「この突拍子もない考えはあり得る」とし、「月と『大規模低せん断速度領域』は、テイアと原始地球との大衝突による"ふたごの産物"かもしれない」と述べている。 2021_LPSC_Yuan