<パンデミックによって車上生活などを送るノマド生活者の数は増えている> さまざまな理由で住む家を失い、バンなどで車上生活を送るアメリカの「ノマド(遊牧民)」たち。キャンプ場やアマゾンの配送センターなどで季節労働者として仕事をしながら、各地を転々とする彼らの多くは高齢者で、2008年のリーマンショック後に増えたという。 そんなノマドをフランシス・マクドーマンドが演じた話題作『ノマドランド』が日本公開中だ。映画は放浪生活の厳しさとともに、同じ境遇にある人々のコミュニティーの温かさも映し出す。登場人物のほとんどが本物のノマドであり、まるでドキュメンタリー映画を見ているような気持ちにもさせられる。 クロエ・ジャオ監督にとっては3作目の長編で、2月末のゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞と監督賞を受賞。アカデミー賞でも作品賞、監督賞、主演女優賞など6部門でノミネートされている(授賞式は4月25日)。 原作となったのは、ルポルタージュ『ノマド――漂流する高齢労働者たち』(邦訳・春秋社)。著者であるジャーナリストのジェシカ・ブルーダーに、本誌・大橋希が話を聞いた。 ◇ ◇ ◇ ――ノマドについて、取材の前後で見方が変わったところはあるか。 取材に取り掛かったころは、キャンピングカーで生活しながら国中を旅する彼ら高齢者は、大自然の中で休暇を楽しむように定年後の生活を楽しんでいる人たちだと思っていた。しかし実際に話を聞いてみると、かなり状況が違うことが分かった。 路上を旅する中でいろいろなコミュニティーを作っていることや、彼らの多くがとてもクリエイティブでねばり強くチャレンジをする人々であることを知った。ただし、ノマドが雇われる仕事はとてもハードで、例えばキャンプ場の案内係をしていてあばら骨を折った人がいる。そんな大変な目にあっているということも分かった。 ――ノマドたちがアマゾンの配送センターで働く姿を見て、彼らは搾取されていると感じた。だから、アマゾンが撮影に協力的だったことに少し驚いた。 裏でどういう交渉があったかは分からないが、非常に協力的だった。内部で撮影ができたことには私も驚いた。 「パンデミックの影響でノマドは増えるのではないか」とジェシカ・ブルーダーは話す (C)Todd Gray ――もしあなたが家賃を払えないような生活になったとき、ノマドの生活を選ぶ可能性は? どういう選択肢があるかにもよるが、たぶん検討すると思う。もしかすると姉妹の家で一緒に生活するかもしれないが、追い出されるかもしれないし。どの企業も、車上生活をしているノマドのような人々を雇いたがる。仕事があるというのは、ノマド生活の魅力の1つ。私はまだ彼らのような年齢にはなっていないが、高齢者にとっては仕事ができることは喜びだと思う。 ――リーマンショックはノマドが増えた1つの理由だ。現在の新型コロナウイルスの影響で、ノマドが増えている可能性もある? 多くなっているという話は聞く。実際、私の友人の1人が仕事を解雇され、家賃が払えなくなって車上生活を始めた。 今は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)のために、家賃を滞納しても家主から立ち退きを求められない「モラトリアム」の法律がある。ただし3月末までの措置なので、そこを過ぎると多くの人が家を追い出される状況になる。車上生活に入る人は増えるのではないか。 ===== ――ノマドはアメリカで広がる格差の象徴だ。でも映画は、どこか希望を感じさせるような内容だった。 あなたのような意見は聞くし、反対に「暗くて悲観的だった」という声も聞く。そうした異なる意見が出るのはとてもいいことだと思う。私の本に関してもいろいろな感想があり、現代版「怒りの葡萄」(ジョン・スタインベック著)のようだと言う人もいれば、「私もああいうロードトリップに出たい」と言い、明るいものとして捉えた人もいる。 私は映画を見て、痛々しいほどの孤独を感じた。最後のほうではこの旅はまだ続く、苦労も続いていくと思ったし、それほど明るい作品とは思わなかった。 ある意味、(ノマド生活の)両面を見せており、観客それぞれの気持ちで変わってくるのではないか。 ――クロエ・ジャオ監督やフランシス・マクドーマンドとはどんな話をした? クロエとは韓国料理店で初めて会った。そのときは映画についてまだ決まっていないことが多く、私が本に書いたこと、書かなかったことについて情報を共有した。彼女はRTR(ノマドたちが砂漠で開く会合)に行ってみたといい、それについての話もいろいろと出た。 フランシスとは、私が1週間アリゾナの撮影現場を訪問したときに初めて話をした。 ――何か印象的なことはあった? 彼女は疲れているようだった。役にすべてを捧げている感じだったし、砂漠の中だったから。でもとにかく素晴らしい人だったのは確か。 ――リンダ・メイなど本に登場する実際のノマドたちも出演していて、ドキュメンター映画のようでもあった。リンダたちの出演はあなたの提案か。 クロエは以前の作品でも、演技の未経験者を起用している。だから、彼女から「リンダに映画に出てもらうのはどう?」と聞かれたとき、非常にいいアイデアだと私は答えた。最終的には監督・脚本家のクロエが決めたことで、リンダたちも素晴らしい仕事をしたと思う。