<イスラム教徒が大多数を占める国で、復活祭を前にしたキリスト教会が何者かによって襲われた──> インドネシア・スラウェシ島の最大都市マカッサル市内にあるキリスト教会で3月28日午前爆発があり、これまでに2人が死亡、約20人が負傷した。インドネシア国家警察などは爆発はテロリストによる「自爆テロ」とみて捜査を始めた。 現地からの報道によると、28日午前10時半ごろ(日本時間同11時半ころ)マカッサル市内カジャオラリド通りにあるカトリック系「カテドラル教会」の入り口付近で大きな爆発が起きた。 目撃者などの情報としてバイクに乗った2人組が教会の敷地内に入ろうとしたところ、教会の警備員に止められた直後に爆発が起きたもので、2人組による自爆テロとみられている。 自爆テロ犯2人が死亡したほか、警備員などの教会関係者やミサに参列していた信者ら約20人が負傷、市内の各病院に搬送されて手当てを受けているという。 「カテドラル教会」では28日、キリスト教の復活祭前の聖週間初日にあたる「パームサンデー」のミサがちょうど終わったところで、参列者らが教会を出ようとしていたところだったという。 国家警察本部や警察対テロ特殊部隊「デンスス88」などによると、これまでのところ自爆テロの犯行声明は出ていないというが、イスラム教系テロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」のメンバーによる犯行との見方を強めている。 ジョコ・ウィドド大統領らが緊急声明 自爆テロ事件を受けてジョコ・ウィドド大統領は28日、オンライン記者会見で緊急声明を発表してテロを厳しく非難するとともに「治安当局に断固とした強い措置をとるよう指示した。国民はテロに屈することなく、また平静を保つように」と呼びかけた。 さらにイスラム教組織の「インドネシア・イスラム法学者評議会(MUI)」も「今回のテロを厳しく糾弾する」という声明を明らかにしたほか、マフード政治法務治安担当調整相も「これは国民の安全、国家の統一を破壊する重大な犯罪であり断じて容認できない」とテロを批判するなど、コロナ禍の真っ最中に発生したテロ事件だけに政府は緊急対応に追われた。 過去にもキリスト教会狙ったテロ インドネシアでは2018年5月にジャワ島東ジャワ州のスラバヤで市内にある3カ所のキリスト教会で連続自爆テロ事件が発生し15人が死亡している。この事件は中東のテロ組織「イスラム国(IS)」に共鳴するテロリストの夫妻とその子供という一家による連続自爆テロだった。 2002年10月には国際的な観光地バリ島で連続爆弾テロ事件が発生。外国人観光客を含む202人が犠牲となっている。それ以降2005年5月にスラウェシ島でキリスト教徒の市場を狙った爆弾テロで22人が死亡したほか、同年10月にはキリスト教徒の少女3人が斬首殺害され、2011年8月のイスラム教徒の断食中にスマトラ島リアウ州のキリスト教会が襲撃される事件が起きている。 さらに2018年11月にはカリマンタン島サマリンダのキリスト教会で爆弾が爆発し1人が死亡するなど、キリスト教会、キリスト教信者に対するテロ攻撃があとをたたない状況が続いている。 ===== 2020年11月には今回自爆テロが起きたマカッサル市のある南スラウェシ州に隣接する中部スラウェシ州の山間部でキリスト教徒4人が斬殺される事件も起きている。中部スラウェシ州では州都パルなどでイスラム系テロ組織「東部インドネシアのムジャヒディン(MIT)」によるテロ事件が相次ぎ、国家警察や軍によるMIT掃討を目的とした「ティノンバラ作戦」が継続されている。 「多様性の中の統一」が国是 今回の自爆テロもキリスト教徒、キリスト教施設をターゲットにしたテロ事件であることからジョコ・ウィドド大統領やMUIも今回の自爆テロを受けて「宗教に関係なくテロという卑劣な行為は非難されるべきである」と宗教の違いによる対立激化への強い懸念を表明した。 インドネシアは人口約2億7000万人のうち約88%がイスラム教徒と世界最大のイスラム教徒人口を擁しているが、憲法ではイスラム教以外にキリスト教、ヒンズー教、仏教なども認めており、いわゆる「イスラム教国」ではなく、「多様性の中の統一」や「寛容」を国是としている。 容疑者の身元不明で捜査は難航か 警察によるとこれまでのところ自爆テロ犯の身元は特定されていないが、2人は男女とみられている。 「カテドラル教会」近くに設置された監視カメラには白い乗用車が通り過ぎた直後に爆発が発生、道路が大きな白煙で覆われる状況が映し出されており、繰り返しその映像が地元テレビのニュースでは放映された。 これまでのところ自爆テロ犯の背景は分かっていないが、スラウェシ州を主な活動拠点とする「MIT」の関与を疑う見方もあったが、国家警察は28日夜、ISに忠誠を誓う「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」が関与しているとの見方を強めている。 マフード調整相は28日、全国の宗教関連施設や公共施設での警戒警備の強化を警察に指示、コロナ禍の中でのテロ事件にインドネシアでは緊張が高まっている。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ===== 自爆テロの爆発の映像 インドネシア・スラウェシ島の最大都市マカッサル市内にあるキリスト教会「カテドラル教会」の入り口付近で大きな爆発が起きた。 KOMPASTV / YouTube