<画期的だった2020年の躍進を維持しつつ、多様性や環境、従業員重視、得意分野での貢献を目指せ> 2020年は、CSR(企業の社会的責任)にとって画期的な年となった。米企業と経営者は、これまでになく積極的に行動した。大統領選挙で不正があったという虚偽情報を流した政治家への献金を停止。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で職を失った人々の支援に数億ドルを寄付した。黒人が白人警官に殺され、BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動の一部が暴徒化すると、社会正義実現プログラムの支援にも巨額の資金を拠出した。 だが、ビジネスリーダーがさらに一歩前進し、昨年の約束を実行に移さなければ、せっかくの取り組みも無意味になりかねない。「公表した約束は組織全体の目標と不可分な関係にあることを認識し、リーダーが積極的に進捗状況を確認することがとても重要だ」と、会計大手プライスウォーターハウスクーパーズで「責任あるビジネス」部門を担当するジェフ・セーニは言う。 では、20年の成果を基に21年は何をしなければならないのか。今年のトレンドをご紹介しよう。 ◇ ◇ ◇ ダイバーシティー(多様性)に全力投球 20年に始まった人種間の対話をやり抜くには、今年が「決定的に重要な年になる」と、ケーブルテレビ大手コムキャストのデライラ・ウィルソンスコット上級副社長(チーフ・ダイバーシティー・オフィサー)は言う。「人種問題への意識が世界的に高まり、企業は自社の経営方針、慣行、フィランソロピー(社会貢献)、投資行動の査定を迫られた」。今後は結果を出さなければならないと、彼女は付け加える。 保険大手プルデンシャル・ファイナンシャルのラタ・レディ上級副社長(インクルーシブ・ソリューション担当)は、口先だけの約束を消費者に売り付ける企業と「公正さをビジネスの必須条件とする企業の二極化が進む」と予測する。 多様な人材を採用しても、その従業員が成功するための土台がなければ意味がない。経営層の多様性を高め、より多様な消費者のニーズを満たす製品やサービスを開発し、地域社会に投資する企業は、「有言実行」の姿勢を示すことで他社との差別化を図れるはずだ。 新しいダイバーシティーの指標の例としては、カジュアル衣料大手GAPなどの小売企業が採用している「15%の誓約」がある。商品棚の15%を黒人所有の企業に割り当てるというものだ。 グリーン経済は続く 20年はサステナビリティー(持続可能性)に関する取り組みが主流のトレンドになった。「二酸化炭素(CO2)の排出制限をはじめ、規制当局による義務化の流れは、世界中の多国籍企業の経営指標に大きな影響を与えるはずだ」と、大企業のCO2排出量報告を支援する新興企業パーセフォニの上級副社長(チーフ・サステナビリティー・オフィサー)ティム・モーインは言う。 資産運用大手ブラックロックのラリー・フィンクCEOは今年の年次報告書で、この現象を「地殻変動」と呼び、20年の持続可能な資産への投資は19年に比べて96%増加したと指摘した。 環境問題への取り組みが百八十度変わったように見える企業の一例が、自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)だ。同社は最近まで、カリフォルニア州が新たに導入した厳しい排ガス規制に反対するトランプ前政権を支持していたが、ジョー・バイデン大統領が就任すると、抵抗をやめた。最近では、2035年までにガソリン車の新車販売をやめる計画を発表している。 ===== 従業員重視の姿勢 コロナ禍で浮き彫りになった構造的問題の1つは、誰もが等しく繁栄の恩恵に浴せているわけではないという現実だ。女性、とりわけ有色人種の女性はコロナ不況による失業に見舞われやすく、育児や介護に携わっている従業員への支援もとうてい十分とは言い難い。 しかし、21年には「ようやく経済・資本システムにおける『人間』の重要性が認識され始めるだろう」と、サステナビリティー・CSRアドバイザーのデーブ・スタンギスは予測する。企業の人事戦略では、従業員の健康、安全、幸福度への配慮が重要な要素になると指摘するのは、半導体大手インテルのCSR責任者であるスザンヌ・ファレンダーだ。 瞑想アプリの「ヘッドスペース」のようなテクノロジーを導入して従業員のメンタルヘルス向上を支援している企業は多い。だが、そうした取り組みを実効性あるものにするためには、育児・介護休暇、十分な賃金の支払い、職場の安全性確保などに本腰を入れることが不可欠だ。 ビジネスリーダーや社会変革を目指すリーダーたちが21年2月に署名した「母親のためのマーシャルプラン」は、家庭でケアの役割を担う女性たちに経済的に報いようという動きの1つと言える(この名称は、第2次大戦後にアメリカが欧州経済復興のために行った巨額の援助計画マーシャルプランにちなんだもの)。 今後は「透明性が高く人間中心のリーダーシップが重んじられるようになる」と、テクノロジー大手デル・テクノロジーズのジェニファー・デービス上級副社長は指摘する。その結果、コロナ禍により仕事の在り方が変わるなかで「働き方の柔軟性に関する考え方も変わる」という。 インパクトの大きい活動 21年には、自社が大きなインパクトを生み出せる領域での社会貢献活動に力を入れる企業が増えると予想される。 テクノロジー大手ヒューレット・パッカード(HP)のグローバル・ソーシャルインパクト責任者を務めるミシェル・マレイキによれば、同社が重視する領域の1つが富裕層と貧困層のデジタル格差だ。同社はコロナ禍でダメージを受けた地域コミュニティーへの1000万ドル以上の支援に加えて、デジタル格差を解消するために教育機関と協力して、黒人、先住民、中南米系の子供たちと教員への支援も行っている。 自社に直接関係がある社会問題に取り組んでいる企業としては、動物用医薬品メーカーのゾエティスも挙げられる。同社では獣医師のメンタルヘルスを社会貢献活動の中心テーマに据えていると、サステナビリティー責任者のジャネット・フェラン・アストルガは言う。具体的には、動物のケアに携わる人たちを支援する団体に寄付を行っている。 ◇ ◇ ◇ コロナ禍の中で企業が社会貢献を積極的に実践してきたことには、確かに勇気づけられる。しかし、まだ十分には程遠い。企業が自社の持つ力を生かして社内と社会の公平性を高めようと努めなければ、やがて元の状態に逆戻りしてしまうだろう。 企業が社会貢献を通じて「人々の最も切実なニーズ」に応え、「全ての人に長期にわたり恩恵をもたらす」状況をつくり出すように、社会の共通認識を改めるべき時期に来ていると、サステナビリティー関連のコンサルティングなどを行う非営利団体BSRのアーロン・クレーマーCEO兼プレジデントは言う。 社会をよくするためにビジネス界の力を最大限引き出すには、それは避けて通れないことに思える。