<コロナ感染を恐れて癌などの治療を延期した場合、死亡リスクはどれだけ高まるのか。早期の治療は感染リスクに見合うのか> 新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、癌患者(と医師たち)は深刻な悩みに直面している。感染リスクを考えて、癌の治療を先延ばしにすべきか、予定どおりに始めるべきか──。 この判断にはいくつもの要素が絡んでくるが、患者と医師の話し合いを助けてくれるアプリが登場した。 これはミシガン大学アナーバー校の研究チームが開発したOncCOVIDというアプリ。米国医師会報(JAMA)の癌治療専門誌に掲載された論文によると、患者の基本情報と癌の種類やステージ、そして治療方法などを入力すると、治療を遅らせた場合と、すぐに実行した場合の生存率を算出してくれるという。 「OncCOVIDは、リスクに関して具体的に検討可能な出力結果(治療を特定の期間遅らせた場合、生存期間が何週間あるいは何カ月短くなるかなど)を示してくれるため、医師と患者は治療のタイミングについて話し合いやすくなる」と、論文を批評したJAMAのエディトリアル(巻頭辞)は指摘している。 癌患者が新型コロナに感染しやすいことは、中国で行われた大規模な調査によって明らかになっている。癌そのもの、または化学療法や手術などの治療によって、免疫機能が低下しているためだ。 「さらに、癌患者は新型コロナに感染すると、重症化する可能性が高い」と、中国の研究チームは、2020年に英医学誌ランセットの癌専門誌に掲載された論文で明らかにしている。「従って医師は、患者の症状が急速に悪化する場合に備えて、癌患者にもっと気を配るべきだ」 その上で中国の研究チームは、新型コロナの流行地域では、症状が安定している癌患者については補助放射線療法や選択的手術の延期を検討するべきだと提言している。OncCOVIDは、まさにこうした治療延期が個別のケースで具体的にどのような影響をもたらすかを予測する助けになる。 おおまかな仕組みは次のようなものだ。患者または医師は、ウェブベースのアプリに年齢や性別など患者の基本情報のほか、癌の種類やステージなど最大47項目の関連データを入力する。そこに近隣の病院に入院している新型コロナ患者の数が加えられる。 ===== さらに境界内平均生存期間(RMST)という指標で、癌患者が治療を遅らせた場合と、すぐに行った場合の死亡リスクが算出される。 そして研究の結果、「個々の患者の推定生存率は、年齢や併存疾患の数、現在受けている治療法、そして居住地域のコロナ死亡リスクと関連している」ことが分かった。 例えば、ニューヨーク在住の70歳の女性は、コロナ禍の第1波のピーク時に、ステージ2のトリプルネガティブ乳癌にかかっていた。そのうえ糖尿病と高血圧という基礎疾患もある。OncCOVIDによると、この女性が標準的な治療(乳房温存手術と化学療法と補助放射線療法)をすぐに開始すると、治療を3カ月遅らせる場合よりも、5年生存率が8%低下する可能性があったという。 とはいえ、コロナ禍が再び拡大傾向にあるなか、たとえOncCOVIDで「治療を3カ月遅らせたほうがいい」という予測が出ても、実際の3カ月後には、病院での感染リスクが著しく高まっている恐れもある。そう考えると、やはりこのアプリが示す予測は、医師と患者の話し合いのたたき台くらいに受け止めたほうがいいのかもしれない。 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びますSPECIAL ISSUE「世界の最新医療2021」が好評発売中。低侵襲がん治療/再生医療/人工関節置換/アルツハイマー/心臓/生殖医療/AI/遺伝子検査/感染症ワクチン/遠隔医療/健康診断......。医療の現場はここまで進化した。