<米連邦議会議事堂を襲撃した過激集団に愛用されてイメージ悪化に頭を抱える企業が続出> マーベル・コミックスが厄介な問題に直面している。それも、どちらかといえばB級キャラクターである「パニッシャー」のブランドイメージに関する問題だ。 パニッシャーは、マーベルのコミックに登場するヒーローの中でも珍しく冷酷なキャラとして知られる。かつてはアメリカの海兵隊員だったが、家族を惨殺されたのを機に、悪者たちに死の裁きを与えるダークヒーローに変わった男なのだ。 マーベルの悩みの種は、そんなパニッシャーが今年1月、ワシントンの米連邦議会議事堂になだれ込んだ暴徒たちの間で熱狂的に支持されていることだ。昨年の米大統領選でドナルド・トランプ大統領が敗北したことを認めず、選挙結果を承認する手続きが行われている議事堂を襲撃し、5人の死者を出す騒動を起こした連中だ。 暴徒たちは、トランプ選対の公式グッズである赤いMAGAハットや、「トランプ2024」という横断幕と共にアメコミのロゴを身に着けていた。なかでも多かったのが、パニッシャーのトレードマークである黒地に白いどくろのロゴだ。 ネットフリックス制作のドラマ『Marvel パニッシャー』に主演した俳優ジョン・バーンサルは、「(連邦議会を襲撃した)人々はだまされ、敗北して、恐れている。それは(パニッシャーが)体現する理念とは全く異なる」と、ツイッターで不快感をあらわにした。 ファンの間では、いっそパニッシャーというキャラクターをお払い箱にしてはどうかという声もある。パニッシャーの生みの親であるコミックライターのジェリー・コンウェイも、「その可能性を考えることもある」と語った。「キャラクターに問題があるわけではなく、アメリカ社会の現在の状況を考えるとね」 だがマーベルは何度も映画化されている『パニッシャー』のリブート版を企画中ともいわれ、具体的なコメントを出すことは拒否している。 自社ブランドの知的財産権が侵害された場合、コピー商品のメーカーや小売店を相手取って裁判を起こすことはできる。だが人気商品であるほど、いたちごっこになる可能性は高い。ウェブ雑誌ザ・ファッション・ロー(TFL)のジュリー・ザーボ編集長は、「例えばナイキが20の模倣品販売ウェブサイトを訴えても、差し止め命令が出るまでの間に新たなサイトが20できているだろう」と語る。 ===== フレッドペリーのシャツは極右組織の「制服」に SPENCER PLATT/GETTY IMAGES PR上の問題もある。ニューヨーク大学法科大学院イノベーション法律・政策センターのジーン・フロマー共同所長は、ブランド側は「消費者を敵に回したがらないことが多い」と語る。「だから法的措置を取るかどうかは、PR上のプラスマイナスを計算した上での判断になる」 また、議事堂襲撃事件の暴徒たちが公式ライセンス商品を着用していたら、たとえブランドイメージが悪化したとしても、マーベルには法的措置を取る根拠がない。 極右団体の「制服」に? アパレルメーカーのフレッドペリーも、同じような問題に直面している。襲撃に参加した極右組織プラウド・ボーイズが、フレッドペリーの黒地に黄色いラインの入ったポロシャツを非公式の「制服」に採用したのだ。トレードマークのローレルリースを勝手にアレンジしたロゴ入りだ。 フレッドペリーは昨年9月、黒地に黄色いライン入りのポロシャツの販売を打ち切り、「プラウド・ボーイズは全く無関係の団体だ」と声明を出した。 マーベルは、そこまでやる意欲は示していない。それにパニッシャーを葬っても、どくろマークの不正使用は止まらない可能性がある。真の問題は、パニッシャーはゆがんだ正義の味方なのか、ファシスト的な殺し屋なのかが明確でないことかもしれない。 コンウェイがパニッシャーというキャラクターを発案したのは1970年代初頭のこと。最初はスパイダーマンの脇役だった。 ベトナム戦争の影を引きずる当時のアメリカでは、都市犯罪が増加し、政府は国民からの信頼を失い、『ダーティハリー』や『狼よさらば』といった暴力的な復讐を描いた映画が大ヒットしていた。「社会の統制が失われたという感覚」や「公的機関が果たせなくなった役割を担い、秩序を取り戻す私刑執行人の到来」への期待から生まれたパニッシャーは「世相を映す鏡」だったと、コンウェイは言う。 後年、コンウェイはパニッシャーのイメージが独り歩きを始めていることに気が付いた。アメリカの海兵隊員がパニッシャーのどくろのロゴを制服に着けているのをイラクの兵士たちが見て、それをまねているという記事を読んだ時だった。 ===== パニッシャー役のバーンサルはどくろマークの「目的外利用」に不快感を表明 AMANDA EDWARDSーWIREIMAGE/GETTY IMAGES SEALs(米海軍特殊部隊)の隊員だったクリス・カイルは回顧録『アメリカン・スナイパー』の中でこう語っている。「彼(パニッシャー)は悪を正し、悪者を殺した。悪事を行う者たちを震え上がらせた。われわれの存在意義もまさにそれだった。だから私たちは、彼のシンボルであるどくろを自分たちのシンボルとして取り入れた」 コンウェイは、兵士たちがパニッシャーに引かれるのはある程度理解できると語る。パニッシャー自身、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱える元軍人だ。 それでも昨年夏、BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)のデモが行われた際に警察官の一部がどくろを自分たちのシンボルとして使い始めたのを見たときには、ひどく当惑した。「ブルー・ライブス・マター(警官の命は大事)」運動の支持者らが考案した黒と白と青の星条旗のデザインが、どくろと一緒にバッジやステッカーに使われていたのだ。 イメージの「独走」は続く 「警察がたとえ非公式であっても、このキャラクターを使うというのは、私から見れば全く不適切であるばかりか、ショッキングでもあった」とコンウェイは言う。 そこでコンウェイは有色人種のアーティストたちにどくろマークTシャツをデザインしてもらい、作品を販売する活動を始めた。Tシャツの売り上げ(コンウェイによれば既に7万ドルを超えている)は全て、BLM運動に寄付されている。 「ソーシャルメディアのおかげで思想や考えと視覚的イメージが結び付きやすくなるとともに、パッケージ化された記号として流通しやすくなった」と語るのは、バージニア工科大学のジャネット・アバテ教授だ。その結果、イメージは「もともと持っていた意味から離れていく」と言う。 オルト・ライト(白人至上主義の極右勢力)に詳しいアラバマ大学のジョージ・ホーリー准教授(政治学)によれば、「あからさまな人種差別主義者の右翼」に比べ、自由意思論者(リバタリアン)や民兵組織「スリー・パーセンターズ(3%ers)」のような「少しだけ一般社会寄りの右翼」は、パニッシャーのような大衆文化の視覚イメージを借用する傾向が強いという。 パニッシャーのどくろのマークに対しては、さまざまな人々がそれぞれ異なる意味合いを付与してきた。そして今後も、この手の大衆文化の視覚イメージの流用や意味の付け替えがやむ気配はない。 ニューヨーク大学のフロマーは「こうした事例はこれからも増えていくだろう」と言う。ネットを介してイメージや情報が拡散するミーム文化の中でわれわれは生きているからだ。「こうしたイメージの勝手な利用は今後も、一般社会でも過激派集団でも同程度に続いていくと思う」