<テスラ株が10倍に値上がりするなど脱炭素マネーは膨張を続けているが、これを「バブル」と懸念する声は正しいのか> 米EV(電気自動車)大手テスラの株価は、昨年3月から今年1月までに実に10倍に跳ね上がり、創業者でCEOのイーロン・マスクはまさにグリーン・イノベーションの顔となった。 「テスラ現象」はEV業界全体に波及。技術的にも未知数で、収益もろくに上げていない新エネルギー関連の新興企業も、おこぼれにあずかっている。 こうした状況を見て、及び腰の政府を尻目に起業家と民間投資家の主導で「グリーン革命」が始まったと楽観視する向きもある。一方で、「グリーンテック」(EVや再生可能エネルギー関連の新技術。クリーンテックとも呼ばれる)への投資ブームはバブルの段階に入っていると、警告を発するアナリストもいる。 確かに市場の過熱は危うさを伴う。IT関連株への初期の投資熱が1990年代末の「ドットコム・バブル」を招いたように、いまグリーンテックに流入している資金もいつ引き揚げられるか保証はない。 各国の中央銀行がインフレ率を下回る政策金利を設定するようになって10年になる。そもそもインフレ率自体、記録的な低水準だ。結果、安全資産の利回りは実質的にマイナスとなり、リスクが大きい代わりにリターンも大きい商品に投資家が群がるようになった。 グリーンテック株が注目される前には、「ユニコーンバブル」なるものがあった。次のGAFAやネットフリックスに化けることを期待して、時価総額10億ドルを超えるIT関連の新興企業の未上場株をヘッジファンドなどが買いまくったのだ。 FRB(米連邦準備理事会)はコロナ禍対策として「最大限の雇用と一定期間2%を超えるインフレ率」を達成するまでは金利を据え置く方針だ。だがアメリカではジョー・バイデン大統領率いる新政権下でワクチン接種が急ピッチで進んでいる。感染拡大が収まれば資本市場も正常化に向かうだろう。 となると、問題は「グリーンバブルははじけるか」ではなく(どんなバブルもいずれははじける)、はじけた段階でグリーン革命実現に向けた準備が整っているかだ。いま流れ込んでいる資金は無駄になるのか、革命を新常態にするためのインフラ整備に活用されるのか。 ===== エネルギーの供給と消費を根本的に変えるには、巨額の公共投資と税制や規制強化によるテコ入れなど政府の主導が欠かせない。20世紀後半のデジタル革命の歴史を振り返れば、それは明らかだ。 技術革命において、政府はリスクの高い計画に多額の税金をつぎ込むことを国民に納得させるため、政治的な理由付けをしなければならない(例えば宇宙開発なら「冷戦に勝利するため」など)。その上で基礎研究に資金を提供する必要がある。グリーン革命も同様だ。将来的なリターンは不確実で、民間部門が投資を控えるような研究開発には、まず政府が資金を提供し、民間投資を呼び込む下地を整えることが必須だ。 新技術が成熟段階に入ったら、政府が最初の顧客になり市場をつくり出す。製品生産の継続で学習が進み、製品単価が低減すれば、低コストで信頼性の高い生産体制が実現する。 最後が投機家の登場だ。新たなテクノロジーの潜在的革新性を見定めた彼らが、大規模展開などに求められるインフラに資金を提供し、ニューエコノミーへの期待が原動力となって生産的なバブルが出現する。 こうしたパターンの一端は前時代の産業革命に見て取れる。18世紀のイギリスでは、軍の銃器需要増加で(大量生産や分業化によって)生産性が上昇し、英中部バーミンガムは第1次産業革命の舞台になった。英議会が鉄道開発者らに土地収用権限や有限責任制を付与したことがきっかけで、1840年代には鉄道投資熱が高まった。 グリーン革命に中国が参入 アメリカでも、政府の保証や補助金が運河・鉄道網の建設を促進した。そしてイギリスの場合と同じく、政府の後に投機家が続いた。 現代の気候変動で迫られている技術革命の規模と範囲は、冷戦さえも上回る。だが、対応の在り方は大違いだ。アメリカは長らく、共和党政治家らの現実否認のせいで麻痺状態だった。自滅的な姿勢は、ドナルド・トランプ前大統領が決定した地球温暖化に関するパリ協定離脱で頂点に達した。 アメリカ不在のなか、グリーン革命をわがものにしようとしたのが中国だ。世界最大級のグリーンテック研究開発プログラムに資金提供し、風力発電やソーラーパネル生産で支配的地位を確保した。とはいえ中国のリーダーシップは、石炭依存や国内外での石炭火力発電所建設の継続によって損なわれている。 ===== 政治家と違って、アメリカの一般市民は現実を受け入れている。ピュー・リサーチセンターによれば、政府により一層の気候変動対策を求める人の割合は共和党支持者の過半数、民主党支持者の圧倒的多数に上る。 ブームの後に新世界の扉を バイデンが掲げる政策は、国家レベルで再生可能エネルギー転換を促す行動の土台を整えている。手始めがグリッドスケール蓄電の確立だ。産業・商業施設や住宅のエネルギー転換に向けたグリッド拡張や国内全土でのブロードバンド接続の展開、二酸化炭素排出がより少ない移動手段に対応する交通インフラの整備(EV充電施設など)も欠かせない。 新型コロナのワクチン接種が進むなか、議会多数派の民主党は来年の中間選挙でさらに議席を増やす可能性がある。同じことが最後に起きたのは1934年。民主党のルーズベルト政権のニューディール政策が圧倒的に支持されたときだ。 バブルか否かは関係ない。「グリーン・ニューディール」が実現すれば、グリーンテックブームの後には新たな世界が誕生しているはずだ。 ©Project Syndicate