<フォルクスワーゲンが「エイプリルフール」ネタで炎上した。コロナ禍の今こそ「笑い」が大切だと思うが、あれはちょっと......> 先週、ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲンが発表した。電気自動車(EV)シフトを進めるため、電圧の単位「ボルト」を取り入れ、アメリカ法人の社名を「ボルツワーゲン」に変更する――。 投資家は社名変更を歓迎し、株価は約5%上昇した。 しかし、社名変更は嘘。フォルクスワーゲンが仕掛けたエイプリルフールのネタだったのだ。 混乱を引き起こし、怒る記者も出てきたりして、結局、フォルクスワーゲンは謝罪する羽目になった......。 笑いのない世界はつまらない。「ボルツワーゲン」ネタが面白かったかどうかはさておき(実際、スベった理由は面白さと別にあるのだが、それは後述する)、コロナ禍で殺伐とした雰囲気の今こそ、ジョークやユーモアが必要ではないか。 日本随一のジョーク収集家でノンフィクション作家、ニューズウィーク日本版で「たかがジョーク されどジョーク」の連載も持つ早坂隆氏は、3月に上梓した新刊『世界の日本人ジョーク集 令和編』(中公新書ラクレ)の「はじめに」にこう書く。 「ちょっとしたユーモアが、人間関係や日々の生活に潤いや活力を与えてくれます......困難な時代こそ、『笑い』を大切にすべきです」 「日本人ジョーク」の新作が続々と誕生 企業のエイプリルフール・ネタやお笑い芸人も悪くないが、世相を反映したジョークも面白い。ここで、『世界の日本人ジョーク集 令和編』から1つ引用しよう。 日本でとあるアンケートが行われた。設問は「日本人は物事の白黒をはっきりさせることが得意だと思いますか?」というものだった。結果は以下の通りであった。 思う...5パーセント 思わない...8パーセント どちらとも言えない...87パーセント 早坂氏の『世界の日本人ジョーク集』の第1作が刊行されたのは2006年。同作を含む「世界のジョーク集」シリーズは累計100万部以上出ているという。くすりと笑いながら、日本や世界について学べる同シリーズは、読者から長く愛されてきた。 上のジョークは、日本人の国民性をもじったいわば「定番」ネタと言えるが、本書にはコロナ禍ならではのジョークも多数収録されている。ジョークは時代の鏡、「日本人ジョーク」は日本人観の反映である。 早坂氏によれば、ネット社会が進歩し、多くの人が気軽に情報発信できるようになったことで、「日本人ジョーク」も新作が続々と誕生している。 おまけに、新型コロナの感染拡大により、「日本人独特の行動様式が、国際社会を大いに不思議がらせる事例が相次いでいます。日本人は『奇人』『変人』『不思議な人々』と見られることが増えているのです」(「はじめに」より)。 「え、日本人が変人扱い?」と思う人がいるかもしれないが、これは事実。早坂氏のジョーク連載の読者なら、そんな世相を反映したジョークが記憶に残っているだろう(例えば、こんなジョーク)。 ===== 目立つのは「中国人ジョーク」の増加 本書の構成は「コロナ禍における不思議な日本人」に始まり、中国やアメリカ、韓国、北朝鮮との関係を下敷きにしたジョークへと続く。ほかにも日本の働き方や高齢社会、治安の良さ、東京オリンピック、カルロス・ゴーンや「こんまり」まで登場する。 過去の「ジョーク集」と比べ、目立つのは「中国人ジョーク」の増加だ。それだけ世界における中国の存在感がここ数年――良くも悪くも――高まったのだと言える。 日本人が言った。「なんでもかんでも否定から入るのは良くないよ」 中国人が答えた。「いや、そんなことはない」 国民性や民族性をネタにしたジョークは「エスニックジョーク」と呼ばれる。世界中で人気のあるジョークの種類の1つだ。差別ではなく、ユーモアとして楽しむものだが、時に線引きが難しい。 とはいえ、国民性だけでなく、宗教やセックスなどを題材にした他のジョークにも一定の難しさはある。ジョークを愛した作家、開高健も「ジョークはTPOをわきまえてやらなきゃいけない」と言っていた。 ユーモアや笑いは大切だが、無神経ではいけないということだ。 その意味で、TPOをわきまえ損ねたのがフォルクスワーゲンだったのかもしれない。 EV化という時代の潮流を反映しており、企業イメージとしても悪くない。「Volkswagen」を「Voltswagen」に変えるなんて、洒落ているじゃないか。面白い。やろう。 たぶん、そんな会話が社内の会議で交わされたのだろう。 だが報道によれば、エイプリルフールに先立つ3月29日、「誤って」社名変更のプレスリリースが掲載された。翌30日、プレスリリースは各メディアに送付され、同社のツイッター公式アカウントも社名変更を投稿した。いずれにも「エイプリルフール」という記載はなかった。 その後になって、フォルクスワーゲンは「社名変更はない」「エイプリルフールのつもりだった」と釈明したのである。 だが同社は2015年の排ガス不正問題という、ジョークどころか「笑えない嘘」からの信頼回復の途上にあった。そのため「ボルツワーゲン」ネタは、スベるどころか、企業の信頼性すら傷つけかねない結果となった――というのが、この騒動のオチ。 ドタバタでジョークを台無しにした関係者には、ぜひ「ジョーク集」を読んで勉強してもらいたい。 『世界の日本人ジョーク集 令和編』 早坂 隆 著 中公新書ラクレ (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます) ===== We know, 66 is an unusual age to change your name, but we've always been young at heart. Introducing Voltswagen. Similar to Volkswagen, but with a renewed focus on electric driving. Starting with our all-new, all-electric SUV the ID.4 - available today. #Voltswagen #ID4 pic.twitter.com/pKQKlZDCQ7— Volkswagen (@VW) March 30, 2021 「社名変更」を発表したフォルクスワーゲン公式アカウントのツイート   What began as an April Fool's effort got the whole world buzzing. Turns out people are as passionate about our heritage as they are about our electric future. So whether it's Voltswagen or Volkswagen, people talking about electric driving and our ID.4 can only be a good thing. pic.twitter.com/Rzx8mJgxkT— Volkswagen (@VW) March