<相手がゲイやトランスジェンダーだと知って一時的に精神錯乱状態に陥ってしまった、と殺人や暴行を正当化する弁護がバージニア州で禁じられた。南部では初めてだ> 米バージニア州は2021年3月31日(現地時間)、南部諸州で初めて、殺人や暴行事件の裁判で被告の弁護に「ゲイ・パニック」と「トランスジェンダー・パニック」を用いることを禁じる州法を成立させた。 民主党の州知事ラルフ・ノーサムが署名、成立したこの法律は、殺人や暴行事件を起こした被告が、交際相手がゲイやトランスジェンダーとわかったから、あるいはゲイやトランスジェンダーに告白されたから、カッとなって暴力を振るってしまった、あるいは殺してしまった、などと主張して減刑や無罪を主張することを禁じるもの。 同種の禁止令は、すでに10州で成立している。バージニア州の法案を起草したのは、同州議会の下院議員を務める民主党のダニカ・ロームで、トランスジェンダーであることを公表した米史上初の州議会議員だ。 トランスジェンダー関連のニュースとカルチャーサイト「プラネット・トランスジェンダー」によれば、ロームは自身のフェイスブックでこう述べている。「トランスジェンダー認知の日である本日3月31日、この法案を成立できたことに、トランスジェンダーの州議会議員として感謝している。これで、2021年からは、1998年に14歳だった私が秘密を抱えて誰にも言えず感じていた恐怖を、誰も抱かずに済むようになる」 The LGBTQ+ panic defense is now banned in Virginia.@GovernorVA just signed my bill HB 2132 to make it happen.Thank you to my team, the advocates who testified, my colleagues who voted for it and my 15-year-old out student constituent in Manassas Park who requested it. pic.twitter.com/W81Siwyyqo— Del. Danica Roem (@pwcdanica) March 31, 2021 「ゲイ・パニック」や「トランスジェンダー・パニック」についてはどの法律書にも書かれていないが、被告はしばしば、一時的な錯乱状態だったと主張するために被害者がゲイやトランスジェンダーだったのでパニックになったと言い訳をした。 「米国LGBT法曹協会」はこうした主張について、LGBTQが犠牲になったのは、彼らが攻撃を「誘発」したせいだと主張するもので、犯罪の責任をLGBTQに負わせるものだと指摘する。また、LGBTQの人々は不誠実でモラルに欠け、性的に積極的であるという古くからのステレオタイプを利用するものでもある。 ロームが本誌に宛てたメールによれば、LGBTQによる「非暴力的な性的誘惑」は、LGBTではない人たちによる同じような性的誘惑と比べて、より「挑発的」で脅迫的だとみなされているという。また、ゲイ・パニック論ではしばしば、被告が必要以上の暴力をふるったことの正当化が試みられる。 テキサス州にあるセントエドワーズ大学で刑事司法を研究するアシスタント・プロフェッサー、ウォレン・C・アンドリーセンによると、ゲイ・パニック論が用いられた殺人事件訴訟104件を調査したところ、パニック・ディフェンスで減刑されたのは32%だった。それ以外のほぼすべてのケースでは、パニック・ディフェンスを用いた被告に対し、最低限の刑罰よりも厳しい判決が下されていた。 ===== にもかかわらず、こうしたパニック論は何度も繰り返されている。有名な例としては、1993年にトランスジェンダー男性ブランドン・ティーナが殺害され、のちに『ボーイズ・ドント・クライ』として映画化された事件が挙げられる。 また、1995年にトーク番組「ジェニー・ジョーンズ・ショー」に出演したスコット・アメデュールが殺害された事件も有名だ(視聴者が秘密を告白する番組で、知り合い男性への思いを語ったアメデュールは、数日後にその男性に殺された)。 さらに、1998年に同性愛者であることを理由に大学生マシュー・シェパードが殺害された事件や、2008年に15歳のラリー・キングが、好意を示した14歳の男子同級生に銃殺された事件、2015年に同性愛者ダニエル・スペンサーが隣人に殺害された事件なども知られている。 米国法曹協会は2013年、全米各州に対してゲイ・パニック論を禁止するよう呼びかけた。以降、今回のバージニア州に先立って、2014年のカリフォルニア州を皮切りに、コロラド州、コネチカット州、イリノイ州、メイン州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ネバダ州、ロードアイランド州、ワシントン州の10州が、ゲイ・パニック弁護とトランスジェンダー・パニック弁護を禁止していた。 ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモは、2019年に同種の禁止令に署名をした際、次のようにツイートした。「今回の法案成立により、私たちはこの有害な法的弁護戦略を歴史上の塵として葬り去ろうとしている。あらゆる場所に住むLGBTQの人々にとって、大きな意味を持つ勝利だ」 ニューヨーク州議会上院議員として法案を起草した民主党のブラッド・ホイルマンは当時、こう述べていた。「この禁止令は、検察官、被告側弁護人、陪審員、裁判官に対し、被害者のLGBTQとしてのアイデンティティを、被告が武器として利用することはできないというメッセージを送っている」 (翻訳:ガリレオ)