<共産主義を支持する極左勢力が欧米に台頭。中国政府の人権侵害を認めず、中国モデルを称賛する彼らを懸念する声も広がるが> 天安門広場に集結した中国の民主化を求める若者たち多数を蹴散らし惨殺した後、隊列を組んで引き揚げる戦車の前に、丸腰で立ちはだかった1人の男がいた。素性も生死も不明だが、欧米メディアは彼を「タンク(戦車)マン」と呼び、その勇気を絶賛したものだ。 そう、30余年前の彼の行為は間違いなく命懸けだった。しかし今は民主化を求める中国人の若者が、およそ命懸けではない西洋のタンキー(タンク野郎)たちとオンラインで火花を散らしている。 現代のタンキーは欧米の若者たちで、共産主義の独裁政権を支持している。だから新疆ウイグル自治区などで中国政府が行っている露骨な人権侵害や弾圧の事実も、いくら確固とした証拠があっても認めない。そしてマルクス・レーニン主義者を自称し、アメリカの帝国主義と外国(とりわけ社会主義国)への内政干渉に激しく反発する。 このタンキー諸君と民主派の中国人活動家との主戦場はインターネットだ。ツイッターでの激しい応酬があり、タンキーによる特定の人物への中傷攻撃があり、悪意に満ちた言葉の暴力もある。民主派も、タンキーや「スターリン主義者」の妄言を集めて揶揄するアカウントを作ったり、彼らの投稿のコメント欄に執拗な反論を書き込み、一般のツイッター利用者がタンキーの主張に惑わされないように防衛線を張ったりしている。 「なぜ私は、わざわざ彼らにけんかを売るのか」と語るのは、ムートと名乗る香港の民主活動家だ。彼はタンキーによるツイートのコメント欄を監視し、反論を書き込む活動を続けている。 タンキーによる投稿を見つけたら、それは「その発言の下に自分の反論コメントを書き込むチャンスだと思う。その発言に問題があることを警告できるのだから」とムートは言う。「彼らの主張は救い難く、とにかく一方的だ」 お気楽に安全な場所から 香港の民主派はなぜ、タンキーを目の敵にするのか。彼らの多くは(前米大統領のドナルド・トランプと同様に)「左翼=中国支持派」と見なしているし、今ではSNSが抵抗の主要な手段となっているからだ。 そもそも、「タンキー」は20世紀後半の冷戦時代にイギリスの共産党支持者を指す言葉として使われ始めた。当時のソ連がハンガリーなどの衛星国に戦車を出して市民の蜂起を弾圧しても、頑迷な彼らはソ連支持を変えなかった。そんな連中を指す言葉として、タンキーは定着した。 ===== PHOTO ILLUSTRATION BY BEEBRIGHTーISTOCK 現在では、中国が「奇跡」の経済発展を遂げたのは中国流の統治モデルが優れている証拠だと信ずる極左の自称マルクス・レーニン主義者を指す蔑称として用いられることが多い。ただし一部のマルクス・レーニン主義者が開き直って、タンキーを自称することもある。 いずれにせよ、彼らは体制(中国の場合は共産党と漢民族による支配)を守るためなら反対派(少数民族や民主派など)をつぶすのは当然と考える。「とにかく有害で不愉快だ」とムートは言う。「弾圧されている側の身になってみろ。こちらは警官に銃を突き付けられ、法律で自由を奪われているんだ」 タンキーたちは「海外の自由で安全な国にいて、お気楽な生活を送りながら、弾圧される側の私たちに向かって、おまえらの主張は間違っているとか、殺されて当然だとか決め付ける」。そんなのはおかしいとムートは怒る。 しかもタンキーの多くは若い世代。香港の民主派やイスラム教徒のウイグル人、アジア・アフリカ諸国の民衆など、中国共産党の拡張政策で犠牲になっている人々の間でタンキーへの懸念が高まるのは当然だろう。タンキーの声はまだ小さいが、(トランプ時代のアメリカを見れば分かるように)SNSにあふれる妄言が欧米諸国の世論や外交政策に影響を及ぼす事態は十分に想定し得る。だから警戒が必要なのだ。 欧米は資本主義を強制 一方、YouTubeでマルクス・レーニン主義を標榜し、登録者を2万人以上抱えるチャンネルを運営している自称ベイエリア415(匿名を希望)は、自分が中国政府を支持するのは、あの国がこの数十年で何億もの人民を貧困から救い出すことに成功したからだと主張する。 「中国は絶対的な貧困を根絶し、新型コロナウイルスの感染を封じ込め、急速な経済成長を遂げ、手厚い公的助成金や公共事業などを通じて富の分配を促進している。これを見れば、中国の統治システムこそ本物だと考えざるを得ないだろう」と、ベイエリア415は本誌に語った。 「中国のシステムは(欧米のそれとは)別物で、より優れており、効率的であることは明らかだが、中国は自国のモデルを輸出して他国を強制的に社会主義に変えようとはしていない。欧米の帝国主義者が資本主義を他国に強制しているのとは大違いだ」とも語り、こう続けた。「中国の人民民主独裁制は、自国の経済の舵取りを素晴らしくうまくやっている。市場原理を資本家ではなく、人民の利益のために使っている」 ===== 香港大学の学生で、人権のデジタル監視活動に従事する民主活動家のソフィー・マクは、彼女の仕事を中国に対する中傷キャンペーンだと批判するタンキーとの戦いに何度も巻き込まれた。 タンキーはしばしば人権を守る活動の足を引っ張るとマクは言う。タンキーは中国の人権侵害に関する最も証拠のそろった主張でさえ非難し、反論する。マクはそれに対処しなければならなかった。 マクが特に怒りを感じるのは、アジアの民主化運動は台頭著しい中国をつぶすためにアメリカが仕掛けた隠密作戦の産物だとする主張だ。 ミャンマー(ビルマ)で軍事クーデターに反対する抗議デモ参加者の一部が英語のスローガンを掲げていたことから、一連のデモはアメリカの差し金だとタンキーは主張している。だがマクは「抗議のスローガンが英語だからという理由で、デモの参加者が自分で書いたものではないと言い張るのはおかしい」と言う。 こうしたタンキーの主張は、普通のビルマ人は英語を書けないという偏見に基づいており、アジアの人たちを見下している。マクは言う。 「よく言って無知、悪く言えば恣意的に事実をゆがめている。彼らは自分の空想の世界に生きている。自分たちのイデオロギーを無責任に述べ立て、他人を傷つけ、人権を侵している。アメリカは世界中のあらゆる問題に手を出しており、政権交代も抗議行動もアメリカ政府が仕組んだものだと、タンキーたちは信じている。そして、それを指摘することで『帝国主義に挑戦』している気になっている」 左翼=親中国にあらず しかしベイエリア415はマクの指摘を受け入れず、代わりにアメリカ政府が他国の内政への干渉を繰り返してきたのは「明白な事実」だと反論する。アメリカ政府は各地の反政府運動を積極的に支援している、とも。 「抗議デモ参加者がアメリカの国歌を歌ったり、(香港を植民・統治した)英国旗を振ったり、トランプを支持したり、ウクライナのファシスト政権を支持するのを見ると、彼らがそんなことをする理由だけでなく、誰が背後にいるのかと疑問に思わざるを得ない。こうした抗議デモに米国務省が関わっている証拠は至る所に存在する。裏に彼らがいることを示す圧倒的な証拠があるじゃないか」 ===== 現時点で、タンキーたちの影響力は取るに足りない。欧米諸国の世論を動かすほどの力はないし、外交政策に与える影響も限られている。 「彼らに実質的な影響力はない」と言うのは、香港の民主活動家で現在は米ジョージタウン大学の博士課程に籍を置くジェフリー・オー。「活動する歴史家」として、香港の民主派政党デモシストの幹部を務めたこともある。「しかし彼らがSNSの世界にはびこり続ければ、現実の世界で民主主義のために戦っている人々にとって不愉快な方向に世論が誘導されかねない」 オー自身は、タンキーに反論をぶつけたりはしない。しかし自分のSNSアカウントでタンキー批判を繰り広げることはある。 オーが考えるに、最も差し迫った懸念はタンキーが、十分に証拠のある主張に異議を申し立て、建設的でない方向に議論を向け、より大きな中国の人権に関する議論の前提をゆがめることだ。 もう一つの重要な側面は、左翼の意味の定義をめぐる論争、つまり、共産党政権を支えるか、政権に抵抗するかという問題だ。極左マルクス・レーニン主義のグループだけが左翼ということになれば、タンキー以外の左翼が、それぞれの大義を推し進めていくことは極めて困難になるだろう。これが重要なのは、タンキーに立ち向かう人々の多くも、自分たちこそ左翼だと考えているからだ。 デモシストに参加し、香港の民主派を代弁し、抗議運動のシンボルとされてきたオーのような人物でさえ、今は一部の香港人からタンキー呼ばわりされている。彼が左翼思想の持ち主だからだ。 今の自由主義世界秩序が、欧米以外の場所に住む多くの人たちを苦しめているのは事実。だからこそ、それに取って代わるというタンキーたちのイデオロギーがもっともらしく聞こえてしまう。 オーは言う。「彼らには不動の世界観がある。まず、自由世界の国際秩序は間違っている。これが前段で、その自由世界の秩序に取って代わるのが中国だと続く。だから中国は常に正しいことになる」 奇妙な理屈だ。冗談じゃない、とオーは思う。 「私たちのような人間を抑圧している秩序に取って代わるのが中国だなんて、あり得ない。中国はその(抑圧的な)秩序の中核そのものだ」 ©2021 The Diplomat