<シカの狂牛病=狂鹿病が、アメリカ25州で感染が確認され、カナダ、欧州、韓国に感染が広がっている......> シカ慢性消耗病(CWD:狂鹿病やゾンビ鹿病とも呼ばれることがある)は、シカ、ヘラジカ、トナカイ、ニホンジカなど、シカ科動物が罹患する伝達性海綿状脳症(TSE)である。いわゆる「狂牛病」として知られるウシ海綿状脳症(BSE)と同様に、感染性を持つ異常プリオンタンパク質が神経組織などに蓄積し、数ヶ月から数年にわたる潜伏期間を経て、やせ衰え、よだれを垂らすといった症状があらわれ、やがて死ぬ。 シカ慢性消耗病を引き起こす異常プリオンタンパク質は糞便や唾液、血液、尿などの体液を介して感染するほか、土や食料、水が汚染されることでも感染が広がると考えられている。 アメリカ25州、カナダ、欧州、韓国に感染は広がった シカ慢性消耗病は、1967年に米コロラド州で初めてその症状が確認され、1978年に正式に伝達性海綿状脳症の一種として分類された。米国では、2021年1月時点で、カンザス州、ネブラスカ州など、中央部を中心に25州で感染が確認され、カナダでも、サスカチュワン州、アルバータ州などで確認されている。 2001年には、韓国で輸入したカナダのシカから感染が広がった。欧州では、2016年、ノルウェー南西部ノールフィエラで生息する野生のトナカイで初めて感染が確認され、その後、スウェーデンやフィンランドでも見つかっている。なお、これまでに日本での感染は確認されていない。 米国農務省(USDA)動植物衛生検査局(APHIS)では、テキサスA&M大学、テキサス州公園野生生物局(TPWD)と提携し、シカ慢性消耗病の感染感受性を研究している。2020年4月に発表した研究論文では、2014年から2018年までに米国で飼育されていたオジロジカ807頭のDNAサンプルを分析し、危険因子とみられるゲノム上の領域を特定して、80%以上の精度で感染感受性の高い個体を推定することに成功した。 現在、ヒトへの感染は確認されていないが...... 現時点では、シカ慢性消耗病のヒトへの感染は確認されていないが、ヒトの健康を脅かすおそれがあるのかどうか、まだ十分に解明されていない。 2009年に発表された研究論文では、非ヒト霊長類であるカニクイザルとリスザルを対象にシカ慢性消耗病を感染させる実験の結果、「シカ慢性消耗病への感染感受性は種によって異なり、リスザルよりもカニクイザルのほうが感染しづらい」ことが示された。 また、アメリカ国立衛生研究所の研究チームが2018年6月に発表した研究論文でも「カニクイザルのシカ慢性消耗病への感染は認められなかった」と結論されている。 「奇妙な行動をしているシカを触ったり、その肉を食べたりしないこと」 シカ慢性消耗病への感染リスクを抑制するためには、野生動物との接触を最小限にとどめることが肝要だ。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では、「弱っている、もしくは奇妙な行動をしているシカやヘラジカを撃ったり、触ったり、その肉を食べたりしないこと」、「獲物を処理したり、肉を扱うときは、ゴム手袋を着用すること」、「肉をさばくときは、家庭で日常的に使用している包丁やナイフを使用しないこと」、「当局のガイドラインをチェックすること」などを呼びかけている。 ●参考記事 ・東アジアから連れてこられたヨーロッパのタヌキの受難は終わらない ・米フロリダ州に座礁したクジラは新種だった ・世界各地のイルカに致命的な皮膚疾患が広がる......気候変動の影響と思われる