<主人公は地球で生きる異星人、ケーブル局サイファイのオリジナル作品『レジデント・エイリアン』が進撃を続ける理由> サイファイは、基本料金のみで見られるアメリカのケーブルチャンネルとしては異色の存在だ。オリジナルドラマをヒットさせているのだから。 『レジデント・エイリアン』はコメディーかつシリアス路線で、殺人ミステリーものでもあるドラマ。アラン・テュディックが演じる主人公はコロラド州の架空の町で、人間のふりをして生きていこうと苦闘するエイリアンだ。 笑えるだけの作品ではない。人類滅亡を狙う異星人の物語であるにもかかわらず、驚くほどハートウオーミングな群像劇になっている。 「人々に希望はあると気付かせる手助けをする。それが究極的にやりたかったことだ」と、本作のクリエーターを務めるクリス・シェリダンは語る。「私たち人間は苦しんでいる。だが協力し合うことを学べば、よりよくなれる」 新番組が直ちに高視聴率を達成しなければ、たちまち打ち切りになるテレビの世界で、『レジデント・エイリアン』は視聴者を開拓している。 計10話の本作が放送開始されたのは今年1月後半(3月31日に最終回放送)。NBCユニバーサル傘下で、映画番組や再放送を中心とするサイファイは各種媒体で盛んなプロモーションを展開した。 本作の初回の合計視聴者数は約220万人。高評価や口コミのおかげで第2回の視聴者数は約265万人を記録した。確かに、ABCテレビの超長寿婚活リアリティー番組『バチェラー』の人気(最新シーズン最終回の視聴者数は770万人)には及ばないが、オリジナル番組に力を入れるサイファイの路線の正しさが証明された格好だ。 ===== 人間の医師のふりをするエイリアンだが、町の住民の中で唯一、小学生のマックスには正体が見える JAMES DITTINGER/SYFY 主人公を演じるテュディックは既に人生が一変する体験をしている。 SFファンの間では、1シーズンでの終了が惜しまれた『ファイヤーフライ 宇宙大戦争』のパイロット役で知られるテュディックは、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などの映画やドラマに出演してきた。 「性格俳優として山ほど脇役を演じてきたから、主役かどうかは大した問題じゃないと信じたかった。でも実際にはすごいことだった。何年も音信不通の人、自分の電話番号を知っているとさえ思わなかった人たちから連絡が来る」 テュディックは、無表情でコミカルな演技をする才能に恵まれた俳優だ。ハリー・バンダースピーグルという名前の医師として生きるエイリアンに、往年の喜劇俳優バスター・キートンの哀愁と、地球外生物ならではの脅威の両方を吹き込んでいる。 コメディーにテーマ性を クリエーターのシェルダンによれば、この融合が作品の成功のもとだ。「大げさなドタバタ喜劇を演じたら、視聴者は登場人物に感情移入できない。コメディーとシリアスドラマのバランスを取る鍵は、現実感を維持しようと努めること。通常のコメディーに存在しないもの、つまり一種のテーマ性を加えることだ」 脇を固めるキャストにも、映画・ドラマ界の実力派がそろう。ハリーの友人アスタ・トゥウェルブツリーズ役のサラ・トムコ、町の酒場のバーテンダーに扮するアリス・ウェッターランド、無知な市長を演じるリーバイ・フィーラー、地元保安官のコリー・レイノルズ──。 『ターミネーター』シリーズのファンにとってうれしいことに、あのリンダ・ハミルトンも米軍エイリアン捕獲作戦を指揮する将軍役で登場する。 町民の中でただ1人、ハリーの正体が見える小学生マックスを演じるのは、子役のジュダ・プレーンだ。 「とてもかわいくて、生意気な奴だ」と、テュディックは話す。「彼と共演するシーンでは異星人姿で登場するから、メーキャップのために2時間早く来ないとならない。午前5時から現場にいる私に、『何時まで寝坊したの?』と言ってくるんだ」 ===== 『レジデント・エイリアン』が産声を上げたのは2012年。ピーター・ホーガン原作、スティーブ・パークハウス作画のコミックシリーズ計4冊が原点だ。 「ここまでの道のりは長かった」と、出版元のダーク・ホース・コミックスの創設者で、同社の映画・テレビ制作部門を統括するマイク・リチャードソンは話す。 「アイデアの芽」を持ち込んだホーガンとパークハウスに、リチャードソンは作品の方向性を示した。コミックはヒットし、現在は最終章となる6シリーズ目の制作が進む。 コミックの成功に目を付けたのが、映画監督スティーブン・スピルバーグ率いるアンブリン・パートナーズのテレビ制作部門、アンブリン・テレビジョンだ。 「早い段階でダーク・ホース側に接触し、協力してアイデアをいくつか練った」。アンブリン・テレビジョン共同社長で、ドラマ版『レジデント・エイリアン』の制作責任者を務めるダリル・フランクとジャスティン・ファルビーは、本誌宛ての電子メールでそう振り返る。 SFの垣根を越える アンブリンはその後、FOXのコメディーアニメ『ファミリー・ガイ』の脚本を長年手掛けるシェリダンと連絡を取った。コミックを読んで「たちまち恋に落ちた」と、シェリダンは言う。 シェリダンを魅了した要素の1つが、アメリカ先住民とその文化に対する注目と敬意だ。ドラマ版では、重要な役柄である先住民系のアスタを先住民の血を引くトムコが、彼女の父親(ハリーは「どこかおかしい」と見抜く鋭い人物)をカナダの先住民俳優でミュージシャンのゲーリー・ファーマーが演じている。 さらに、本作はカナダの先住民の居留地近くで撮影され、先住民のコンサルタントを採用。サウンドトラックでも、カナダのヒップホップデュオ「スノッティ・ノーズ・レズ・キッズ」をはじめ、数々の先住民系アーティストを取り上げている。 ===== 19年10月、ニューヨークで開催されたコミコンでのパイロット版公開は話題作りに役立った。だが、新型コロナウイルスの感染大流行の第1波に見舞われた昨年春に撮影中止に。再開されたのは秋になってからだった。 絶好調の滑り出しを見せた後、本作の視聴率は一進一退している。それでも十分満足したサイファイは、第2シーズンの制作を決めた。 NBCユニバーサルのテレビ・ストリーミング配信部門を統括するリサ・カッツは、第2シーズン制作を発表した声明で「SFというジャンルを超えて、より幅広い視聴者を獲得できている」と述べた。そう、これこそが本作品の魅力だ。