<推進派の言う「買うべき理由」はこじつけだらけ──賢い投資家はビットコインに手を出すべきではない> 企業経営者らはビットコインに投資すべきだ──。 エコノミストのダンビサ・モヨは、3月上旬にフィナンシャル・タイムズで発表したオピニオン記事で、そう主張している。根拠は3つ。ビットコインは企業リスクを軽減する手段で、暗号資産(仮想通貨)は新興経済国での事業をめぐる解決策を提供でき、デジタル通貨は「通貨プラットフォーム」という新たな未来の前触れ──だからだ。 これは正しい主張なのか。1つずつ検証してみよう。 まず、ビットコイン購入が企業リスクを軽減する仕組みがはっきりしない。モヨが挙げているのは、歴史的な投機的バブルを逃すリスクだけだ。 確かに、ビットコインの急騰傾向に乗り遅れたら、企業は深刻な結果に直面しかねない。例えば、ビットコインで資金を稼いだライバルによる買収だ。 ビットコインに投資すれば、ビットコインによる資本利得機会の喪失は確実に防げる。だが、それは賢い投資を意味しない。潜在的リターンと高い物的資本喪失リスクを比較検討するなら、なおさらだ。 新興経済国で発生しがちな問題の解決策を提供できるという主張もこじつけだ。 確かに、中央銀行デジタル通貨(CBDC)も含めた法定通貨と異なり、ビットコインといった分散型の民間の仮想通貨は放漫な政府に「過剰発行される」危険がない。 しかし、通貨の過剰発行は新興市場の金融的安定に対する脅威の1つにすぎない。その脅威を取り除くからといって、ビットコインが突如、信頼できる価値貯蔵手段に変貌するわけではない。 現実は正反対だ。2009年の使用開始以来、ビットコインは激しい値動きを繰り返している。 今年3月13日に6万1000ドルを超えて最高値を更新したビットコインは、最近では5万9000ドル前後で推移している。JPモルガンのアナリストらは2月17日付のメモで、3カ月の実現ボラティリティー(変動率)が87%に達したと指摘した(金の場合はわずか16%)。 ビットコインは中・低所得国への送金を容易にするのではないかとモヨは言うが、ビットコイン取引の悪名高い非効率性を度外視している。 ビットコインのブロックチェーンサイズは1メガバイトに制限され、検証プロセスは1ブロック当たり約10分間。1秒間に処理可能な取引は最大7件だ。対照的に、決済サービス大手ビザは1秒当たり平均1700件の取引を実行する。 ===== 同様に、ビットコインの発行上限が2100万枚と決められているのも弱点だ。まともな通貨なら、金融危機などの際には供給量を大幅拡大できる。分散型の仮想通貨では、どんな機関も系統的な救済措置を実行できない。 最後の問いは、ビットコインは本当に、賢い投資家なら見逃してはならないデジタル通貨インフラの最先端なのか。答えはノーだ。 中国などで開発が進むCBDCは仮想通貨とは別物だ。これまでのところ、CBDCにはブロックチェーンなどの分散型台帳技術(DLT)も、取引承認の仕組みであるプルーフ・オブ・ワーク(PoW)も用いられていない。 CBDCはむしろ、従来の銀行口座の単なるデジタル版だ。目新しい点はなく、DLTに基づく仮想通貨のように革命的な発明ではない。 だが、仮想通貨の「革命」は既に失敗している。仮想通貨は価値貯蔵手段としての魅力が極めて乏しく、賢明な投資家は手を出すべきではない。 結論は明らかだ。ビットコイン投資はリスクが高過ぎる。ビットコインは新興市場のどんな問題の解決策でもなく、価値貯蔵手段にも、信頼できる交換媒体にもなり得ない。 ビットコインなどの仮想通貨は、なるべく早く経済史の片隅に葬られるべきだ。 ©Project Syndicate