<ワクチン接種が進まない日本を尻目に、世界では一歩先を見据えた研究が進む。各国で臨床試験が始まる鼻スプレー型ワクチンは、手軽に接種できるだけでなく、従来型より高い有効率が見込まれるという> 英オックスフォード大学は3月、アストラゼネカ社と共同開発した鼻腔スプレー式ワクチンの初期段階の試験について、参加者の募集に入った。英フィナンシャル・タイムズ紙が入手した文書により明らかになった。第1段階の試験を7月ごろまでに終える計画だ。 こうした動きは、世界的にもめずらしいものではない。カナダ、オーストラリア、ロシア、インドなど世界各国で、扱いが難しい注射型のワクチン接種を見直し、スプレー式の普及につなげる動きが活発だ。 カナダではサイトファージ社が、鼻腔および口腔スプレー式ワクチンの試験に乗り出そうとしている。ラジオ・カナダによると、まずは動物実験で安全性を確かめる方針だ。 オーストラリアではすでに動物を用いた前段階の試験が完了しており、6月から9月に人間を対象とした臨床試験に入る計画になっている。 ロシアではすでに、スプートニクVワクチンの経鼻投与の臨床試験が始まっている。試験を主導するガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センターは、現在までのところ重篤な副作用は確認されていないと胸を張る。 感染第2波が深刻なインドでも、バーラト・バイオテック社が鼻腔スプレーのテストに着手した。人口13億を超えるインドで全員が二度のワクチン接種を受けるには、26億本の注射針が必要になる。 現地ニュース局の『インディアTV』は、注射器を必要とせず接種も1回で済むこのワクチンが、「COVIDとの闘いを根本から変える革命的な存在」になるのではないかと期待を寄せている。 これらに加えて中国本土ではすでに第二段階までの試験が完了しており、香港でのさらなる試験を待っている段階だ。 注射型よりも高い効果が期待されている 注射器を必要としない鼻スプレー型ワクチンが実用化に至れば、より手軽にワクチンを接種できるようになる。往々にして手軽な代替手段というものは、効果の面で劣るのが相場だ。しかし、新型コロナ用ワクチンの場合、むしろ注射型よりも優秀な免疫作用をもたらすことが予想されている。 フィナンシャル・タイムズ紙は、「鼻腔スプレー型ワクチンは投与が従来よりも容易であり、かつ感染率を顕著に引き下げる可能性がある。COVID-19を引き起こすSars-Cov-2ウイルスが、主として(鼻腔から喉までの)上気道から侵入するためだ」と解説している。 ===== 中国カンシノ・バイオロジクス社のCEOによる説明も、これと一致する。氏は米CNBCに対し、気道からの接種が可能な吸入型ワクチンは、従来型よりも高い効果が見込まれると述べている。感染の発端となる気道内で抗体を活性化させるため、より強力かつ迅速な防御が可能だ。まずは鼻・喉の抗体とT細胞がウイルスと闘うが、ここで防御に失敗した場合でも通常のワクチンと同様に抗体が体内で迎撃するという、二重構造の防御が可能になるという。 鼻腔用スプレーの開発にあたっては、必ずしも専用のワクチンを開発せずとも、既存のものを活用できるようだ。オックスフォード大学の発表によると、イギリス版の試験では、既存のアストラゼネカ製ワクチンと同一のものを利用する。これを市販の花粉症スプレーなどと同等の鼻スプレー容器を使って接種する内容だ。 研究の責任者であるサンディ・ダグラス博士によると、疫学者のあいだでは、感染部位に直接ワクチンを投与することで、従来よりも高い免疫力が発揮されるとの予測があるという。感染防止の面で高い有効率を誇るほか、比較的軽度の症状の発症を防止する面でも有効だと考えられている。臨床試験で期待通りの作用が確認されれば、既存のワクチンと既存の噴霧容器を組み合わせるだけで、より高い効果を得られることになる。 予約して接種会場へ、の常識すら変わるかもしれない 噴霧式ワクチンにはこのほか、接種会場におけるウイルス蔓延の防止や、接種率の向上、そしてより容易な輸送管理など、多くの利点が見込まれる。 オーストラリアで試験が進む新型ワクチンは、アデノウイルスを用いた既存のワクチンをベースに、鼻腔スプレー用の改良を施したものだ。低温保存について従来求められていた厳しい要件が緩和されるほか、家庭での接種も可能になるのではないかと期待されている。ガーディアン紙は、「鼻腔スプレー用に手を加えられたアデノウイルスは、COVIDワクチンの第二世代として前途有望な分野」であると述べている。 また、注射針に対して拒否感を持つ人々は多数存在する。ラジオ・カナダは、カナダの人口の10%ほどが注射に対して恐怖感を持っているが、スプレー式ならばこの点をクリアできるとしている。さらに、家庭で自分で接種できるようになれば、接種会場に人々が詰め掛ける事態も防止できる。サイトファージ社は、感染に気づかない無症状の人々が接種会場に赴き、他の人にウイルスを広げるような事態を根絶できるのではと期待する。 注射型からの転換となれば、子供への効果も大きいだろう。イギリスの学校ではすでに、インフルエンザワクチンなどの接種を鼻腔スプレー形式で実施している。オックスフォード大学の研究者は、すでに親しみのあるこうした形式に改めることで、接種率が向上するものと予測する。臨床試験を進める英ジェナー・ワクチン研究所のエイドリアン・ヒル所長は、「これはCOVID-19の主要なワクチンを接種する、エキサイティングな新しいアプローチです」と述べている。 国内では接種率が1%と伸び悩むのをよそに、世界は一歩先のワクチンのあり方を探り始めている。