<コロナ、貿易、台湾と、対立を深める豪中間に忍び寄る「戦争の足音」は、アメリカや日本にとっても他人事ではない> オーストラリアと中国の関係が悪化の一途をたどっており、「戦争の足音」を聞く議論まで浮上している。 とはいえ多くの有識者は、現段階で直接的な武力衝突が起きる可能性は低いと考えている。緊張の高まりや外交面でのいさかいはあっても、中国は依然として、オーストラリアにとって最大の貿易相手国(オーストラリア政府の最新のデータによれば年間1940億ドル規模)だ。 軍の規模でも、中国は大半の国の軍を数で上回っている。3月に発表された予算案では、国防費は2100億ドルとオーストラリア(330億ドル)の6倍以上だ。 それでもオーストラリアのスコット・モリソン首相は、インド太平洋地域の安全保障の重要性を強調するジョー・バイデン米大統領と結束している。オーストラリアが日米豪印戦略対話に参加したことがそれを物語っており、中国の反発を招いた。 近年は対立と報復の応酬に オーストラリアと中国の間には、幾つもの対立がある。オーストラリア政府は2018年、自国の5G通信網から中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の製品を締め出し、2020年には新型コロナウイルスの起源について中国での独立調査の実施を要求した。こうした措置への報復として、中国は数多くのオーストラリア製品に反ダンピング関税を発動するなどして輸入を妨害した。 さらに中国は5月6日、オーストラリアとの戦略経済対話(貿易交渉のための外交的メカニズム)の枠組みで行われる全ての活動を停止すると発表。オーストラリアが両国間の「正常な交流や協力を妨害している」と非難した。オーストラリア政府が4月、中国の広域経済圏構想「一帯一路」について、ビクトリア州政府が中国側と結んだ協定を破棄したことに対する報復だ。 オーストラリアは、香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害についても中国に責任を取らせようとしてきたが、中国はこれも「内政干渉」だと拒絶してきた。 一連の対立は、いずれも外交とイデオロギーに関するものだが、モリソン政権の高官が最近行った発言には両国で驚きの声があがった。 ===== 問題の発言が飛び出したのは、第一次世界大戦の大規模軍事作戦で死亡した兵士を追悼するアンザック・デーの4月25日。ピーター・ダットン国防相が、台湾をめぐる中国との衝突の可能性を「軽視すべきではない」と警告し、マイク・ペズーロ内務長官は演説の中で、インド太平洋の「自由国家」に再び「戦争の足音」が迫っていると述べた。 またオーストラリアの複数の報道機関が今週、オーストラリア軍のアダム・フィンドレー少将が2020年の非公開のブリーフィングの中で、中国と衝突する「可能性は高い」と述べていたことを詳しく報じた。 オーストラリアの野党・労働党は、アンザック・デーの一連の発言を批判。中国外務省は、オーストラリア政府が「対立を引き起こし、戦争の脅威を煽ろうとしている」と非難した。 だが3月には、米海軍のフィリップ・デービッドソンとジョン・アキリーノ――米インド太平洋軍の前司令官と現司令官――も同じような発言を行っていた。デービッドソンもアキリーノも、中国が台湾統一の野心を加速させていると警告し、10年以内に台湾に侵攻する可能性もあり得ると述べた。 「台湾有事」なら衝突の可能性あり ワシントンのベテラン政治アナリストたちはこの見解について、誤解を招くおそれがあるし、中国政府の持つ手段や動機を十分に考慮に入れていないと指摘している。だがオーストラリアでは、自分たちがなんらかの紛争に関わるとしたら、台湾絡みの可能性があると示唆する声もある。 台湾の呉釗燮外交部長(外相に相当)は何度もオーストラリアのメディアの取材に応じ、台湾が中国から受けている軍事的および経済的な圧力について詳しく説明。台湾近郊で軍備を増強している中国の「最終目的」についても、はっきりと述べてきた。 彼はオーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー紙に対して、台湾とオーストラリアの関係は深化しているが、オーストラリアに対しては「精神的な支え」以上の支援は期待していないと遠慮がちに述べた。 オーストラリアもアメリカも、中国が台湾を攻撃した場合の防衛義務に言及した法律はない。アメリカの台湾関係法は、台湾の防衛に必要な武器の売却を可能にするものだが、戦争となった場合にアメリカが台湾を軍事支援しなければならないとは明記していない。 ===== アメリカは公式には、有事の際に台湾防衛のために駆けつけるかどうかについて、意図的に曖昧な姿勢を維持している。アメリカが台湾有事の際に介入を行うには、民主的で事実上の独立国家である台湾が、アメリカの国益(これにはアジアの他の同盟相手からの信頼獲得も含まれる)にとってきわめて重要、という結論が導き出されなければならないというのが、多くの専門家の見解だ。 だが、台湾が中国軍に占領された場合、最大の脅威にさらされるのはアメリカの同盟国である日本である可能性が高い。オーストラリア、ニュージーランドとアメリカの間で締結された太平洋安全保障条約(ANZUS条約)の一員であるオーストラリアも、条件つきで台湾防衛を支援する可能性が考えられる。 この分野の研究者たちは同時に、中国と台湾の衝突は差し迫った脅威ではないと考えている。彼らによれば、それより差し迫った問題は、中国による「グレーゾーン戦争」だ。経済的・心理的な手段も使って台湾市民の自信をくじき、中国にとって有利な条件での協議に応じるよう強要するやり方だ。