<感染者数が高止まりするインドで、貴重な酸素ボンベと医薬品がブラックマーケットに流出。通常の数倍から10倍の価格で取引されている> 新型コロナが猛威を振るうインドで、ブラックマーケットでの取引が後を絶たない。重症者の生命維持の要となる酸素ボンベと医薬品などが非正規のルートで取引され、毎日のように逮捕者が報じられている。 現地では医療が逼迫し、入院できない重症者が増加している。家庭での待機を余儀なくされた患者の家族たちは、愛する者の生命を救うべく、酸素の確保に奔走する。善意を尽くす医療関係者がいる一方、一部の業者と病院関係者がこうした状況を悪用し、法外な価格での取引を迫っている。 首都デリーでは、酸素充填工場における酸素ボンベへの充填能力と、病院への納品実績とのあいだに、明らかな不整合が確認された。差分が闇市に流出している模様だ。現地紙のインディア・トゥデイ誌の報じるところでは、ある業者は20トンの生産能力があるにもかかわらず、病院へは2.4トンしか供給を行っていなかった。 一件をめぐり、複数の病院が業者をデリー高等裁判所に提訴している。これに対し業者側の弁護士は、複数の病院に供給していたため生産が追いつかなかったと主張していた。裁判所は本件について、業者が酸素ボンベをブラックマーケットに横流ししていたものと認定し、デリー準州政府が充填設備の運営を代行すべきとの判断を示した。 インド政府は液化酸素の大量輸送車にGPSを装備するなど、流通状況の把握に躍起だ。しかし、シリンダーへの充填業者にひとたび引き渡されると、個々のシリンダーを追跡する枠組みは存在しない。本来医院へ納品されるべきシリンダーが闇市に流れたとしても、不正を証明する手立てがないのが現状だ。 個人レベルでも転売屋が暗躍している 個人で闇売買に手を染める者たちも続々と現れている。現地ニュース局の「ニューデリーTV」は、2本の酸素ボンベを不正に取引した容疑で、30代の男2名が逮捕されたと伝えている。本人たちは、シリンダー1本あたり日本円にして約5万5000円で入手し、7万4000円で販売する計画だったと供述している。 Amid India's Dire Oxygen Crisis, How a Thriving Black Market Is Bargaining For Every Breath In Delhi 本件で押収されたシリンダーは計5本に上り、当局は余罪を追求している。主犯格は玩具のネット販売を生業としており、通常は酸素に関わりのない者までもが転売益を求めて「闇ビジネス」に参入している形だ。 類似のケースは枚挙にいとまがない。ニューデリーTVによると、酸素発生器の販売を約14万円で持ちかける投稿がTwitter上に見られ、当局が携帯電話のシグナルを追跡する技術的捜査に乗り出した。 ===== 主犯と見られる女の身柄は確保されていないものの、デリー警察は4名を逮捕し、酸素発生器170台と高級車2台を押収した。4人は酸素発生器の買い占めと、ブラックマーケットでの不正な取引に関与した疑いがかけられている。 闇取引は首都以外でも活発だ。現地ニュース局の「インディアTV」によると、デリーの南東500キロほどに位置する工業都市カーンプルでは、地元警察が酸素供給会社の運営者を闇取引の罪で逮捕した。大小51本の酸素ボンベを不正に売買した疑いが持たれている。 相次ぐ闇取引に手を焼く当局は、特別対策委員会を立ち上げた。委員会は「業者らは商品価格を吊り上げ、このウイルスの『パニック』から利益をむさぼっている」と述べ、非正規の取引を行う事業者らを糾弾している。 レムデシビルの横流しで病院関係者らが逮捕された 不正取引の波は酸素のみならず、医薬品にも及ぶ。とくに需要が高い抗ウイルス薬のレムデシビルは、通常の数倍から10倍程度の価格で取引されている。 レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療用に開発されたものだが、新型コロナ患者の治癒を促進する効果がある程度認められるとして、各国が緊急承認に踏み切った。インドでは重症患者に対し、5日間に6回の静脈注射などの形で投与される。すべての新型コロナ患者への効果が保証されるわけではないが、高値での売買が絶えない。 デリーではレムデシビルを含む医薬品などの不正取引が70件を超え、これまでに91人が逮捕された。ニューデリーTVは、レムデシビルのバイアル容器425瓶のほか、抗インフルエンザ薬のファビピラビル90錠、そして200台を超える酸素発生器などが押収されたと報じている。 蔓延する闇取引に、一部の医薬品販売業者の関与が疑われている。インディア・トゥデイ誌は独自の調査により、転売屋と医薬品販売業者らが公定価格の6倍の値でレムデシビルを販売していることを突き止めたと報じている。医薬品のサプライチェーンの一部に、状況を食い物にする者たちが巣喰い、真贋不明の薬品を法外な価格で販売しているという。 インド政府は4月17日付で各社製品に上限価格を導入しており、この価格を上回る取引は許可されていない。しかし、調査中の同誌記者はブラックマーケットで暗躍するある売人から、上限価格の約6倍、日本円にして1瓶3万円程度の価格での取引を持ちかけられたという。闇相場は日々変動しており、一夜にして15%ほど上昇することもある。 米CNNはインド警察による情報として、病院と薬局で薬の在庫が枯渇していることにつけ込み、最大で希望小売価格の10倍ほどの値付けが横行していると伝えている。南東部の港湾都市ヴィシャーカパトナムでは、レムデシビルのバイアルを1瓶あたり約1万3000円で販売した容疑で、病院職員4人が身柄を拘束された。 このほかデリーでは、救急搬送に対して不当に高額な料金を請求する事例も発生しており、警察は救急車3台の押収に踏み切った。 インド政府はすでに4月11日から、レムデシビルおよびその主要構成成分について輸出禁止措置を導入している。インド国内に優先して供給することで事態の収束を目指す考えだが、医院・薬局の前にはいまだ長蛇の列が絶えない。各地の薬局店頭では、購入をめぐる混乱と警察の出動が常態化している。 大多数の医療関係者が身の危険を顧みずに前線で活動する一方で、危機に乗じた転売と価格の吊り上げで暴利をむさぼろうとする目論見が後を絶たない。