<東京医科歯科大学統合研究機構の武部貴則教授らの研究チームは、マウスやブタも腸を用いて呼吸できることを示した> ナマコやドジョウなど、水生生物のなかには、低酸素環境下でも肺やエラ以外の器官を用いて生存できるよう、ユニークな腸呼吸の仕組みを持つものがいる。しかし、哺乳類で同様のことが可能なのかについては、解明されていなかった。 マウスやブタも腸を用いて呼吸できる 東京医科歯科大学統合研究機構の武部貴則教授らの研究チームは、酸素ガスまたは酸素が豊富に溶けた液体を直腸から注入する腸換気(EVA)法を開発し、この手法により、マウスやブタも腸を用いて呼吸できることを示した。一連の研究成果は、2021年5月14日、学術雑誌「メッド」で発表されている。 研究チームはまず、マウスの直腸を通じて純酸素を投与するシステムを開発し、致命的な低酸素状態にあるマウスを用いて実験した。その結果、対照群のマウスは11分ですべて死んだが、純酸素を投与されたマウスは18分、粘膜剥離前処置を施されたうえで純酸素を投与されたマウスの75%は50分、生存した。 直腸から純酸素を投与するこのシステムは腸粘膜の剥離が必要となるため、特に重篤な患者では、臨床上、実行可能性に乏しい。そこで、研究チームは、炭素とフッ素で構成され、酸素溶解能が極めて高い化学物質「パーフルオロカーボン」に1分あたり1リットルの酸素を45分間溶かした液体をつくり、純酸素の代わりにこれを投与する手法を考案した。 マウスの実験では、この液体1ミリリットルを直腸から注入して、酸素濃度10%の環境下で対照群のマウスと比較した。その結果、この液体が投与されたマウスは対照群に比べて歩行距離が長く、投与から60分後の心臓左心室の酸素分圧(PaO2)も有意に高かった。 同様の有効性はブタでも認められた。ブタにこの液体を400ミリリットル投与したところ、明らかな副作用を生じることなく、動脈血中の酸素飽和度(SpO2)や酸素分圧(PaO2)の値が上昇した。 重篤な呼吸不全の患者の治療などに役立つ可能性 研究論文の責任著者である武部教授は、「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴って人工呼吸器や人工肺の需要が急増し、これらの医療機器の不足が深刻で、世界中の患者の生命が脅かされている」と指摘したうえで、「この新たな腸換気(EVA)法がヒトにも応用できれば、重篤な呼吸不全の患者の治療などに役立つ可能性がある」と述べている。研究チームでは、クラウドファンディングで資金を募り、さらなる研究活動をすすめる方針だ。