<英海軍の最新鋭空母がインド太平洋へ。「米中対立」から「中国vs自由世界」という反中連合にシフトしつつある> イングランドの軍港ポーツマス。過去800年余り、英海軍の艦船はこの港から世界の海を目指してきた。去る5月1日、この港から最新鋭の空母クイーン・エリザベスが打撃群の他の艦船を率いて出航した。新しい時代の幕開けを告げる船出だ。 7カ月をかけてインド太平洋地域を回る航海で、英海軍は航行の自由と開かれた海を守るため寄港先の国々の海軍と合同演習を行う。 その目的は?「われわれは中国を競争相手であり、対抗すべき存在とみている」。英海軍のトニー・ラダキン第1海軍卿はマイク・ギルデー米海軍作戦部長との米英海軍トップ会談で空母派遣の理由をそう語った。 それにしてもなぜ、はるか遠いアジアの係争水域に出向くのか。英政府はなぜここにきてアメリカのトランプ前政権が掲げ、バイデン政権が受け継いだスローガンに賛同し、「自由で開かれたインド太平洋」を守る任務に協力する気になったのか。 イギリスだけではない。他の多くの国々まで中国批判の大合唱に加わっている。一体どういうことなのか。 ついこの間まで、世界は米政府の対中強硬姿勢をハラハラしながら見守っていた。米中対立はエスカレートの一途をたどり、米中の緊張の高まりが世界の平和を揺るがす最大の脅威だ、とまで言われていた。 バイデン政権はトランプ路線を強化 この脅威をもたらした元凶として、名前が挙がっていたのはドナルド・トランプ前米大統領だ。米政府が過去40年間続けてきた、より協調的な対中外交をひっくり返し、強硬路線に舵を切った、というのである。 トランプは中国製品に制裁関税を課し、中国の情報通信技術を米市場から締め出し、南シナ海における「航行の自由」作戦を強化し、台湾に急接近した。こうしたトランプの姿勢を見て、米政府は中国を敵に仕立て、米中激突へと突き進んでいると警鐘を鳴らす向きもあった。 例えば100人超のアメリカの学者、元外交官、退役した軍の高官らがトランプに宛てた公開書簡。そこには「アメリカの多くの行動が米中関係の負のスパイラルを直接的に引き起こしている」と書かれていた。 バイデン政権がトランプ路線を軌道修正するどころか、人権問題などでさらに厳しい対中姿勢を取ったことから、こうした懸念はさらに高まった。アメリカは露骨に中国を敵視し始めたのではないか、というのだ。 米中の緊張の高まりがもっぱらアメリカの強硬姿勢のせいなら、他の国々はアメリカの「軽率な対中制裁」に距離を置いて模様眺めを決め込むか、アメリカに自制を求めるはずだ。しかし今、そうした動きは見当たらない。むしろ対中包囲網は拡大の一途をたどり、中国は自由主義陣営の多くの国々と対立している。 ===== 米バイデン政権の対中政策はトランプ前政権よりむしろ強硬に JONATHAN ERNSTーREUTERS 中国は外交・安全保障で「力は正義なり」政策を強引に推し進めてきた。政治献金やワクチン輸出を通じた影響力拡大キャンペーンしかり、サイバー攻撃や南シナ海における軍事拠点の構築しかりだ。米中関係の風向きがどうあれ、こうした中国のやり方は国際社会のひんしゅくを買わずにはおかない。 対中関係がいま最もこじれているのはオーストラリアかもしれない。今やこの国は最大の貿易相手国である中国と事実上の「経済戦争」に突入している。自国の政界への中国の影響力拡大を警戒して2018年に外国からの政治献金を禁止したのを皮切りに、自国の第5世代(5G)通信網から中国企業・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の製品を排除し、新型コロナウイルスの発生源を明らかにするため独立した調査を実施すべきだとも呼び掛けた。 これに怒った中国はオーストラリアとの戦略経済対話の無期限停止を発表。オーストラリア産の農産物などの輸入を制限する措置を取った。 一方、南シナ海では今年3月、中国とフィリピンが領有権を争うスプラトリー(中国名・南沙)諸島のウィットサン(牛軛)礁周辺に中国の漁船団が停泊。フィリピン政府が退去を求めても居座り続けた。 フィリピン側にすれば、これは中国が12年にスカボロー礁を乗っ取った際に取った手口だ。オランダ・ハーグの国際仲裁裁判所はフィリピンの提訴を受けて、16年に南シナ海の境界線に関する中国の主張は根拠を欠いているとの判断を示したが、中国は知らん顔を決め込んでいる。 航空自衛隊が700回近く緊急発進 インドも中国と長年、ヒマラヤ地方で国境をめぐる争いを続けてきた。昨年6月にはインド北部のラダックで大規模な衝突が発生、インド兵20人が死亡した。インド側は中国軍が1962年の紛争勃発以来最大の猛攻をかけてきたと主張している。 日本は2019年、尖閣諸島(中国名・釣魚島)上空への中国の侵入に対抗するため、航空自衛隊が700回近くスクランブル(緊急発進)をかけた。20年には中国公船が年間333日も周辺海域を航行し、海上保安庁と海上自衛隊が対応せざるを得なかった。この威嚇のパターンは10年以上前から続いている。 ウイグル人や香港への弾圧問題で対中批判に及び腰だと欧米の一部で批判されているニュージーランドでさえ、態度を変えつつある。ジャシンダ・アーダーン首相は先日、最大の貿易相手国である中国との見解の相違を解決することは一段と困難になっていると発言した。 アメリカの対中政策には、さまざまな意見があっていい。しかし、他の主要国も地域の安定と航行の自由、国内の経済・政治、民主化運動、知的財産に対する中国の脅威を懸念していることは明らかだ。 ===== 中国びいきだったはずのジョンソン英首相もインド太平洋への関与を強化 LEE SMITHーREUTERS つまりアメリカの政策がどうあれ、問題は新たな敵を探すアメリカにあるのではない。むしろ自由主義陣営の国々は、自分たち独自の基準で中国を一定の脅威と判断している。 それを考えると、インド太平洋への関与を強めようとするイギリスの姿勢の変化も理解できる(ボリス・ジョンソン英首相は「熱烈な中国びいき」を自任しているが)。他の国々と同様、イギリスも「理想の中国」ではなく「現実の中国」に対処しなくてはならないと認識している。 この現実を踏まえれば、トランプ、バイデン両政権の従来より強硬な対中政策は理にかなっていると言える。特にアメリカ、日本、インド、オーストラリアのインド太平洋地域4カ国から成るクアッド(日米豪印戦略対話)は、この地域の主要な自由主義諸国間で共通の安全保障に関する合意形成に役立つ有益な国際的枠組みだ。アメリカとの軍事同盟に取って代わるものではないが、共通の規範と協力の促進という別の役割を果たすことができる。 今年3月にオンラインで開かれたクアッド首脳会合は重要な一歩だったが、この4カ国はより広範な目標と、主に安全保障と地域安定の分野でどのような共同行動が可能かという微妙な問題について議論を開始する必要がある。中国との緊張関係を考えると、クアッドが「反中連合」と見なされることは避け難い。 英仏にはクアッドを補完する力が しかし、それを理由にこの枠組みを頓挫させることがあってはならない。米インド太平洋軍のジョン・アキリーノ新司令官とNSC(国家安全保障会議)のカート・キャンベル・インド太平洋調整官は、クアッドを次の段階に進める上で重要な役割を担うことになりそうだ。 さらにアメリカとアジアの同盟国は、この地域の安定に懸念を抱くアジア以外の国々が果たし得る共通の役割も考える必要がある。現状では、その有力候補はフランスとイギリスだ。両国は開かれた貿易ルートに依存しているだけでなく、インド太平洋地域に多数の海外在住者を抱え、インド洋南部からオセアニアまでの各地に海外領土を保有している。 フランスは既に一連のアジア戦略を発表済みだ。イギリスは今年3月にまとめた外交・安全保障の新方針「統合レビュー」でインド太平洋への関与を強調した。 英仏がアメリカに匹敵する役割を果たせるとは誰も思わないが、その存在を無視することもできない。イギリスはこの地域に空母を派遣し、フランスは4月にクアッドの海上共同訓練に参加した。両国にはクアッドの日常的活動を支援し、より限定的な能力しかない日本、インド、オーストラリアを補完する力がある。 ===== 対中批判に消極的だったニュージーランドのアーダーン首相さえも態度を変えつつある FIONA GOODALLーPOOLーREUTERS アジアでもそれ以外の地域でも、多くの主要国は中国に対して我慢の限界に達しているようだ。どの国も中国との経済的つながりや、世界第2の強国となった中国が世界で大きな役割を果たすという明白な事実を知らないわけではない。 だが、国際的な反発を招いているのはアメリカの敵意ではない。中国の政策だ。多くの国が共通の利害に基づいて手を組んだ共同戦線は、中国の行動に対する自然な反応なのだ。 世界は半世紀にわたり中国を世界の経済・政治システムに統合しようと試みてきた。一方で、中国の略奪行為や合意破りに対し、いかなる代償を科すことも慎重に避けてきた。 だが世界の主要国は今、答えを出す時が来たと考えている。自国の国益と、第2次大戦後に大国間の平和を維持してきた世界秩序をどうやって守るのかという問題の答えを。 From Foreign Policy Magazine