<男性ホルモン値が高いほど重症化傾向との従来説に、新たな臨床データがノーを示した> 新型コロナでは、男性の方が女性よりも重症化と死亡に至りやすい。この傾向はパンデミックの初期からはっきりと現れていた。米ハートフォード病院は、中国でのこれまでのコロナによる死亡者の73%が男性、イタリアでも70%が男性だったと紹介している。 これほど顕著な違いがありながら、その原因についてはいまだ確定的な説明がなされていない状態だ。さまざまな推測が登場しており、なかには生活習慣の違いを原因とする見方もある。英医療情報サイトの『メディカル・ニュース・トゥデイ』は、男性の喫煙率の高さやマスクを着けない割合が比較的多いことなど、生活パターンの違いを根拠に挙げるものが多く見られると述べている。 男性ホルモンに注目した説は、高いと重症化しやすいとの認識だった もっとも、比較的最近では、男性ホルモンを重症化の要因と位置付ける研究が出てきている。こうした説はこれまで、複数ある男性ホルモンのうち最も主要なホルモンである「テストステロン」の濃度が高いほど重症化に至りやすいとするものが主流だった。 この流れを汲んで今年1月には、米ミシガン大学が運営する探索的臨床病理学ミシガン・センターの研究者などが、ウイルス感染のメカニズムと関連づけた論文を著した。米国科学アカデミー紀要上で発表されたこの論文によると、男性ホルモンのテストステロンが気道上の細胞に作用し、より感染しやすい状態を作り出しているのだという。 研究チームは、ACE2およびTMPRSS2と呼ばれる物質に注目した。ACE2は、コロナウイルスが細胞内に侵入する際、ヒトの細胞に取り付く足掛かりになるものだ。トゲ状に飛び出たウイルスのスパイクタンパク質が、ヒトの細胞上のACE2受容体と結合すると、侵入の第一段階が完成する。このとき、細胞上のTMPRSS2と呼ばれる酵素が、ウイルスのスパイクタンパク質の働きを活性化する。 感染を促進してしまうこれら2つの物質は人体の多くの臓器に存在するが、とくに気道、肺胞、小腸に多く発現する。このうち肺内部の気道についてマウスを使った実験を行ったところ、男性ホルモンの増加に伴い、ACE2およびTMPRSS2の増加が確認された。実験ではオス・メスを問わず、男性ホルモンの増減に伴って同様の傾向が見られたという。 研究チームは、テストステロン値の上昇に伴ってこれら受容体が肺内部に多く発現し、より感染しやすい状態を生み出しているのだと説明している。本研究は感染に関するものだが、ほかにも既存の研究により、重症化との関連が指摘されている。 ===== 新研究は、低い数値と重症化との関連を指摘している このように男性ホルモンとコロナの感染・重症化傾向については、男性ホルモンの数値が高いほど用心が必要だとの説が主流であった。 ところが、このたび新たに発表された論文においては、これとは真逆の興味深い結果が示されている。米ワシントン大学医学部が行い米国医師会誌に掲載された研究結果によると、テストステロンが低いほど重症化との関連が強いのだという。 研究チームは新型コロナの重症患者を調査し、病状の進行と複数のホルモンの濃度との関係を記録した。調査では女性62人、男性90人分のデータを収集している。結果、女性の場合ではどのホルモンの濃度も病状との関連は見られなかった。しかし男性については、重症患者ではテストステロンの値が低いことが確認された。 通常の成人男性では、テストステロンの濃度が1デシリットルあたり250ナノグラムを切ると低値と判定される。研究チームが軽症ないし中等症患者の男性たちの数値を測定したところ、同量あたり平均151ナノグラム前後と低かった。重症者ではさらに低く、平均52ナノグラムにまで低下していることが判明した。また、調査対象のすべての男性患者において、病状が進行するにつれてテストステロン値が低下してゆくことが確認されたという。 自分で気づきやすいテストステロン減少の兆候もある 現段階で研究は相関関係を示すものだが、因果関係を示すものではない。つまり、重症化と男性ホルモンに何らかの関係はあると見られるが、必ずしも男性ホルモンの数値が低いことが原因で重症化を招いているとは断言できない。米技術解説誌の『ポピュラー・サイエンス』は本研究を紹介しつつ、場合によっては因果関係が逆であり、重症化したことがきっかけでホルモンが減少したとも考えられる、と補足している。 とはいえひとつの可能性として、男性ホルモンの急激な減少がコロナ感染や重症化のサインであるかもしれないということは、覚えておいて損はないだろう。ハートフォード病院は本研究を紹介したうえで、自分で気付ける男性ホルモン減少の兆候を紹介している。 それによると、性的不能が最も目立つサインのようだ。テストステロンは体内で一酸化窒素の生成を促し、男性器の機能を助ける。性的反応が完全でなかったり持続時間が短かったりする場合は、何らかの問題があると考えられるため、医師に相談した方が良いだろう。このほか、男性における乳房の発達、体毛やうぶ毛など頭髪以外の減少、不眠などが、男性ホルモン減少の可能性を示しているという。 新研究を発表したワシントン大のチームは、入院患者のうちどの患者が今後重症化しやすいかを予測するために役立つのではないかと提言している。 現在日本でも一部で病床不足が発生し、自宅療養者の容体急変が問題となっている。男性ホルモンの測定によって病状をある程度まで予見できるようになれば、近く本当に病床を必要とする患者を優先的に搬送するためにも役立ちそうだ。