<農村部の家族が自立して生活できれば移住は必要ない。究極の移民対策は壁ではなく地域経済の支援だ> 中米の「北部三角地帯」と呼ばれるグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルからアメリカを目指す人々が近年、増加している。米議会調査局によるとこれらの国からの移民について、2021年に入ってから現在までに税関・国境取締局(CBP)の捜査官が取り締まった人数は、既に昨年1年間を上回っている。 彼らの多くは、祖国を離れたいわけではない。ほかに選択がないのだ。国を出るか、さもなくば死を待つしかない。 しかし一方で、人々が地元に残って生き延びられるように、多くの組織が支援活動を行っている。その主要な戦略の1つが、農業支援プログラムのファーマー・フィールド・スクール(FFS)だ。 グアテマラでFFSを推進しているワールド・ネイバーズは、現在13カ国で活動している非営利団体で、1951年の設立以来、45カ国で地方の農家を中心に支援してきた。ケイト・シェクター会長兼CEOによると、FFSは農村部の家族が地元にとどまる理由と能力を与えている。 「土地を去る理由よりとどまりたい理由のほうがたくさんある。地域社会や自分の事業への投資は、人々が地元に残る重要な鍵になる」 ワールド・ネイバーズが支援するFFSは、隣人の助け合いを重視する。新しい作物の栽培方法や鶏の世話、家庭菜園の作り方などを周囲に教えようという意欲的な農家を、それぞれの地元で見つけるのだ。 例えば、主にコーヒー豆の生産に依存しているグアテマラの農家に、栽培する作物を多様化し、降雨を最大限に活用する灌漑システムを築く方法を教える。それは特に乾期や雨期に栽培を成功させることにつながるだろうと、シェクターは言う。 「FFSは基本的に実験農場だ。多くの新しい技術を学んだ経験豊かな農家がほかの農家に、収穫量を増やして灌漑用の水を確保し、作物を多様化して1つに依存しなくて済む方法などを教えている」 実際の訓練や新しい作物の栽培には時間が必要で、数年がかりのプロセスになると、シェクターは言う。また、工芸品作りや家庭菜園など、ワールド・ネイバーズがFFSと併せて奨励している取り組みも、自分たちで食べる分を育てながら、工芸品や余った食べ物を売って副収入を得ることにつながる。 「小さな家庭菜園だったものが、売り上げが伸びて家族の収入の重要な要素になっている」 ===== 人的資本と地域開発への投資 国連食糧農業機関(FAO)によると、多くの支援活動が女性の役割を重視するようになった。ワールド・ネイバーズもFFSに女性を参加させようと力を入れている。男性が畑に出ている間、女性が率先して家庭菜園の手入れやひよこの世話をしていると、シェクターは言う。女性は「コミュニティーを祖国につなぎ留める重要な要素」なのだ。 「彼女たちが自分でビジネスを始め、日々口にする水や食べ物の質を向上させる手助けをする。私たちはそのための方法を考え続ける」 こうした取り組みは全て、「彼女たちが健康で、子供が健康で、夫が都市やアメリカで働いて家族に送金する必要がなくなるようにするためだ」と、シェクターは続ける。 FAOが2018年に発表したFFSの分析でも、女性は「食料安全保障と貧困削減戦略の基本」とされている。「基本的に母親が健康で元気なら、家族全員が元気になる」と、シェクターは言う。「女性が隣人と話をして、情報を交換し、ポジティブな経験を共有できるようにすることは、人々が祖国で暮らし続けられるようにする戦略において、何よりも大きな効果があるだろう」 一方で、国連の世界食糧計画(WFP)は地域社会への投資を促すために、子供に重点を置いた活動を行っている。その一例が、グアテマラの教育省と協力して、学校で子供に食事を提供する教育センターと地元農家を結び付ける取り組みだ。 WFPグアテマラ事務所のリーナ・シュブマンは、農家に安定した収入源を提供することによって、「彼らの基礎体力を高め、自分たちのコミュニティーを発展させるために投資を続けようという動機を支える」と語る。「まさに、人的資本と地域開発への投資だ」 ただし、余った作物をどこに売るのか、天候が収穫量を左右するのではないかといった懸念から、学校給食プログラムへの参加をためらう農家もいると、シュブマンは認める。「この2つは農家にとって大きなリスクで、中長期的な体力や食料安全保障に影響を与えている」 17年にグアテマラ政府は、学校が購入する食材の50%以上を家族経営の農家から調達することを義務付ける法律を可決した。WFPで学校給食プログラムを担当するカレン・ケスラーによると、50%という基準は、生徒に健康的な食事を提供することと、地元の農家に安定した収入源を提供することを同時に実現しようというものだ。学校が家族経営の農家に支払うカネは、地域社会に還元されることになる。 ===== 公的機関の助成金の落とし穴 地域に根差したアプローチは、外国からの投資に取って代わることもできるだろう。だが外国からの投資は必ずしも意図したとおりに機能しないと、シェクターは指摘する。 さらに、ワールド・ネイバーズは国際的な活動について米国際開発庁(USAID)関連の助成金を得ているが、迅速な成果が求められる場合は問題になり得ると、シェクターは言う。「この種の助成金を獲得するためには、米政府の要請に応えなければならない。これは1~2年間のプログラムにはそぐわない。彼らが望むような影響力を及ぼすには長い時間がかかるだろう」 それでもシェクターは、グアテマラのような国からの移民が増える要因を解決するため地域社会と協力するというアプローチに、関心が高まっていることに希望を託す。 「外部からチームを招くだけではなく、地域社会と協力しなければならないという意識が高まっている。多くの開発プログラムが失敗してきた理由も、そこにある。すぐに多額の資金が投入されて、それで全てが変わると期待してしまう。私たちは長年の経験から、特にこうした奥地の田舎では、変化はゆっくり起きるということを学んだ」