<民主政府の要人らへの裁判が進むなか、デモは押さえ込まれ事態は軍政の狙い通りに──> 2月1日の軍によるクーデター以来、身柄を拘束されている当時の政権で実質上トップだったアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相は、その後軍政から複数の容疑で起訴されて、現在は裁判を受ける「被告」の身となっている。 その裁判についてスー・チー氏の弁護士が今後公判は毎週開催され、一部の容疑については早ければ6月26日にも結審するとの見通しを明らかにした。地元ミャンマーのメディア「ミッジィマ」がAFPの情報として6月8日に伝えた。 報道などによると、スー・チー氏の弁護士であるミン・ミン・ソー氏は7日に開かれた公判の前に約30分間、面会することができたという。身柄拘束後これが2回目の面会で、その際スー・チー氏からは「全ての国民は健康に留意して過ごすように」とのコメントがあったことを明らかにしている。 複数の容疑で公判が進行 ミン・ミン・ソー弁護士によるとスー・チー氏が起訴された容疑は複数あるが、このうち違法に外国から無線機を輸入した容疑と2020年11月に実施された総選挙の際にコロナウイルスの感染対策を怠ったという自然管理保護法違反に関しては、審理が現在進行中で6月7日にも公判が首都ネピドーの特別法廷で開かれた。 この裁判は今後ほぼ毎週開かれて次回公判は14日に予定され、早ければ28日も結審する可能性があるという。 14日の公判からは原告側の証人尋問が予定されていると弁護士は話しているという。 またこの公判とは別にスー・チー氏と同じように2月1日に身柄を拘束されて、「被告」の身となっているウィン・ミン大統領、与党「国民民主連盟(NLD)」幹部のミョー・アウン氏はスー・チー氏と同様に「国民に対する扇動罪」に問われており。こちらに関しては6月15日に初公判が開かれる予定となっている。 ===== 一部ではスー・チー氏の裁判が最終的に結審して判決が全て確定するまでは約180日かかるとの報道もあり、スー・チー氏が早期に釈放される可能性は現時点では極めて少ないという見方が有力だ。 これは軍政が「2年後をめどに公平な総選挙で民主的な政権を選ぶ」としている今後の国政のロードマップからスー・チー氏、そして与党NLD関係者、さらにクーデター後に軍政に対抗して民主派が立ち上げた「「国民統一政府(NUG)」をも排除して、軍政の意のままの総選挙を実施するための準備とみられている。 一時所在不明情報も、スー・チー氏 スー・チー氏の公判が開かれているネピドーの特別法廷周辺は、公判が開かれた7日には軍兵士による厳重な警備が周囲を固め、物々しい雰囲気の中で行われたという。 5月24日の法廷ではスー・チー氏の写真が国営メディアで公開された。身柄拘束後にスー・チー氏の写真が公に公表されるのは初めてだった。NLD関係者などの支持者は「本人の安全が確認された」と好意的に受け止めたが、公判のスー・チー氏の写真公開にも軍政による司法掌握をアピールする狙いがあるものとみられている。 75歳になるスー・チー氏は2月1日にネピドーにある自宅で身柄を拘束されて、それ以来自宅軟禁状態が続いていたが、6月に入って「行方が不明になった」との情報が流れ、支持者らが慌てる事態も起きた。軟禁場所を転々させられているという未確認情報もあるが、軍は「身の安全を確保するため」として、確認はできていない。 こうした情報が流れていただけに7日にミン・ミン・ソー弁護士がスー・チー氏と面会できたことで、NLD関係者などは一様に安どを示しているという。ただ一方ではこうした情報操作もNLD関係者やNUGメンバーに対する軍政側の「揺さぶり」との見方もでている。 ヤンゴンは経済活動を開始 こうしたなか、クーデター以降、全国に広まった一般市民によるデモは沈静化し、中心都市ヤンゴンでは6月に入って商店や飲食店、市場などが次々と営業を再開している。 軍政による「市民生活の安定化」を内外にアピールするための指示が出されたことにに加えて、生活困窮の市民が経済活動再開に踏み切らざるを得ないことが背景にあるとみられている。 ヤンゴン市内では日本食レストランも一部でオープンし、集客のために一部メニューを値下げして客を待っているという。 反軍政を掲げる市民の間では、スー・チー氏の裁判が長期に渡り、なおかつ「有罪判決」「長期の刑期」への不安が高まっており、裁判の今後の進展に対し固唾を飲んで見守っている状況といえるだろう。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など