<大学院生の自治組織が、植民地主義の象徴として肖像写真の取り外しを決定。大学に怒りのメッセージが殺到する騒ぎに> SNS上では差別的な言動をした人物を排除する「キャンセル・カルチャー」旋風が吹き荒れているが、なんとイギリスの最高学府でエリザベス女王が排除の対象となり、大騒ぎになっている。 きっかけは、オックスフォード大学の数あるカレッジの1つ、マグダレン・カレッジの1室に掲げてあった女王の肖像写真が取り外されたこと。 外したのは、同カレッジの大学院生の自治会だ。英王室の植民地主義的な体質を理由に、院生たちが集う談話室に掲げられていた写真を外すことにしたという。 1959年のエリザベス女王 By Unknown / Library and Archives Canada / Wikimedia Commons 「一部の学生にとって、女王と英王室の肖像は近年の植民地主義的な歴史を象徴するものである」──英紙ガーディアンが引用した自治会の声明はそう説明している。 デイリー・メール紙によると、自治会の今の委員長はメリーランド州出身のアメリカ人院生、マシュー・カッツマンだ。 女王の肖像が外されたことには、多くのイギリス人がショックを受け、騒ぎは政界にまで飛び火した。 ギャビン・ウィリアムソン英教育相は、院生たちの決定にツイッターでこうかみついた。「オックスフォードの学生たちが女王の写真を外すのは、愚かな行為としか言いようがない」 「女王は寛容の精神の象徴なのに」 さらにウィリアムソンは、エリザベス女王は「国家元首であり、わが国の最善の価値の象徴だ」と述べ、「彼女は長きにわたる治世に、寛容の精神、多様性の尊重、他者への敬意というわが国の価値観を、身を粉にして広めてきた」と女王の偉大さをたたえた。 一方、カッツマンはデイリー・メール・オンライン版の取材に応え、「われわれは女王や王室のメンバーに対して何らかの立場を示したわけではない」と語った。ただ、談話室を院生たちが誰でも抵抗なく利用できる「中立的な場」にしたかっただけだ、という。 「談話室はどういう場であるべきか話し合い、文化的・社会的な背景や思想信条に関わらず、誰でも気軽に立ち寄れる中立的な場にしようということになった」 さらにカッツマンはこうも語る。「ロイヤルファミリーの肖像はカレッジ内の多くの場所に飾られているのだから、われわれの談話室に掲げるまでもないと、みんなで決めた。自治会の考えはマグダレン・カレッジの考えではないし、われわれは室内装飾について投票で決めただけで、女王に対して何らかの見解を表明したわけではない。女王や王室には何の立場も取っていない。肖像写真はもっと相応しい場所に掲げるべきだと考えただけだ」 ===== 外した肖像写真は新たに飾る場所が決まるまで大切に保管すると、カッツマンは付け加えた。 折しもイギリスでは今、学問の場における言論の自由を保障する政策が推進されている。教授陣や学生、外部の講演者が大学当局に忖度して自由闊達な議論ができなくなることがないよう、英政府は大学当局の言論規制を禁じる法整備を進めていると、ガーディアンが報じている。 この流れで言えば、自治会の決定は尊重すべしと論じる政府関係者が出てきてもおかしくない。実際、ロバート・ジェンリック住宅・地域社会・地方自治相は、これは政治家が口を挟むべき問題ではないとの考えを示した。 「学生の自治組織が決めたことで、私はそこに首を突っ込む気はない。あくまで学生たちの判断だ」と、ジェンリックはBBCに語った。「私自身は執務室に女王の肖像を掲げており、それを誇りに思っているがね」 白人しか雇わなかったバッキンガム宮殿 最近明らかにされたバッキンガム宮殿の差別的な人事も、今回の騒ぎと無関係ではなさそうだ。 バッキンガム宮殿では少なくとも1968年まで「有色人種の移民または外国人」は事務職に採用しない慣行があったことがガーディアンの調査で分かった。 証拠となったのは、当時の内務省職員、T・G・ワイラーがエリザベス女王の最上級の財政顧問だったトライオン卿に雇用差別禁止法案について考えを聞き、その内容をメモした文書だ。 トライオン卿はワイラーに宮殿での職種は3種類あると説明していた。「1つは上級職で、人材募集など表立った募集は行わず、おそらくは(差別禁止)法案の適用外となる。2つ目は事務職で有色人種の移民または外国人は雇わないことが慣例になっている。3つ目は通常の家事労働で、有色人種の候補者も選考対象となり得るが、いずれにせよ提案されている(差別禁止法案の)除外規定に当てはまるだろう」 除外規定とは、女王や王室は禁止法に縛られないというもの。つまり、女王の意向しだいで、宮殿で働くスタッフは白人のみにできる、ということだ。 ===== 一方、今回の騒ぎについて、マグダレン・カレッジのダイナ・ローズ学長は「マグダレン・カレッジと女王陛下について、いくつかの事実を伝えたい」と断って、肖像外しを決めたのは「大学院生の自治組織であって、カレッジを代表する組織ではない」と、ツイートした。 さらに「自治会は何年か前、確か2013年に、女王の肖像写真を購入し、談話室に飾った」が、「最近になって外すことにした。飾ると決めたのも自治会なら、外したのも自治会だ」と指摘。「マグダレン・カレッジは言論と政治的な議論の自由及び学生たちの自治権を断固として支持する」と強調した。 学長はまた、「自治会がまた飾ると決めるかどうかは分からないが、今のところ肖像写真はきちんと保管されている」と述べた上で、次のように訴えた。 「学生の本分は学ぶことだけではない。さまざまな考えを探り、議論することも含まれる。そのため、時には年長者の怒りも買う。特に最近は、すぐに怒りを買うようだ」 「もしもあなたが(肖像外しに抗議して)カレッジに脅迫的なメッセージを浴びせてくる人たちの1人なら、怒りに任せて文字を打ち込む手を止めて、その手を胸に当てよく考えてほしい。それが、女王に対するあなたの敬意を示す最善の方法なのか、と」