<大統領選前に立て直し交渉で妥結すれば、強硬派のライシ次期大統領にとって有利だったはずだが......> イランで4年ぶりの大統領選が行われた先週は、イラン核合意の立て直し交渉が妥結すると期待されていた週でもあった。 核開発にひた走るイランに待ったをかけるため、イランと6カ国(アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリス、ドイツ)が「包括的共同作業計画」に合意したのは2015年のこと。イランが濃縮ウランの製造などを大幅に縮小するのと引き換えに、国際社会は経済制裁を段階的に解除するはずだった。 ところが18年、アメリカのトランプ政権が一方的に合意を離脱して制裁を強化。これに激怒したイランが核開発活動を加速させ、15年の合意は崩壊しつつあった。だが、アメリカの政権交代を受け、合意の立て直しを図る交渉が今年4月からウィーンで毎週のように開かれていた。 残念ながら、1つの目安とされていた6月18日のイラン大統領選までに、交渉は妥結に至らなかった。では、今後は何が起こるのか。 まず、重要な事実はアメリカもイランも、この問題を外交的に解決したがっていることだ。両国が再建合意に求めている最低ラインも、はっきりしている。アメリカは、イランの核開発活動を15年のレベルまで戻してほしい。イランは、アメリカをはじめとする国際社会に、経済制裁の大部分を撤廃してほしい。 アメリカの強硬派に代替策はない しかし、焦って長期的に維持できない合意を結ぶことも、両国は望んでいない。ジョー・バイデン米大統領にとって重要なのは、再建合意に対する国内の支持を最大化することではなく、声高な反対論を最小限に抑えることだ。 アントニー・ブリンケン米国務長官は、再建合意がまとまれば、イランは原油の輸出を再開して、外国から支払いを受けられるようになると認めてきた。それを気に入らない米議会関係者は多い。 バイデン政権は交渉に向けた「本気度」を示すため、既にイランの石油関連企業と関係者の一部に対する制裁を解除してきた。それだけでも、イランの中東における勢力拡大戦略の資金源になるとして、ワシントンでは批判の声が上がっている。 だが、バイデン政権の強みは、どんなに強力な批判派も「では、どうすればイランの核開発をストップできるか」という核心的な問いに対して、現実的な代替策を示せていないことだ。いかに厳しい制裁を科してもイランを止められないことは、最大限の圧力をかけたトランプ政権時代に既に明らかになっている。 ===== 最も現実的な代替案に近いのは、6月初旬にロバート・メネンデス上院議員(民主党)とリンゼー・グラム上院議員(共和党)が、ワシントン・ポスト紙への共同寄稿で示した案だろう。両議員は、中東に核燃料バンクを設置して、イランをはじめとするペルシャ湾岸諸国に濃縮ウランを供給する仕組みをつくるべきだと主張した。そうすれば、イランはもとより、やはり核開発に意欲を示しているアラブ首長国連邦やサウジアラビアにも、濃縮ウランの独自製造を断念させることができるというのだ。 堅実なアイデアだが、現実味は乏しい。というのも、既にこの案はイランに対して提案され、拒絶されているからだ。むしろイランは、独自のウラン濃縮能力を維持することに強くこだわってきた。自らの国力を増強するために核開発をしようとしているのに(そしてそのために既に何十億ドルも投じてきたのに)、肝心の濃縮ウランの獲得をよそに頼れるわけがない。 バイデン政権はアメリカ国内、とりわけ米議会内で対イラン政策に関して強固な支持を得ていない。このため、ウィーンでは不要な譲歩を一切しない構えだ。 ブリンケンも6月8日の米上院公聴会で、たとえ再建合意が成立しても、「数百の制裁が残る」との見方を示した。また、イランが「態度を変えたとき」に初めて、米政府は核開発とは無関係の分野の制裁解除を検討し始めるだろうとも語った。 イランが最も恐れていること こうした強気な発言は、バイデン政権の国内向けのアピールだが、イラン政府としては、それだけでも米政府に大きな要求を突き付けざるを得ない。例えば、イランの最高指導者アリ・ハメネイが「検証可能な制裁緩和」と呼ぶもの。外国企業が制裁破りだとして処罰を受ける心配なく、イラン企業と取引を行える環境を保証してほしいというわけだ。 イラン政府が何より恐れているのは、アメリカが制裁の呼び名を変えるだけで、実質的にこれまでと同じ締め付けを維持することだ。 イラン国内の事情もある。核合意の立て直しのタイミングについては、現体制の間でも意見が割れている可能性があるが、ハメネイとしては、大統領選前に合意をまとめたかった可能性は十分ある。 なぜか。8月に任期満了を迎えるハサン・ロウハニ大統領のはなむけとしてではない(ハメネイはロウハニと折り合いが悪いことで有名)。次期大統領選出が確実とみられているイブラヒム・ライシ司法府代表を守るためだ。(編集部注:イラン内務省は6月18日、大統領選でのライシの勝利を発表した) ===== 大統領選の前に再建合意が締結されていれば、それによって何らかの不都合が生じたとしても、ロウハニの責任にすることができる。一方、再建合意が検証可能な制裁緩和などイラン経済に現実的な恩恵をもたらした場合、ライシ政権にとっては政治的にも経済的にも大きなプラスになるだろう。 それにもかかわらず、先週合意がまとまらなかった理由は、おそらく1つしかない。各国の交渉担当者たちは依然として、細かな条件を詰める作業に終始している。しかしハメネイは、この細かな条件こそが、イランを現在の存続の危機から救うか否かを決めると知っているのだ。 From Foreign Policy Magazine