<アメリカの台湾政策を批判し中国共産党系のタブロイド紙に意見記事を寄稿したこの職員は現在、米当局の捜査対象となっている> 中国共産党人民日報系のタブロイド紙「環球時報」に寄稿して内部告発をしたことを理由に、米海軍犯罪捜査局(NCIS)の調査を受けている米国防総省の職員が6月23日、ジョー・バイデン米大統領に宛てた公開書簡を発表。台湾に関わると「アメリカが中国との大戦争に巻き込まれるおそれがある」と警告した。 元米海兵隊員で、現在は米国防総省に勤務しているフランツ・ゲイル(64)は本誌に対し、ほかの複数のメディアに掲載を断られたため、「最後の手段として」環球時報に接触したと語った。 ゲイルは24日付の本誌宛てのメールの中で、「(寄稿した記事は)アメリカの外交政策を決定する立場にある人々に向けて書いたものだ」と述べた。4月27日と5月27日に環球時報に掲載された2本の記事の中で、彼はアメリカの台湾政策を厳しく批判している。 彼が特に強く反対したのが、台湾関係調整法(TRA)。1979年に米政府が中国との国交を樹立した(つまり台湾と断交した)後、台湾との関係を維持する上での指針となってきた法律だ。 中国は台湾に対して「正当な権利がある」 ゲイルは、台湾問題をめぐって中国との衝突が起きればアメリカが負けることになり、多くの命が失われるとして、米台関係を継続することに反対を表明している。彼はまた、中国には台湾の主権を主張する正当な権利があり、台湾を支配下に置くためなら「あらゆる手段を」取るだろうとしている。この点については、ゲイルは中国政府と同じ意見だ。 「台湾関係調整法は制定当時から、アメリカを中国との戦争へと向かわせてきた」とゲイルは本誌宛てのメールで述べた。1979年にデラウェア州選出の民主党上院議員だったバイデンは、同法に賛成票を投じていた。 ゲイルは23日に発表したバイデン宛ての公開書簡の中で、環球時報に意見記事を寄稿したことを理由に、米国防総省から処罰を受けたと示唆した。 「予想はしていたが、私は機密情報へのアクセス権限を一時停止されるという代償を払い、現在は防諜捜査の対象になっている」と彼は書いている。 米海兵隊のアンドリュー・ウッド大尉は、本誌に寄せた声明の中で、問題の意見記事は「適切な承認プロセス」を経ていなかったと述べた。 「ゲイルが表明した見解は個人の見解であり、米海兵隊の見解を代表するものではない」とウッドは説明。また彼によれば、ゲイルは現在、米海兵隊の科学技術分野の顧問を務めているという。現在進められている捜査については、ウッドからも米国防総省のジョン・サプル報道官からも、これ以上のコメントはなかった。 ===== ゲイルは公開書簡の中で、バイデンは「台湾の地位をめぐって、アメリカを中国との大規模な戦争に巻き込むおそれがある」と警告を発している。 バイデン政権は、「台湾連線(台湾コーカス)と呼ばれる超党派の議員団が主導する集団思考に感化されている」と、ゲイルは指摘する。台湾コーカスには、米上下院合わせて163人の議員がいる。 ゲイルはバイデンに対して「中国の内戦が偶然または計画的に再燃し、激しさを増すおそれがある場合には、アメリカは軍事介入を控えるべきだ」と忠告した。「東南アジアにおける我が国の歴史から教訓を学び、勝ち目のない戦いのためにアメリカ国民の血を流してはならない」 彼は6月11日付のワシントン・ポスト紙とのインタビューの中で、自分が捜査対象になっていることを明かしていた。同紙によれば、米政府は国防総省のインサイダーであるゲイルが「中国側に機密情報を漏らした」かどうかを調べているという。ゲイルは本誌に対して、捜査について詳しいことは言えないと述べた。 ゲイルによれば、環球時報からは意見記事の寄稿に対して報酬の提示があったが、彼はそれを断ったという。23日付の同紙には、ゲイルがバイデン宛の公開書簡を発表したことに関する記事が掲載された。 中国政府はゲイルを擁護 ゲイルは、これが「なんらかの影響を及ぼして戦争を阻止する最後のチャンス」かもしれない、と書く。「現在大きなトラブルに直面しているが、チャンスがあるうちに正しいことをしたいと考えている」 ワシントン・ポストのこのインタビュー記事が出た後、環球時報の記者が中国外務省に、米国防総省による捜査について尋ねた。 中国外務省の趙立堅報道官はゲイルを支持しているようで、6月15日に「アメリカは言論の自由と正義の擁護者を自称していたのではなかったのか。多くの人がそれを疑問に思っているだろう」という回答を寄せ、その中でさらにこう述べた。「フランツ・ゲイルは米政府と異なる立場を表明する記事を2本書いたというだけの理由で、捜査の対象になっている。なぜアメリカは、彼が個人的な意見だと明記した上で書いた記事の発行を許せないのか」 台湾政策に関する複数の専門家は本誌に対して、ゲイルの意見記事は中国政府の立場を後押しするものだと指摘した。 ===== ゲイルの意見は「台湾および中国に対するアメリカの政策について、誤った解釈をしている」と、シンクタンク「プロジェクト2049研究所」の非常勤研究員であるジェシカ・ドランは述べた。 彼女は、ゲイルの意見記事はアメリカが「台湾の独立を助長するような政策環境を意図的につくっていると主張しているが、実際にはアメリカは台湾の主権について、これまでも現在も特定の立場を取っていない」と説明した。「中国はこれまで執拗に、アメリカが台湾に肩入れしているという論調を形作ろうとしてきた。ゲイルの主張はそれを後押しする役割を果たし、だからこそ否定する必要がある」 アメリカン・エンタープライズ研究所の客員研究員であるマイケル・マッツァは、ゲイルの主張は「中国、台湾やアメリカの政策について、まったく理解していないことは明らかだ」と指摘した。 「この意見記事を書いた人物は、米議会が利益目的で、強力な米台関係を支持していると主張している。彼はこの主張について何の証拠も提示しておらず、アメリカがこの地域に利害関係を持っている可能性を検討さえしていない」とマッツァは批判。 「ゲイル氏は、自国の政府が戦略的な競争相手と見なしている外国勢力を、積極的に支援し、煽っている」と述べ、彼の意見記事は「周辺地域の歴史や台湾の政治的現実についての理解が不十分」なことを示していると述べた。