<先に風邪をひいていると免疫系が直ちに反応でき、体内でのコロナウイルスの増加を食い止めてくれるのだという> 日頃不便に感じる風邪も、気づかないうちにコロナウイルスから身体を防御してくれているのかもしれない。アメリカの研究により、風邪をひいているとコロナに感染しにくいという可能性が示された。 風邪の原因にはさまざまなウイルスがあるが、最も多いのはライノウイルスによるものだ。風邪の症例のうち2割から5割程度のケースで原因になっており、とくに春と秋のシーズンに多くを占めるといわれる。 イェール大学で免疫生物学を研究するエレン・フォックスマン博士たち研究チームは、このライノウイルスの副次的な効果に着目した。一般的な風邪をひいてこのウイルスに感染していると、コロナウイルスが体内に侵入したとしても、増殖を抑えることができるのだという。研究の結果がこのほど、薬学学術誌のエクスペリメンタル・メディシン誌上で公開された。 新型コロナの爆発的増殖、ラボの実験でほぼ皆無に 新型コロナウイルスは、鼻から喉にかけての上気道と呼ばれるエリアに付着して侵入する。そこで研究チームは、新型コロナウイルスが気道組織上でどのように増殖するかを2つのパターンで検証した。 はじめに、人工的に培養したヒトの気道組織に新型コロナウイルスを感染させたところ、組織内のウイルス量は6時間ごとに倍増という圧倒的な速度で増殖し、3日間でピークに達した。一方、あらかじめライノウイルスに感染させた気道組織で同様の実験を行ったところ、新型コロナウイルスの複製はほぼ完全に阻害されることが確認された。 実験ではさらに、通常時のヒトの免疫機能だけでコロナへの感染を阻止できるかを検証した。結果、コロナへの曝露量がごく少ない場合には感染を防止できたが、ウイルス量が一定以上になると無力であったという。すなわち、少量の新型コロナウイルスに曝された場合は本来の免疫のみで防御できるが、一定量以上の量に曝された場合には、ライノウイルスの有無が感染の明暗を分ける可能性がある。 先にひいた風邪が免疫機能を「起動」してくれる コロナの感染を防ぎやすくなるといっても、ライノウイルスが直接コロナウイルスを撃退してくれるわけではないのだという。防御作用が生じるのは、風邪の感染時に身体の防御機構が「起動」し、臨戦状態になっているためだ。免疫が高まるまでのタイムラグが生じなくなり、コロナへの曝露時に遅延なく免疫効果を発揮できるようになる、と博士たちは考えている。 一般に、体内でウイルスが検知されると、免疫細胞がたんぱく質の一種であるインターフェロンを分泌する。インターフェロンはほかの細胞上にある複数の受容体と結合し、結果的に「インターフェロン誘導遺伝子」と呼ばれる遺伝子群を産生することで、ウイルスへの抵抗力を高める。 新型コロナウイルスへの感染時にも体内の細胞はインターフェロンの分泌を始めるが、コロナウイルスは感染初期に爆発的なスピードで増殖する。そのため、ウイルスの量に対抗できるだけの十分なインターフェロンの産生が間に合わず、感染が進んでしまう。 ===== 一方、コロナへの曝露時にすでにライノウイルスに感染していた場合、すでに体内ではライノウイルスに抵抗すべく、豊富なインターフェロンとインターフェロン誘導遺伝子が用意されている。これが新たに侵入してきたコロナウイルスの複製にすばやく歯止めをかけ、増殖を抑え込むというしくみだ。 同様の関係は、風邪とインフルエンザについても成立することがわかってきている。フォックスマン博士の研究室では昨年行った実験により、風邪ウイルスがインフルエンザへの感染を予防する可能性があることを突き止めていた。その知見を生かし、新型コロナウイルスとの関係が明らかになった。 なお、注意点として、インターフェロンの持続期間は1〜2週間ほどとなっている。そのため、一度風邪をひけばコロナにかからないというわけではない。 昨年からの学説に決着 風邪がコロナに対して予防効果を発揮するのではないかという見解は昨年から出ていたものの、その真偽や詳細なメカニズムなどは未検証のままだった。英スカイニュースは昨年10月、フォックスマン博士たちが今回の実験前に発表した仮説を報じている。以降、半年以上にわたって決着を見なかったコロナと風邪の関係性が、本研究をもって立証された形となる。 博士は今回、イェール大学が発表したプレスリリースのなかで、「ウイルス同士のあいだには、私たちの理解が及ばない知られざる相互作用があります。今回の発見は、新たに私たちの目に明らかとなったパズルの一片なのです」と語り、ウイルスの世界にはまだまだ科学が追いついていない複雑な関係性があるとの見解を示している。 本研究では、例年人々を悩ませている一般的な風邪が、新型コロナウイルスに対する免疫機能を高めている可能性が示唆された。決して積極的に風邪をひくことが推奨されているわけではないものの、私たちの体内でまさに「毒を以って毒を制す」というべき興味深い現象が起きているようだ。