<オーストラリア東部を襲ったネズミの大発生は収束に向かっているが、事態の改善までに多くの犠牲を伴った。穀倉地帯に迫るネズミの波が、農業を営む人々のわずかな希望を打ち砕く> オーストラリアでは毎年のように干ばつが続いており、昨年末には追い討ちをかけるように大規模な森林火災に見舞われた。その後久方ぶりの雨に恵まれ、農家は束の間の安堵を得る。農家のコリン・ティンク氏は英インディペンデント紙に対し、この雨でようやく幸運が訪れたと思った、と語っている。降雨のおかげで3月までのオーストラリアの夏の期間中、氏は2年間牛を養えるだけの干し草を収穫できたという。 しかし、そこへ訪れたのがネズミの害だ。その量は凄まじく、ティンク氏が一晩で捕まえたネズミの量は7000匹に上る。ネズミたちはサイロいっぱいに蓄えられた干し草の奥深くまで侵入し、あちこちを食い荒らした。その害は食い荒らされた量に留まらない。いったんネズミの侵入を許してしまうと、サイロ全体が糞尿に汚染されるのだ。ティンク氏はやっと手にした2年分の干し草の全量廃棄を余儀なくされた。63歳のティンク氏はすべて焼き払ったと述べ、「胸が少々痛むね」「振り出しに戻ったのだから」と心境を打ち明ける。 この投稿をInstagramで見る Matthew Abbott(@mattabbottphoto)がシェアした投稿 家をネズミに占拠され、町を後にする人々 被害は農家のみならず、町で暮らす人々の家屋と家財にも及んだ。シドニーから400キロほど内陸に進んだところに位置するギルガンドラの町では、住民のヤングハズバンド氏の家をネズミの大群が襲った。その数は、半日で450匹が罠に掛かるほどだったという。ソファーから洗濯機内部の配線まであらゆる家具と家電がかじられ破壊されたほか、壁の中では大量のネズミが死に、家全体に嗅いだことのない悪臭が染み付いてしまった。家は住める状態ではなくなり、氏の妻と娘は近郊の町へ疎開を迫られた。 ネズミは社会インフラをもむしばむ。6月下旬には豪ニュースサイトの『news.com.au』が、ニューサウスウェールズ州の刑務所が被害に見舞われ一時閉鎖する騒ぎがあった、と報じている。同州の更生施設であるウェリントン矯正センターがネズミの糞尿に汚染され、電気系統にも被害を受けたことから、420人の受刑者と200人のスタッフが他の施設に移送された。 人間に加え、犬や猫などのペットたちも思わぬ形で被害に遭っている。ネズミ撃退のためにやむなく殺鼠剤を設置する家庭が増えているが、これをペットたちが誤飲してしまうのだ。飼い主が保管場所に注意して扱っていても、設置時に手が滑り床に落としたところをペットの犬が即座に呑み込んでしまうなど、不慮の事故が絶えない。殺鼠剤の成分としては、血を固まりにくくする抗凝固剤のワルファリンが広く使われている。ビタミンKをすぐに与えれば助かる可能性が高いが、大発生を受けてビタミンK自体が品薄となっており、いざ誤飲した際にすぐには入手できない状況だ。 ===== 特効薬は承認得られず、19世紀の伝統手法で捕獲 増殖を抑える決定打はなく、政府も市民も頭を抱えている。ワルファリンに抵抗力を持つネズミが現れていることから、別の抗凝固成分であるブロマジオロンの導入が期待されていた。しかし、鳥や魚などの野生生物への影響が大きいことから、危険性も指摘されている。ニューサウスウェールズ州政府は農地における緊急使用を申請していたが、豪農業・動物用医薬品局は先日、これを却下した。豪公共ニュース配信サービスのABCニュースは、フクロウなど猛きん類や魚など多くの野生生物がネズミを捕食しており、二時的な死亡被害が大きすぎるとの見解を報じている。 対策が限られるなか、意外に大きな効果を発揮しているのが、19世紀から使われてきた歴史ある捕獲法だ。この手法では、水を張ったバケツの上に、ピーナッツバターを塗ったワインボトルを固定する。また、ボトルから地面にかけて古くなったジーンズなどを垂らしておく。するとネズミが地面からジーンズを伝ってボトルに上り、ピーナッツバターを目指してワインボトルの上を歩くが、途中で足を滑らせてバケツの水へと落ちる、というトラップだ。news.com.auによると、ある農家はこの古い手法で毎晩数十匹の捕獲に成功しているという。 一概に罠の成果というわけではないが、気候の変化も後押しし、ネズミ被害はすでに最悪の時期を脱したようだ。南半球のオーストラリアでは気温が下がりつつあり、これに伴ってネズミの繁殖も落ち着きを見せている。住民たちは完全に被害が去ったかどうかまだ確証を得られないようだが、家や穀物畑で見かけるネズミの数は目に見えて減ってきているという。 ただし、オーストラリアはここ100年ほど、数年おきにネズミの大発生を繰り返している。サイエンティフィック・アメリカン誌は、5年や10年など特定のサイクルは存在せず、豪雨があった年に大量発生が起きやすいと説明する。残念ながらまた数年後、同様の光景が広がる公算は高そうだ。 ===== Mouse plague in NSW, activists suggest 'catch & release' strategy | 7NEWS Mouse plague deals fresh blow to Australian farmers - BBC News