<確実に高まる中国の脅威。だが、インド太平洋地域でアメリカ頼みの包囲網に抑止力は期待できない> 二極化が著しい米政界だが、中国政策については党派を超えて大きなコンセンサスがある。中国をパクス・アメリカーナ(アメリカの力による平和)の最大の脅威と見なしていることだ。 対中強硬派として知られるトム・コットン上院議員など共和党のタカ派は、中国によるレアアースの輸出規制や軍備増強に、アメリカに対する野心が反映されていると警戒している。 右派は民主党が中国に甘いと評するが、ジョー・バイデン米大統領は就任前から、アジアの同盟国であるオーストラリア、日本、韓国にインド太平洋地域で中国に対抗しようと呼び掛けてきた。 6月3日には、通信など59社の中国企業にアメリカ人が株式投資をすることを禁止する大統領令に署名。中国に対する懲罰的な経済政策は、ドナルド・トランプ前政権の路線を引き継ぐものだ。 カート・キャンベル国家安全保障委員会(NSC)インド太平洋調整官は5月に、対中政策について「広義で関与と称された時代は終わった」と語っている。 アメリカの対中政策が政権交代でも変わらないことを示すもう1つの例は、クアッド(日米豪印戦略対話)の強化だ。クアッドは2007年の安倍晋三首相(当時)の発案から、インド太平洋地域4カ国で安全保障などを協議する枠組みとして誕生した。今年3月に初の首脳会議が行われ、共同声明が発表された。 結局はアメリカ頼みになっている 続いてアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が日本と韓国を歴訪。オースティンはインドも訪問した。 中国政府は即座に反応し、クアッドは平和に対する真の脅威だと非難した。5月にはインド太平洋の小国バングラデシュに、クアッドに協力しないよう警告。中国は昨年9月にも、ASEANで同様のメッセージを発信している。 新興勢力の台頭は反発を呼ぶものだが、クアッドの問題点は別にある。多国間の枠組みという名を借りて、結局はアメリカ頼みになっていることだ。 クアッド4カ国のうち、中国と衝突する可能性が最も高い東シナ海と南シナ海において、大規模かつ強力で、永続的な軍事的プレゼンスを維持できるのはアメリカだけだ。 中国の核兵器は日本やオーストラリアに対して、さらには核を持つインドにも、威圧的な手段として機能するだろう。ただし、中国より多くの核兵器を保有するアメリカには通用しない。 中国と核を使わない軍事衝突が起きれば、アメリカは有利な条件で勝利するか、少なくとも戦争を終わらせることはできるかもしれない。しかしこの数十年で、人民解放軍は、戦争になればアメリカが確実に大きな代償を払うことになるだけの力は付けている。 ===== 今年3月にはオンラインでクアッド初の首脳会議も開催されたが TOM BRENNERーREUTERS 中国にとって、アメリカは依然として強大な敵だ。しかし、ここで考えるべき問題は、クアッドのほかの国々に何ができるかということだ。大々的に喧伝されてはいるが、あまり期待はできない。 例えば、インドの人口は中国とほぼ同じ。出生率はインドのほうが高く、人口で中国を抜く日も近いだろう。 人口は国力を表す指標の1つだが、国の資産になるかどうかは、人的資源の発展に大きく依存する。この点については、寿命、教育水準、技術力、カロリー摂取量、健康など大半の指標で、中国がインドを大きくリードしている。 軍事力と技術力の格差 技術に関しても同様で、その差はますます広がるだろう。中国のGDPはインドのおよそ4倍で、さらに技術研究開発費の対GDP比率はインドの0.7%に対し中国は2%。年間の研究開発費はインドが約480億ドルで、研究者は人口100万人当たり156人。中国はそれぞれ約3460億ドル、1089人だ。 インターネットの普及率、学校や大学、インフラの質、最先端技術の成果(ロボット、人工知能、5Gなど)を比較すると、中国の圧倒的な優位があらためて浮き彫りになる。 こうした中国の技術全般にわたる明確な優位性と、インドの約4倍に上る軍事予算によって、その差は一層広がるだろう。さらに、インド軍は南シナ海まで3500キロ以上移動しなければならないが、中国軍はインド北部の広大な辺境に展開している。 従って、アメリカの中国に対する抑止力としてインドに何ができるのか、具体的に想像することは難しい。 東アジアで最も中国の復権を懸念しているのは(台湾を除けば)、歴史的・地理的理由で恐らく日本だろう。インドに比べれば日本は大きな強みがある。日本の名目GDPは中国の40%未満とはいえ世界第3位、人口1人当たりの実質GDPは中国の2.5倍だ。日本の人的資本は良質で、豊富な熟練労働力と科学的専門知識に支えられ技術力もトップクラスだ。 軍事面では、日本の自衛隊は最先端技術を誇り、先端防衛産業が生み出すハイテク兵器は世界クラスと評される。しかし中国の国防費は日本の5倍、戦争での勝利に不可欠な兵器の数も日本を上回る。日本の防衛費は9年連続で増加したが、対GDP比は60年近くほぼ1%未満で推移してきた。大幅な拡大は原則可能だが、その兆しはない。従来の方針を貫いて反中の軍事的連携に加われば、日本は大きなリスクを負うことになる。 日米安全保障条約では米中有事の際に自衛隊は米軍を援護する義務はないが(第5条はアメリカの対日防衛義務を定めたもの)、深入りすれば中国のミサイル攻撃や空爆を受けかねない。 ===== アメリカが台湾防衛での共同戦線を呼び掛けても、日本は関与を避けてきた。今年4月の日米首脳会談後の共同声明で「台湾海峡の平和と安定」に言及したことについて、菅義偉首相は軍事的関与を前提としたものではないと明言した。アメリカが守ってくれるなら日本がリスクを冒す理由はない。 オーストラリアも連携をさほど強化できないだろう。豪海軍は南シナ海まで5000キロ近く、台湾まではさらに約800キロ航行しなければならない。到着後は中国のミサイルや潜水艦、軍用機からの攻撃に加え、部隊への補給線となる海上交通路の切断を狙う中国軍の軍事作戦が待ち受ける。 近年の中国の台頭はこの海域のパワーバランスを変えてきた。豪海軍は日米印の共同海上演習「マラバール」に2回(07年と20年)参加したが、戦力不足で中国軍に対する海上作戦はアメリカの思惑の域を出ない。 NSCのキャンベルらはオーストラリアの海軍戦略拡大に熱心だが、状況は変わらないはずだ。ロウイー国際政策研究所の6月の世論調査では、オーストラリア国民の57%が米中の軍事衝突では「中立維持」と回答した。 クアッドを純粋に軍事的な観点で判断するべきではないかもしれない。結局、戦略とは武力が全てではないのだ。 中国側の「報復」が怖い それでも全体図は変わらない。クアッドが東アジアにおける中国の影響力拡大に対抗する政治的パートナーシップでもあるなら、4カ国は具体的に何をし、役割分担はどうなるのか。中国と敵対国の対立に巻き込まれることを嫌うASEANの逃げ腰をどう克服するのか。 アメリカを除く3カ国は中国に経済的圧力をかけることはできるかもしれない。だが対中貿易・投資に依存している以上、一時的で慎重なものにならざるを得ないだろう。 輸出の約39%を中国向けが占めるオーストラリアがいい例だ(対米は4%未満)。オーストラリアは香港と新疆ウイグル自治区での中国による人権侵害を批判し、中国通信大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を5G通信網から排除。さらに新型コロナウイルスの起源について独立調査を要求した。 これに反発した中国はオーストラリア産のワインに最大200%超、大麦に80%の反ダンピング関税を発動。さらにイセエビ(96%が中国向け)を税関で止め、食肉も一部輸入停止に。石炭の荷揚げも差し止めて、オーストラリアからの貨物船を数カ月にわたり海上で立ち往生させた。 オーストラリアは屈しなかったが、中国の狙いは別にある。オーストラリア以外の国々にもメッセージを送ることだ。 クアッドが消滅することはない。今後も首脳会談を開催し、声明を出し、海上演習を実施するだろう。だがクアッドをアメリカの新・対中包囲戦略の核にしようと考えるのは間違いだ。 From Foreign Policy Magazine