<首相が2人いる上、憲法で定められた大統領後任の最高裁長官は死去していた> カリブ海の島国ハイチでは、7月7日に暗殺されたジョブネル・モイーズ大統領の後任選びをめぐって混乱が深まっている。憲法に従えば最高裁長官が後任に就任することになるが、彼はモイーズの暗殺前に新型コロナウイルス感染症で死亡している。 現在はクロード・ジョセフ暫定首相が国を率いているが、モイーズは暗殺される前日に、彼の後任としてアリエル・アンリを指名していた。アンリはAP通信に対して、現在の首相は自分だが紛らわしい状況にあると述べた。 モイーズに対しては、自らの権限を強化しようとしているという批判の声が高まっており、野党が彼に辞任を求めるなど、存命中からハイチの混乱は始まっていた。その彼が暗殺され、誰が後任になるのかは不透明なままだ。 以下はAP通信の報道だ。 実行犯は「高度な訓練を受けた重武装集団」 既にさまざまな問題や混乱に直面してきたハイチが、モイーズが銃撃されて死亡したことで、ますます不透明な未来に直面している。当局はモイーズを襲撃した容疑者4人を殺害し、2人の身柄を拘束したと発表。人質となっていた警察官3人は解放されたという。 7日未明、モイーズは私邸にいたところを襲撃され、銃で撃たれて死亡した。マルティーヌ・モイーズ大統領夫人も撃たれて重傷を負い、治療のために米フロリダ州マイアミに搬送された。当局は、襲撃の実行犯全員を見つけると誓った。 ハイチ国家警察のレオン・シャルル長官は7日夜、複数の容疑者の身柄を拘束したことを発表したなかで、「(襲撃を実行した)傭兵たちの追跡は今後も続く」と述べ、こう続けた。「彼らの運命は決まっている。戦うか、捕まるかだ」 警察は容疑者たちの年齢や氏名、国籍を明かさず、彼らの動機や、いかにして容疑者たちにたどり着いたのかについて明らかにしていない。大統領夫妻の襲撃について唯一明かしたのは、実行犯が「高度な訓練を受けた重武装集団」であり、複数のメンバーがスペイン語または英語を話していたということだ(その後のCNNの報道によると、2人はアメリカ人だった)。 ジョセフは警察と軍の支援を得て国の指揮を執り、2週間の「封鎖状態」を宣言した。 ===== ハイチは、西半球で最悪の部類に入る貧困や暴力、政治不安に見舞われている。食料品や燃料も手に入りにくく、インフレやギャングによる暴力が急増。労働者の60%は収入が1日2ドルに満たない。独裁体制や政局の混乱の歴史に加え、2010年の大地震と2016年の大型ハリケーン「マシュー」の被害からの復興もまだ完了していない。 そして起きた今回の大統領暗殺事件とその後の混乱に、ハイチ国民や海外で暮らす彼らの親族・友人たちは、今後の展開を懸念している。 マイアミのリトルハイチ地区に暮らすハイチ人コミュニティーを支援している団体「ファミリー・アクション・ネットワーク・ムーブメント」の事務局長であるマーリーン・バスチャンは、「現地で権力の空白が生じており、人々は家族や友人がどうなるのかと恐れている」と語った。 憲法改正に反発が高まっていた バスチャンは、ハイチで自由で公正な選挙が実施されるように、ジョー・バイデン大統領率いる米政権がこれまで以上に積極的な支援を行って、ハイチ国内の対話を促していくことが重要だと述べた。彼女はまた、海外に暮らすハイチの離散民たちが、その対話に参加できることを願っているとも語った。「一時しのぎの対応はもういらない。ハイチの人々はあまりにも長い間、苦しんできた」 ハイチではこの数カ月、モイーズに抗議する運動が拡大して暴力に発展していた。モイーズは大統領の権限を強化する憲法改正案を推し進めており、秋には憲法の是非を問う国民投票を計画していたが、複数の野党指導者とその支持者たちはこれを拒否していた。 モイーズ暗殺から数時間が経過しても、首都ポルトープランスでは公共交通機関の運行も露天商の姿もまばらな状態が続いていた。普段は大勢の人でにぎわっているこの地域では異例の光景だ。断続的に鳴り響く銃声は、ギャングの勢力伸長を思い起こさせる。6月だけでも1万4700人を超える人々が、領土をめぐる争いの中で自宅を焼かれたり、荒らされたりして避難を余儀なくされた。 ===== 米バージニア大学で政治学を教えるハイチ専門家のロバート・ファットンは、ギャングは無視できない厄介な存在であり、ハイチの治安部隊が封鎖状態を施行できるかどうかは不透明だと述べた。 「今は一触即発の状態だ」と彼は述べ、諸外国が国連の軍事プレゼンスという方法で介入を行う方法も選択肢のひとつだとつけ加えた。「クロード・ジョセフが今後、権力の座にとどまり続けることができるかどうか、大きな疑問だ。彼が国を結束させる政府を樹立しなければ、それはとても難しいだろう」 ジョセフはAP通信の取材に対して、暗殺事件についての国際的な調査を支持する考えを示し、年内に予定されている選挙は実施されるべきであり、自分はモイーズを支持していた人々とも、彼に反対していた人々とも協力していくと約束した上で、こう語った。「すべては順調にいっている」 ===== ハイチには新型コロナワクチンがまだ1本も届かず、マスクも買えない人々がいる