<1日あたりのコロナ感染者が5万人を超えるなど、東南アジアで最悪の感染状況となっているインドネシア。約2万人いるという日本人の安全は?> コロナ感染が拡大し、連日感染者や死者が記録的に増加し続けているインドネシア。現地に滞在している在留日本人の間では「一時帰国」に関する情報が錯綜、混乱したことによる不安が急速に拡大している。 インドネシアではジョコ・ウィドド政権による後手後手の感染防止対策やデルタ株の猛威に有効な対応策が不十分なこと、さらに医療現場の疲弊、病床不足、医療関係者のコロナ感染や死亡などにより、医療崩壊の瀬戸際に立っており、「危機的な状況」が続いている。 さらに主流となっている中国シノバック製ワクチンへの不信感から「現地でのワクチン接種に否定的」な在留日本人が多いことも不安を増加させている。 インドネシアでは7月15日に一日あたりの感染者数が5万6757人と過去最高を記録。死者も982人となり、累計の感染者は270万人を突破。死者も7万人を超える最悪の状況が続いている。 日本人300人感染、14人死亡 日本大使館によると在留日本人の300人以上が感染し、死者は14人。また感染して入院待ちの人が約50人もいるという。 ジャカルタ在住の日本人の間では「一日も早く日本に帰国してワクチン接種を受けたい」との声が高まっている。 しかし日本政府が一日の入国者数を2000人に制限、航空各社ごとに1週間当たり3400人を上限にしていることもあり、日本に向かう民間航空機は搭乗券の予約が困難な状況にあるという。 民間企業社員限定の"特別便"に失望も こうしたなか、7月14日にジャカルタから成田空港に全日空の"特別便"が運航し、在留日本人家族52人が帰国を果たした。 ところがこの"特別便"は日本政府が用意したものでも、一般の在留日本人を対象にしたものでもなく、大手ゼネコン「清水建設」が独自に手配した、同社社員とその家族用にチャーターした"特別便"だった。 一方で、茂木外相や加藤官房長官のこの"特別便"に関する会見や日本メディアの報道に接した在留日本人の間からは「どうすれば搭乗できるのか」「料金はどれくらいか」「乗客数に制限はあるのか」「日本に入国後はどういう扱いになるのか」と「政府による特別便」と理解した結果の期待と不安が沸き起こり、現地ジャカルタの日本大使館にも問い合わせが相次いだという。 だが、時間が経過するに従い、当該便が民間企業の社員、家族専用の"特別便"であることが判明し、帰国を希望する一般の在留日本人の間には「落胆」「失望」が広がった。 関係者によると清水建設は社員とその家族を帰国させるために約1カ月前から全日空と交渉を開始、最終的に外務省などと方策を詰めたという。 この"特別便"で帰国した清水建設の関係者とその家族は日本に入国後、希望者には同社が用意した職域接種でワクチン接種を実施するとしている。 ===== 新たな特別便への期待高まる この民間企業1社による"特別便"に搭乗することができなかった在留日本人がなお多くいるとみられることから、外務省や日本大使館は日系航空会社と「官民で連携」してさらなる特別便を飛ばして「できる限り多くの方々が速やかに帰国できるよう措置を講じていく」として希望する在留日本人に帰国への道を開こうとしている。 日本大使館から7月14日発出された在留日本人に対する連絡では「日系航空会社(日本航空、全日空)が通常の定期便とは別途、(ジャカルタの)スカルノ・ハッタ国際空港発、成田空港着の特別便を近日中に運航することを調整中である」として、搭乗希望者に対して「氏名、企業・団体名、搭乗希望人数、連絡先などを16日正午(現地時間)までに大使館に連絡するよう」求めている。 個人事業主、外資系勤務の日本人には壁も これを読むと、帰国希望の在留日本人には「朗報」にみえる。しかし実態はというと大使館からの連絡の細部をよく読めば分かるが「特別便に搭乗を希望される方は入国後に必要な防疫措置」として出国72時間以内のPCR検査などと同時に「在本邦の受け入れ企業・団体が渡航者の本邦入国後14日間の防疫措置を確約する誓約書を外務省に提出すること」と明記されている。 どういうことかというと、帰国を希望する企業や団体からの上記の「誓約書」が必要不可欠となり、企業や団体に所属しない個人の帰国は「実質的に不可能」と読める。 これでは帰国を希望する個人企業やインドネシア企業に務める日本人は「対象外」となる可能性が高く、再び不満の声が高まるのは必至といえる。 日本大使館は懸命に可能な道探る これに対し日本大使館は「個人で帰国を希望する方は個別に連絡をしてほしい」として可能な道を探る姿勢をみせている。 15日の時点でも近日中に飛ぶ予定の特別便に関して、出発スケジュールも料金も定かではなく、出発72時間前のPCR検査も「一体いつ受ければ間に合うのか」などの不安が広がっているという。 今回の措置は日本政府が設けている一日の入国者2000人の制限の枠外で、希望者の数に応じて搭乗便が手配されることになるという。 いずれにしろ清水建設のような一民間企業による"特別便"から「在本邦の企業や団体の所属する在留日本人を主対象とした特別便」へと拡大した措置が現在進んでいることになる。 そして近い将来に個人営業やインドネシアなど外資に務める在留日本人まで対象をさらに拡大して、希望する日本人すべて、さらに加えて日本国籍に基本的に限定されている現状から日本人の配偶者をもつインドネシア人やその子供などの希望も叶えられる広範囲、大規模な「希望する人全員の帰国」が実現することが早急に求められているといえる。 インドネシアは今、誰もがコロナによる死と隣り合わせという危機的状況に直面しているのだから。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など