<リオデジャネイロ五輪の女子体操金メダリスト、シモーネ・バイルズの母親は「ソーシャル・ディスタンスを取って観戦も可能なのに」と主張。時差を考えてわざわざアメリカからテレビ観戦するという南アフリカ選手の両親も> 7月23日に開幕する東京オリンピックは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ほぼ無観客での開催が決まったが、これについて多くのアスリートやその家族から不満の声があがっている。アメリカの女子体操代表でリオデジャネイロ五輪の金メダリスト、シモーネ・バイルズの母親、ネリー・バイルズもその一人だ。競技場でソーシャル・ディスタンスを確保しつつ観戦することはできたはずだ、と彼女は指摘する。 ネリーと夫はテキサス州で体操のトレーニング・センターを運営しており、新型コロナ関連の感染対策については熟知している。1万2000席ある有明体操競技場ならば、アスリートの家族が距離をとりつつ観戦するのに十分なスペースがあると彼女は考えている。 「ソーシャル・ディスタンスを守って、ほかの家族と会わないようにすることは可能だ。東京五輪の競技場には、それだけの広さがある」と彼女は言う。「運営側がそれを調整できないなんて、理解に苦しむ。もちろんこれは私のわがままにすぎないが、東京オリンピックは私の中で、自分がその場にいられなかった大会としてずっと記憶に残ることになるだろう」 一部のアスリートの家族は、自宅でテレビ観戦パーティーを開いて遠くから応援することにしているが、ネリーはそうしたパーティーに参加するつもりはないと言う。 「ひとりで自宅で観戦する」と彼女は言った。「緊張するから、ほかの人と一緒に観ることはできない」 以下にAP通信の報道を引用する。 メダルは「自分で首にかける」 2004年のアテネ五輪から2016年のリオデジャネイロ五輪までで史上最多の28個のメダル(うち23個は金)を取り「水の怪物」と言われたアメリカのマイケル・フェルプスは、19歳で出場したアテネ五輪で初めての金メダルを取ったとき、プール脇の金網越しに母親の手を握った。ひとりで自分を育ててくれた母親とその瞬間を分かち合いたかったのだ。 東京五輪では、アスリートと家族のこうした瞬間は見られない。 大半の競技会場は観客(国内の観客も海外からの観客も)を入れない決定を下しており、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ措置として、表彰式ではアスリートが自分で自分の首にメダルをかける。表彰台での握手やハグもなしだ。 「私は観客の反応からエネルギーを貰っている」と、リオデジャネイロ五輪の金メダリスト、シモーネ・バイルズは言う。「だから無観客だとどうなるのか、少し心配だ」 大舞台に立つアスリートは、競技中に見覚えのある顔を見つけることで元気づけられることがある。リオデジャネイロ五輪男子1500メートルで金メダルを獲得したマシュー・セントロウィッツもそうだ。 「大勢の観客の中にいる家族の顔を見つけ、彼らの声を聞いたことで、少し安心できた。気持ちを落ち着かせるには必要なことだった」 ===== 東京五輪に出場する米選手団の中で15歳と最年少の競泳選手ケイティ・グライムズ(15) は、家族が観客席にいないのは「変な感じがする」と述べ、こう続けた。「家族は私が出場する全ての大会に来ているから」 グライムズの先輩のケイティ・ホフは、アテネ五輪に出場した時グライムズと同じ15歳で米選手団の最年少メンバーだった。最初の種目では緊張のあまり過呼吸になり、プールデッキで嘔吐してしまったという。 今回の五輪は東京に緊急事態宣言が発令されているなかでの開催となり、健康面と安全面の懸念から無観客での開催になった。日本ではこのところ新型コロナの感染者が増えており、ワクチン接種を完了している人も人口の16.8%と少ない。世界各地でさまざまな変異株の感染も拡大している。 コーチ陣のサポートが重要に 東京五輪では、観客席にいる選手の家族の興奮した顔やショックを受けた顔をテレビで観ることはない。国旗を振りながら応援する観客の歌声や歓声もなしだ。2016年のリオデジャネイロ五輪では、水泳競技の観客席にいたフェルプスの息子(当時生後3カ月)が可愛いと注目を集めた。だが今大会は、首都圏の会場では子どもの観戦も認められていない。 アスリートたちを育て、精神面や金銭面から彼らを支え、怪我をした時も試合に負けた時も励まし続けてきた家族は、テレビで観戦する以外には電話やメール、ビデオチャットで彼らの状況を知ることで満足するしかない。 オランダの競泳選手キーラ・トゥサントの母親で1984年のロサンゼルス五輪で水泳の金メダルを獲得したヨランダ・デ・ローバーは、「テレビの方があなたがよく見えるわ」と言っていたという。 コーチ陣にとっては、パンデミック中はアスリートのサポート体制を整え、アスリート間の仲間意識を育むことも重要になっている。 競泳アメリカ代表団のディレクター、リンゼー・ミンテンコは、「家族が東京に来れた場合よりは、普段以上にお互いが必要になるだろう」と語る。「その分、絆は強くなるかもしれないが」 ===== 高跳びの米代表選手バシュティ・カニングハムは、コーチのランダル・カニングハムが父親でもあるため、一緒に東京入りできる。だが家族のほかのメンバーが一緒ではないのが寂しいと語った。 「家族と一緒に食事に出かけたり、聖書の勉強会に行ったり、買い物に行ったり。家族と一緒だと何をしても楽しい」と彼女は言う。「でも、観客の有無は私にはどうでもいい。東京五輪で高跳びができるというだけで、すごくワクワクしている。家族が一緒に来て観戦できたらもっといいのにとは思うけど」 円盤投げの米代表選手メーソン・フィンリーは、妊娠中の妻と愛犬2匹をアメリカに残して東京入りする。選手村にはニンテンドースイッチを持ち込んで、延々ゲームを楽しむつもりだ。「部屋にこもるにはもってこいだ」 南アフリカ代表の競泳選手チャド・ルクロスの家族は、わざわざアメリカに出かけてテレビ観戦する予定だ。南アフリカだと、水泳競技の放送時間が午前3時だからだ。「朝の3時にテレビで僕を観るのは大変だよ」とルクロスは言う。「終わった後、どうしろと言うんだ?」 世界屈指の男子競泳選手のケーレブ・ドレッセル(アメリカ代表)も、東京大会では妻や家族とは会えず、一緒に時間を過ごすこともできない。 「家族がいなければ駄目という訳ではない」と彼は言う。「彼らが家にいることは分かっているし、そのエネルギーも感じられる。必要ならいつでもメールやフェイスタイムでやり取りできる」 ===== 家族がいないのも、無観客も、初めてだけど、日本の人たちや自分たちを感染から守らなくてはいけないし、何がこようと準備はできている、