<資源大国オーストラリアにとって、最大の貿易相手国である中国への強硬姿勢には当然ながら不安もある> 最近、オーストラリア政府関係者の中国に対する強気発言が目立っている。アダム・フィンドレー少将(現在は退任)は昨年、中国との外交面での対立が戦争に発展する「可能性は高い」と、特殊部隊の兵士たちに警告した。 ピーター・ダットン国防相は今年4月、「台湾をめぐる(中国との)対立」は地域紛争につながる恐れがあるとの見解を示し、周囲を驚かせた。スコット・モリソン首相が昨年、国防費を大幅に増額する防衛戦略を発表したのも、中国との対立を意識したものとみられている。 これは従来の姿勢からの大きな転換だ。オーストラリアは長年、安全保障の傘を与えてくれるアメリカに足並みをそろえつつ、最大の貿易相手国である中国との関係を良好に維持するべく努力してきた。 それが今、明らかに中国政府のご機嫌を損ねる言動を取っている。それに対して中国は、オーストラリア産の原材料などに懲罰的な関税をかけて反撃に出ている。 中国経済に大きく依存する世界の国々にとってオーストラリアは、中国の拡張的な領有権主張や、巨大な経済力を武器にしたゴリ押し政治を厳しく批判するとどういうことになるかを示す、テストケースになりつつある。 対中観が大きく変わるきっかけはテレビ番組 オーストラリアは「炭鉱のカナリアのようなものだ」と、ハイノ・クリンク元米国防副次官補(東アジア担当)は語る。「中国は全力で、オーストラリア経済を窒息させようとしている」 なにしろ中国は、毎年、オーストラリアの原材料輸出の3分の1以上を買い上げる超お得意様だ。それなのに公然と「反抗」してきたオーストラリアに対して、中国は、他のアジア諸国(日本などアメリカの同盟国を含む)に対するのとは全く違うレベルの反撃をしてきた。 中国の外交官による「戦狼外交」も盛んだ。昨年11月には、オーストラリア軍兵士がアフガニスタンの子供の喉元にナイフを突き付けているように見えるフェイク画像を、中国外務省の報道官がツイートして、世界を仰天させた。 そもそもオーストラリアの対中観が大きく変わり始めたのは、2017年のテレビ番組がきっかけだった。中国系の人物が複数の政治家に賄賂や巨額の政治献金を渡すことで、オーストラリア政治を中国に有利に操ろうとしていることを暴く調査報道だった。 ===== 悪化する両国関係にとどめを刺したのは、新型コロナウイルスだ。オーストラリア政府が、ウイルスの発生源について国際的な調査を呼び掛けると、中国はオーストラリア産の石炭や大麦、小麦、ワイン、羊などに次々と関税や制限をかけた。オーストラリアも、中国の世界戦略「一帯一路」絡みのプロジェクトを厳しい審査にかけることを決め、事実上の待ったをかけた。 オーストラリアにとって、これはある意味で国の存続に関わる問題だ。中国海軍はこの20年で、沿岸警備中心の部隊から、アジア太平洋の覇権をもくろむ勢力へと生まれ変わった。さらに中国は、大量の漁船を武装させて戦略的海域に派遣することにより、ベトナムの海底油田からフィリピンの漁場まで、幅広い海域を支配しようとしている。 オーストラリアはこれからどうなっていくのか。モリソン政権は年内に、アントニー・ブリンケン米国務長官とロイド・オースティン米国防長官との外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)を開き、アメリカとの同盟関係を改めて強化したい考えだ。 「アメリカと同じく、オーストラリアでも『中国の本性が見えた』という認識が高まっていると思う」と、アメリカン・エンタープライズ研究所のエリック・セイヤーズ客員研究員は言う。「もはや中国楽観論は少数派だ」 From Foreign Policy Magazine