<人口の半数以上が完全なワクチン接種を済ませたイギリスだが、新型コロナの感染が爆発している。そうした中、積極的な経済再開政策を打ち出している...> 感染者数が増加の一途をたどるイギリスは19日、イングランドのロックダウン解除に踏み切る。リモートワークの推奨が打ち切られるほか、ナイトクラブなどの営業が可能となる。これまで屋内の公共の場において着用が義務づけられてきたマスクは、引き続き着用が推奨されるものの法的規制は廃止し、店舗や交通機関に指針づくりを委ねる。 変異株の影響を受けるイギリスは現在、世界でも感染が急速に拡大している国のひとつだ。16日には5万1000人超の感染が新たに確認され、今年1月に記録したピーク値に近づいた。人口あたりの新規感染者数でみると、インドネシアとブラジルに次ぐ世界第3位(7日間移動平均値)となっている。 強気の経済再開の背景には、経済界からの要請があるほか、死者数がかなり抑制されてきている影響も大きい。ワクチンの接種が進み、これまでに人口の半数以上が完全な接種を済ませている。感染数は増加しても重症化と死亡の割合は目立って減っており、多くの死者を出した1月とは状況がかなり変化した。死者数はじわりと増加傾向にあるものの、16日のデータで1日あたり49人に留まる。1800人以上が亡くなっていた年初のピーク時とは顕著な違いだ。 感染者は10〜20万人へ 著名疫学者予測 しかし、これまで死者数を抑制できているとはいえ、変異株が猛威を振るうさなかのロックダウン解除は壊滅的な被害をもたらす恐れがある。感染予測モデルを作成しロックダウンの政策決定に寄与した疫学者のニール・ファーガソン博士は、英ガーディアン紙に対し、イギリスの医療システムに「大規模な混乱」をもたらすとの予測を明かした。 ファーガソン博士は、1日あたりの新規感染者数が10万人に達することは「ほぼ避けられない」と述べる。さらに、可能性は比較的低いものの、最悪のシナリオでは倍の20万人に達する事態もあり得るという。仮に現実のものとなれば、人口あたりの新規感染者数は最悪期のインドの9.8倍に達する。 野党・労働党で保健問題を担当するジョナサン・アシュワース議員は英BBCに対し、19日付のロックダウン解除は「シートベルトを外してアクセルをベタ踏みするくらい無謀だ」と述べ、警戒感をあらわにした。 解除直前のガイドライン発表で混乱 英政府は経済活動の再開にともない、各企業が店舗や職場などで参考とすべきガイドラインを発表している。ところが、その内容もお粗末だとして不満が噴出した。音楽フェスやスポーツイベントなどの開催を許容し、会場への入り口を分けるなどすれば安全だとしているが、実効性には疑問が残る。 また、マスクを含め店舗や公共交通機関などでの感染症対策が各企業の判断に一任されたことで、民間への責任の押し付けだとの声も挙がっている。ガイドライン発表からロックダウン解除までの猶予は5日間しかなく、各企業は急場しのぎの方針決定を迫られた。 ===== 各企業の経営者層が加入する英経営者協会の政策責任者は、英スカイニュースに対し、ロックダウン解除という「自由の日」を待ち望んでいたと語る。しかし、「ところが私たちが政府から受け取ったのは、いくつもの矛盾したメッセージとつぎはぎだらけの要求事項であり、これらはそうした熱気を削ぐものでした」と失意を露わにする。 英ガーディアン紙によると、労働組合会議のオグレディー総書記は「カオスと感染増加のレシピ」だと述べ、政府の場当たり的な政策決定を厳しく非難した。 ジョンソン首相、隔離不要を2時間で撤回 ロックダウン解除を目前にして、「カオスと混沌」はすでに始まったようだ。ガイドラインとは別に、政府内の濃厚接触者に対する特別扱いが新たな火種となった。解除前日の18日、ボリス・ジョンソン英首相は自身が濃厚接触者となりながら、自己隔離に入らず公務を続ける方針を発表した。各方面から猛烈な批判にさらされたことで、わずか2時間20分で撤回に追い込まれている。 ジョンソン首相はリシ・スナック財務相とともに、新型コロナの陽性反応を示したサジド・ジャヴィド保健相の濃厚接触者となっていた。本来ならば10日間の自己隔離が求められるところ、検査を毎日受けることで出勤を続けられる試験的枠組みに参加することで、これを回避する意向であった。制度は首相官邸のほか、鉄道会社など20の民間および公共組織を対象として試験的に導入されている。 イングランドとウェールズでは先ごろ、接触アプリによって濃厚接触の判定を受けた人々が大量に発生した。自己隔離に入る人々が増加し、公共・民間サービスの維持が難しくなるなど混乱が生まれている。試験制度によりこの課題の解決が期待される一方、テスト実施は政治家など一部の特権階級にのみ適用されているとして、不満が噴出している。英テレグラフ紙は「(ボードゲームの)モノポリーでいう『刑務所から釈放カード』のような制度」だと述べ、自由に社会活動を続けられる例外的扱いを批判している。 ロックダウン解除に隔離不要の制度にと、比較的少ない死者数を武器にした経済再開への攻めの姿勢が目立つ。成功すればワクチン普及後のウィズコロナ社会のあり方を示せる可能性はあるものの、感染者10〜20万人との予測値を見るに、リスクの大きな試金石となりそうだ。