<戦場で流れた血の上に築き上げられた「究極のリーダーシップ」とは何か。「伝説の指揮官」はなぜそれを明かすことにしたのか。2015年刊行以来、全米230万部のベストセラーとなり、世界29言語で刊行されている『米海軍特殊部隊(ネイビー・シールズ)伝説の指揮官に学ぶ究極のリーダーシップ』の序文を2回に分けて転載する(前編)> 「ある日、おれは......」 美化された戦争の体験談の多くは、そんな言葉から始まる。ネイビー・シールズのチームで、尾ひれをつけた体験談を語ると、みんなから茶化される。シールズ隊員は面白おかしく、たいていこんなふうに話し始める。 「ある日、いやウソじゃないって、おれはひざまで手榴弾(しゅりゅうだん)のピンに埋まってたんだ......」 この本は、個人の戦争体験を美しく語るためのものではない。シールズは、どこよりもタフな軍事演習とどこよりも厳しい選考プロセスを経て集まった、優秀かつ多才な個人で構成されたチームとして活動している。シールズのプログラムにおいては、チームがすべてなのだ。全体の力は、個人の力をはるかに上回っている。私たちは、プロの戦闘集団である自分たちを「チーム」と呼び、自分自身を「チームガイ」と呼んでいる。 本書では、シールズの戦闘活動や訓練を、私たち2人の目を通して――あくまでも個人的な観点から――描写し、その経験をビジネスの世界でのリーダーシップやマネジメントに応用している。 しかし、シールズでの活動は、私たち個人のものではない。ここで語る物語は、私たちが幸運にも指揮することができた、シールズの小隊(プラトーン)と任務隊(タスクユニット)にまつわるものだ。シールズの狙撃手(スナイパー)であり、のちに『アメリカン・スナイパー』として映画化されたベストセラー本、『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』(原書房)の著者クリス・カイルも、この小隊とタスクユニットの一員(チャーリー小隊の狙撃手長であり、タスクユニット「ブルーザー」の尖兵(せんぺい)[訳注:本隊の前方で警戒や偵察を行う兵士])だった。 彼も、本書に例として登場する戦闘に参加していた。素晴らしい活躍をしながらもいまだ脚光を浴びていない、多くのチームメイトと共に。だから、この本で語られる戦争の物語は、決して私たち2人のものではない。これは、共に任務に就き、共に戦った仲間たちやリーダーたちの――チームの――物語なのだ。戦闘の状況には、チームとしてどのように障害に立ち向かい、どのように難局を克服したかが描かれている。結局のところ、チームがなければ、リーダーシップも存在しないのだ。 米海軍特殊部隊(ネイビー・シールズ) 伝説の指揮官に学ぶ究極のリーダーシップ ジョッコ・ウィリンク 著 リーフ・バビン 著 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます) ===== ベトナム戦争から「対テロ世界戦争」までの30年間、米軍は事実上、持続的な戦闘活動のない状態を経験した。(グレナダ、パナマ、クウェート、ソマリアといった)例外はいくつかあったが、実際の戦闘経験を持つ米軍のリーダーは一握りしかいなくなっていた。シールズ・チームにとっても、それは「空白の年月」だった。ベトナムのジャングルで激しい戦闘を経験した人たちは退役し、彼らが学んだ戦闘のリーダーシップの教訓も失われつつあった。 そんなすべてが、2001年9月11日に変わった。米国本土を襲った恐ろしいテロ攻撃が、米国を再び持続的な戦闘状態へと引きずり込んだのだ。10年を超えるイラクやアフガニスタンでの厳しい戦闘活動を通して、米軍の戦闘部隊のさまざまな階級で、新世代のリーダーたちが生まれた。 このリーダーたちは、教室での仮想訓練や理論から生まれたのではなく、戦争の最前線――前線部隊(フロント・エシュロン)――で、実地体験から生み出された。数々のリーダーシップ理論や仮説が、戦火の試練の中で厳しく試され、米軍のあらゆる階級で、忘れ去られた戦時の教訓が再び――血で――書き直されることになった。 訓練で培われた「リーダーシップの原則」の中には、戦場では役に立たないものもあった。そういうわけで、使えない原則は捨てられ、実効性の高いリーダーシップ・スキルが磨かれて、米軍全体――陸軍、海兵隊、海軍、空軍――および同盟国軍のあらゆる階級から、新世代の戦闘のリーダーが生み出されていった。 米海軍特殊部隊「ネイビー・シールズ」のチームは、このリーダーシップ変容の最前線にいた。この変容は、戦争の勝利と悲劇を通して、とてつもなく困難な環境で成功するには何が必要なのかを、明確に理解することから生まれた。 新世代の戦闘リーダーにまつわる、戦争の物語は数多くある。長年の間に、オサマ・ビンラディンを殺害した勇ましい奇襲のような作戦の成功もあって、「ネイビー・シールズ」は世間の関心をそそり、望んだ以上の注目を集めてきた。そのせいで、組織の秘密にしておくべき側面にもスポットライトが当たってしまった。 本書においては、そうした覆いをこれ以上剝がすことがないよう、注意を払っている。機密計画について詳しく語ったり、自分が関わった軍事作戦の機密保持契約を破ったりしないように。 これまでに、シールズにまつわる数多くの回顧録が出版されている。中には経験豊富で広く尊敬されている隊員が、チームの勇敢な行為や偉業を伝えようと執筆したものもある。しかし、残念ながら一部には、仲間たちにあまり貢献しなかった隊員が書いた本もある。シールズの多くのチームメイトと同様に、私たちもシールズの本が出版される際には、ネガティブな見方をしていた。 ===== それではなぜ、本を書くことを選んだのだろう? 戦場のリーダーとして、私たちは成功や失敗を通して、この上なく貴重な教訓を学んだ。間違いを犯してはそこから学び、何がうまくいき、何がうまくいかないのかを突き止めた。シールズのリーダーたちを訓練し、私たちが学んだ原則を彼らが実行して、厳しい戦場でやはり成功を勝ち取る姿を目にした。 その後、民間企業と仕事をした際にも、戦場のリーダーシップの原則が、研修した企業や幹部の方々を勝利に導くのを改めて目の当たりにした。そのうちシールズ・チームからも、クライアント企業の方々からも、「リーダーが参照できるように、お二人が学んだ教訓を具体的な文書にしてくれませんか?」と依頼されるようになった。 そう、このリーダーシップの原則を次世代のために記録しようと、この本を書いたのだ。そうすれば、原則は忘れられず、戦争が始まったり終わったりするたびに、貴重な教訓を学び直す必要も、さらに血を流して書き直す必要もなくなる。 私たちは、このリーダーシップの教訓が戦場を超え、今後もリーダーシップが必要なあらゆる状況でチームに影響を及ぼせるよう、この本を書いた。人が集まって目標や任務の達成に取り組む、企業やチームや組織の役に立つように。リーダーシップを発揮し、勝利を収めるために学んだこの原則を、あらゆる場所にいるリーダーたちが活用できるように。 では、そんな本を書く私たちは、一体何者なのだろう? 人は思うかもしれない。「『リーダーシップの本が書ける』なんて思う人間は、自分自身を『すべてのリーダーの憧れの的だ』と信じてるに違いない」と。 だが、私たちは完璧からはほど遠い人間だ。相変わらず学び続けているし、リーダーとしても日々成長を続けている。自分自身に正直なリーダーなら、必ずそうするように。リーダーとして数々の試練を経験し、貴重な教訓を学べたのは、ひとえに幸運だったからだ。この本は、そうした教訓を高みからではなく、自分たちの不手際の傷跡が今も残る場所から謙虚にお伝えしたいという、私たちの精いっぱいの取り組みなのだ。 ※後編は7月21日に公開予定です。