<ロシアが奪ったクリミア半島沖の黒海に散る新冷戦とミサイル配備の火花> ロシア政府は米国防総省に対し、米軍が極超音速ミサイルをヨーロッパに配備すれば、偶発的な戦闘を引き起こす恐れがあると警告した。そのわずか数時間前には、ロシアが戦艦や潜水艦への搭載を検討している極超音速兵器の試験発射を成功させて見せた。 7月19日、国防総省のジョン・カービー報道官は、ロシアが極超音速巡航ミサイル「ジルコン(Tsirkon)」の試射に成功したとする発表について、質問を受けた。 この会見に先立つ7月19日、ロシア国防省は、アドミラル・ゴルシコフ級フリゲート艦が、このミサイルの試射に成功したと発表していた。北極海のロシア領にあたるバレンツ海最南部から発射されたミサイルは、マッハ7まで加速して約350キロ離れた標的に命中したと、タス通信は19日に伝えた。 「ロシア領」クリミア沖のNATO ロシア国防省は、「ジルコンの戦術的・技術的特性は、この試射を通じて確認された」と述べ、このミサイルの動画も公開した。このミサイルについては、ウラジーミル・プーチン大統領が以前、マッハ9まで到達可能で、最長で約1130キロ先の標的にも命中させられると、その性能を誇っていた。 このミサイルについて尋ねられたカービーは、以下のように回答した。「プーチン大統領の発言については、もちろん承知している。(中略)ロシアの新たな極超音速ミサイルが、地域の不安定化を招き、相当なリスクをもたらすというのは重要な指摘だ。なぜなら、これは核弾頭の搭載も可能なシステムだからだ」 カービーは、さらにこう付け加えた。「これとは対照的に、アメリカは核を搭載しない極超音速攻撃能力の開発に専念している。ゆえに我々は、NATOの同盟国と共に、抑止戦略に引き続き注力しつつこの地域の安定化を図っていることになる」 6月末からNATO(北大西洋条約機構)が黒海で行っている軍事演習に、ロシアは神経を尖らせている。NATO軍は、2014年にロシアが併合したクリミア半島沖で「航行の自由」作戦を展開しているからだ。それに加えてのカービーの発言は、ワシントンの駐米ロシア大使館からの猛反発を招いた。 ロシア大使館は、会見におけるカービーの公式発言記録のスクリーンショットと赤い感嘆符とミサイルの絵文字を散りばめた手の込んだツイートを投稿し、以下のように主張した。「@PentagonPresSec(国防総省報道官)に改めて思い出してほしいのだが、(アメリカ国旗の絵文字)の極超音速(ミサイル)をヨーロッパに配備するという可能性は、それがいかなるものであっても、地域の著しい不安定化を招くものだ」 We would like to remind @PentagonPresSec that potential deployment of any hypersonic in Europe would be extremly destabilizing. Their short flight time would leave little to no decision time and raise likelihood of inadvertent conflict. pic.twitter.com/vY91y1jLik— Russian Embassy in USA (@RusEmbUSA) July 20, 2021 ===== 「それ(アメリカのミサイル)は飛行時間が短いため、(ロシア国旗の絵文字)には判断する時間がほとんど、あるいはまったく与えられない。そのため、想定外の紛争が起きる可能性が高まる」とツイートは続けた。 ロシア連邦院(上院)のアレクセイ・プシュコフ議員も、カービーの発言を批判した。 プシュコフは、暗号メッセージアプリのテレグラムへの投稿で、ロシアが起こした行動の背景にある要素として、「ロシア国境へのNATOの接近」や、アメリカの中距離核戦力(INF)全廃条約破棄を挙げ、さらに「75種類もの制裁の導入」も紛争の背景に含まれるとの見方を示した。 西側専門家は、ロシアによる新世代の極超音速兵器の能力を検証している段階だが、その速度と操縦性により、追尾や迎撃が困難なことは確認されている。 プーチンは2018年、ロシアが新たな極超音速兵器群を開発していることを明かしたのち、アメリカがヨーロッパに中距離核兵器を配備した場合、アメリカの領海近くを航行する戦艦や潜水艦にこれらの兵器を搭載すると脅していた。 (翻訳:ガリレオ) ===== ■極超音速巡航ミサイル「ジルコン」の試射映像