<「球団は偉大な才能を邪魔してはいけない」エンゼルスのマドン監督が本誌に語った大谷翔平との関係性、二刀流での連日出場を解禁した舞台裏、ショーヘイが一番気にしていたこと> メジャーリーグ史に残る大谷翔平の「リアル二刀流」を開花させたロサンゼルス・エンゼルスの名将ジョー・マドン監督。今季の大谷はどうして成功したのか。米野球界にとって大谷はどんな存在か。MLB専門ジャーナリストのスコット・ミラーがマドンに聞いた。 ◇ ◇ ◇ ――あなたはこの夏ずっと、ファンやライバルチームの選手たちの大谷に対する反応を見てきた。大谷はMLBにとってどんな存在か。 これは私がメンバー表の一番上に書いていることでもあるが、合言葉は「見逃すな」だ。見逃すな、そして、いま目にしていることを過小評価するな。慣れっこになるな。来季も、その次も、いつでも見られると思ったら大間違いだ。 しかも、彼はとても謙虚に奇跡を成し遂げている。彼が注目を一身に浴びているのは見てのとおり。想像してみてほしい。彼が東京の街を歩いたらどうなるか。(ビートルズの)ジョンとリンゴとジョージとポールが1人の人間になって歩いているようなものだ。彼がやっていること、そして、そのやり方は称賛に値する。誰にもまねできない。 若手が奮起して彼を見習うとしたら、それは素晴らしいことだ。そうなってほしい。球団組織やフロントも(他の選手を二刀流で起用する欲を)大いに刺激されたはずだ。 ショーヘイについて言えるのは、彼は(二刀流を認める球団と)契約したということだ。後は彼のやりたいようにやらせるだけ。ああしろ、こうしろとうるさく言わないこと。 コントロールしようという意識が強過ぎるとダメだ。選手の自主性を認めること。はたから見て言いたくなることは山ほどあっても、本人の気持ちを尊重しないと。 (投打両方をこなす)選手がもっと増えればいいと思うなら、選手の自主性を尊重する風土が育たないといけない。多くのMLBのフロントは主導権を手放したがらない。誰もがコントロールしたがる。だが偉大な才能の邪魔をしてはいけない。彼は既にその(偉大な才能という)言葉にふさわしい働きをしている。この状態が今後数年続いたら、(二刀流が)当たり前になるだろう。彼の影響は計り知れない。 ――先シーズンの大谷は、登板日の前日や翌日には打者として試合に出ることはなく、調整や疲労回復に努めた。今年はその「大谷ルール」が外され、ほぼ連日出場している。シーズン初めに決めたのか。いつ、どこで、どんな話をして決めたのか。 決めたのは(エンゼルスのキャンプ地であるアリゾナ州)テンピーの小さな会議室で、だ。 ===== ミーティングに先立って、私は(エンゼルスのゼネラルマネジャー)ペリー(・ミナシアン)とじっくり話し合った。考えを擦り合わせておきたかった。冬中ずっと話し合い、キャンプに来て再度確認した。お互いの考えが一致していることをね。 完全にガラス張りにしたかった。球団の考えを知った上で、私の考えを(大谷に)伝えるつもりだった。 ペリーは単刀直入に言った。投げさせて打たせよう、と。私はにんまりした。全く同感だったからだ。 イッペイ(大谷の専属通訳を務める水原一平のこと)を通じて、ショーヘイに話す段になった......座って、われわれの考えを伝え、彼にどう思うか聞いた。 われわれが言ったのは、調子を見ながら、まず登板の予定を組み、その次に打者としての出場をその日その日の状態を見て決める、ということ。常に「投」を先に決め、その後に「打」を決めるという順番だが、そうはいっても投手としての役割が第一で、打者としての仕事はおまけ、ということではない。 ただ、優先順位は決めておく必要がある。ピッチングにしろ、トレーニングや調整にしろ、彼のスケジュールに組み込む順番をね。 彼はすんなりこの提案を受け入れてくれた。そこで次に聞いたのは、どういう状態なら投げる前や投げた後に打席に立てるか、だ。これまでは先発でマウンドに立つ日の前日と翌日は打者としての出場はなしというルールになっていたからね。 私の考えを伝えた。あらゆる可能性を試してもいい、投げたその日に打つのもありだ、と。ショーヘイは自分が一番気にしているのは体のこと、体の感覚だと言った。彼がやっていることはそう簡単じゃないからね。簡単そうに見せているだけで。 私たちは日々コミュニケーションを取ることにした。特に彼が投げる前日、当日、そしてもちろん翌日も。 ――監督の目から見て、今シーズンと先シーズンの大谷の違いは? 感情面だね。よい意味で試合中に自分の感情を出すようになった。相手打者を三振に打ち取ると、こぶしを突き上げたり雄たけびを上げたりする。ホームランを放った後は、満面の笑みでダグアウトに戻ってくる。 われわれはやっとショーヘイという人間が分かってきた。一皮むけた感じだ。何の制限も、何の縛りもなしに、思い切りプレーしている。野球選手であること以外、何も気にせず力を発揮できる解放感を、彼は心から楽しんでいる。 ===== ショーヘイ・オオタニはアメリカに渡り、二刀流でプレーするためエンゼルスと契約を結んだ。そして今、チャンスを得てそれをやっている。二刀流でやっていくことが彼にとってはとても重要なのだ。彼自身がそう語るかどうかはさておきね。二刀流をやってのけたのはほとんど神業だ。それが彼の最終的なレガシーとなるだろう。このレベルを数年間維持してきたのはすごいことだ。簡単にまねできるようなことじゃない。 ――彼の肩にかかる期待の重さはどうか。日本中が注目しているし、アメリカ中が期待している。将来、二刀流を目指す若い選手のために、道を切り開くという責務もある。 それは私もよく分かっている。大変な重圧だ。特に日本ではアメリカよりもはるかに期待が大きいだろう。仮に彼自身がファンの期待を裏切ったと感じるようなことがあるとすれば、真っ先に日本のファンの気持ちを考えるだろう。われわれのことはその次だろうが、それは当然だ。 そうはいっても、彼は今、期待を全く裏切っていない。彼はそれほど素晴らしいし、今後さらに成長するはずだ。 投手としては速球のコントロールの精度が上がっているし、打者としてもさらに力を付けている。 競技に全身全霊で打ち込んでいる一流アスリートは努力を惜しまない。彼は素晴らしい青年で、しかも誠実で謙虚だ。スーパースターに求められる資質を全て備えている。 (聞き手のスコット・ミラーはMLB専門のスポーツジャーナリスト。取材歴30年。ロサンゼルス・タイムズ紙やCBSスポーツなどのMLB記者・コラムニストを歴任。共著に『野球の90%はメンタル』〔邦訳・春秋社〕) ▼本誌10月12日号「アメリカが愛する大谷翔平」特集では、アメリカを熱狂させた二刀流について、MLBを知り尽くしたアメリカのMLB専門スポーツジャーナリスト陣がさまざまな角度でリポートする。100年後も語り継がれるであろうこの新たな歴史の始まりを、アメリカはどう見ているのか――。