<結果を変えるのは、チームメンバーか、それともチームリーダーか。米軍最強部隊「ネイビー・シールズ」指揮官が経験を基にまとめたリーダーシップのあるべき姿> 2011年、ウサマ・ビンラディン暗殺事件の実行者として世界にその名をとどろかせた米海軍特殊部隊「NAVY SEALS(ネイビー・シールズ)」。 2003年に始まったイラク戦争にも参加したが、2006年のラマディの戦いでネイビー・シールズの精鋭部隊「ブルーザー」を率いたのがジョッコ・ウィリンクとリーフ・バビンだ。 ウィリンクとバビンは、米軍最強部隊での経験を基にリーダーシップのあるべき姿を本にまとめた。 『米海軍特殊部隊(ネイビー・シールズ)伝説の指揮官に学ぶ究極のリーダーシップ』(邦訳・CCCメディアハウス)はこれまでに、全米で230万人の読者を獲得し、世界29言語で刊行されている。 最前線で命のやりとりを繰り返す日々の中で、部隊のメンバーを生き残らせつつ任務を達成するために彼らが学び取ったリーダー術は、ビジネスや日常生活でも生かせるはずだ。 ニューズウィーク日本版では、10月5日号の「ビジネスに役立つ NAVY SEALS 12のリーダー術」特集で同書の抜粋を掲載。 以下にその抜粋の一部を掲載する(第2回)。 ――ニューズウィーク日本版編集部   ※第1回:イラクの戦場でミス続出、「責任を負うべきは私だ」と言った指揮官から学ぶリーダー術 【Part 2】出来の悪いチームなどない 「勝利で全てが報われる!」 ブルーとゴールドのシャツを着た、鬼と恐れられているネイビー・シールズの教官が、メガホン越しに叫ぶ。 シールズ訓練の中でもとりわけ悪名高い「地獄週間(ヘルウイーク)」も、3度目の夜を迎えていた。 迷彩服を着た訓練生たちはずぶ濡れになり、ザラザラの砂にまみれ、皮膚が赤く擦りむけて血が噴き出ている。 南カリフォルニアの夜の海水と寒風にさらされて、誰もがぶるぶる震えている。痛みと苦痛を抱えたその動きは、72時間ほぼぶっ通しで運動した人間にしかできないものだ。 疲労困憊しているのは、この3日間、トータルで1時間も眠っていないから。「地獄週間」が始まって以来、もう何十人もが辞めていった。病気になったり負傷したりで、リタイアさせられた者もいる。 数週間前、このクラスがシールズの基礎訓練コースである「基礎水中爆破訓練(通称BUD/S)」を開始したときは、決意に満ちた200名ほどの若者が、目を輝かせて参加した。誰もが米海軍特殊部隊「ネイビー・シールズ」の一員になる日を夢見て、何年も準備を重ね、卒業する気満々でBUD/Sにやって来たのだ。 それなのに「地獄週間」が始まって48時間もたたないうちに、大半が苛烈な試練に屈服し、自主脱落(DOR)の合図である鐘をカンカンカンと3度鳴らして、シールズ隊員になる夢を捨てた。そう、去っていったのだ。 「地獄週間」は、体力テストではない。むろん運動能力は求められるが、「地獄週間」の前に何週間ものBUD/S訓練に耐え抜いた訓練生はみんな、卒業できる体力があることを証明済みだ。これは体力テストではなく、精神力のテストなのだ。 ===== ウィリンクとリーフ・バビンはイラク戦争に参加し、2006年のラマディの戦いでネイビー・シールズの精鋭部隊「ブルーザー」を率いた(ラマディ中心部に配置されたM2ブラッドレー歩兵戦闘車) COURTESY OF JOCKO WILLINK AND LEIF BABIN 今の私(リーフ・バビン)は、シールズ教官が着るブルーとゴールドのシャツを身に着けている。2度にわたってイラクに派遣された後、海軍特殊戦訓練センターに配属され、将校のリーダーシッププログラム、「初級将校訓練コース」を指導することになったからだ。 その本業に加えて、「地獄週間」も教官としてサポートしていた。 BUD/Sの訓練生は、身長によって、7名ずつの「ボートクルー」と呼ばれるチームに分けられる。7名のボートクルーには、1隻の小型ゴムボート(IBS)が与えられる。 海軍では「小型」と呼ばれるこのボートは、手で運ぶには恐ろしく大きく、恐ろしく重い。この大きめのゴムボートは黒色に黄色い縁取りが施され、重さは90キロほどあり、水や砂がどっさり入るとさらに重くなった。 第2次世界大戦中の海軍戦闘潜水員(フロッグマン、水中爆破班)の遺物であるこの忌まわしいボートは、あらゆる場所へぎこちなく運ばれる。たいてい7名のクルーの頭が、下から必死で支えているのだ。 ボートクルーは、陸の上では、ボートを頭上に載せたまま、高さ6メートルの浜段丘[訳注:波の作用で砂浜にできる段丘]を登って越えて、そのままビーチを何キロも走る。海軍水陸両用基地コロナドでも、ボートを運んで硬いアスファルトの道路をあちこち往復し、先導する教官に必死で食らいついている。 悪名高い「BUD/S障害物コース」では、扱いにくいボートを押したり、引いたり、押し込んだり、力ずくで持ち上げたりしながら、ロープを越え、電柱を越え、壁を越えていく。 太平洋に出ると、ボートクルーは、打ち寄せる強烈な波と戦いながらオールを漕ぐ。転覆して、難破船さながらにずぶ濡れの訓練生とオールが、ビーチにまき散らされるのも珍しくない。 どのレースでも、素晴らしい働きをする者たちはいる。この「地獄週間」では、あるボートクルーがずっと、ほかのチームを圧倒していた。ボートクルーIIが、ほぼ全レースを制覇していたのだ。 彼らは毎回努力し、チーム一丸となって戦っていた。ボートクルーIIには強いリーダーがいて、メンバーも意欲的で、誰もがしっかり働いているように見えた。互いに弱点をカバーし合い、助け合い、勝つことを誇りにし、報われていた。 一方、ボートクルーVIは、別の意味で目立っていた。ほとんどのレースで最下位に沈み、ほかのチームに大きく水をあけられていた。 誰もがチームとしてではなく、個人として動き、チームメイトに腹を立ててはイライラを募らせていた。少し離れていても、怒鳴り合い、罵り合い、「おまえは務めを果たしてない!」と誰かを責める声が聞こえていた。どのメンバーも、自分の苦しみや不快感にばかり目を向けている。 ===== イラク戦争当時、負傷した仲間を助けるイラク兵 COURTESY OF JOCKO WILLINK AND LEIF BABIN ボートクルー・リーダーも例外ではなかった。彼はリーダーとして成績に責任があるのに、「それがどうしたの」という顔をしている。俺はツイてないだけだ、と言わんばかりに。 自分がどんなに頑張っても仕事を果たせない、駄目なチームを任されてしまった、と。 私は、ボートクルーVIのリーダーをずっと見ていた。指導力を大幅に改善できなければ、彼は卒業できないだろう。 シールズの上級上等兵曹は、教官幹部の中でも特に経験豊富で尊敬を集めている下士官だが、彼もボートクルーVIと冴えないリーダーに強い関心を寄せていた。 その彼が今、ボートクルーVIの目も当てられない成績を前に、面白い解決策を提案した。 「1位のボートクルー・リーダーと最下位のボートクルー・リーダーを、交換してみたらどうだろう?」 ボートクルーIIのリーダーは、明らかに不服そうだった。自分がつくり上げ、熟知しているチームを離れるのは嫌に違いない。圧倒的な成績にも、胸を張っていたはずだ。 一方、ボートクルーVIのリーダーは、明らかにうれしそうだった。どうやら、運悪く――自分に非はないのに――成績の悪い者が集まる最悪のボートクルーを任された、と感じていたらしい。自分がどんなに頑張っても、ボートクルーVIを改善することはできないのに、と。 そして今、教官から「ボートクルーIIを引き継げ」と指示された。彼の顔には、「やっと公平に扱われた。新しい任務はきっと楽だろう」という思いがにじんでいた。 「スタンバイ......バスト・エム(全力で取り組め)!」の声で、レースが始まった。 私たちは、ボートクルーがボートを担いでダッシュで浜段丘を越え、それからサーフゾーンへ急ぎ、暗い海中に突入していくのを見ていた。みんなでボートに飛び乗り、猛然とオールを漕ぐ。 打ち寄せる激しい波に逆らって、ボートを空にし、また全員を乗せて、ビーチまでオールを漕ぐ。教官たちの車のヘッドライトに反射して、ボートの黄色い縁取りが光る。もうボート番号は見えない。 だが、2隻のボートがほかを引き離し、ほぼ互角にトップ争いをしているのが見えた。教官たちがトラックでボートを追い掛けると、岸から800メートルほど離れた地点から、2隻がビーチに戻ってくるのが分かった。 ヘッドライトがボートを捉え、番号がはっきりと見えた。トップで戻ってきたのは、なんとボートクルーVIだった。ゴールまでずっと首位を保ち、ボートクルーIIに競り勝って、レースを制したのだ。 ===== 衝撃の展開だった。ボートクルーVIは、新しいリーダーを迎えたこと以外、何もかも同じ状況なのに、クラス最悪のチームから最高のチームに変わった。罵り合いもイライラも、もうどこかへ消えていた。 驚くほどの変化をこの目で見なければ、私も「嘘だろ?」と疑っていたかもしれない。だがそれは、「究極の責任感」の核となる基本的かつ重要な真実を示す、決定的な実例だった。 そう、出来の悪いチームなどない。出来の悪いリーダーがいるだけだ。 なぜこんなことができたのだろう? たった1人――「リーダー」ーーを入れ替えただけで、チーム全体の成績ががらりと変わるなんて。 答えを言おう。リーダーシップは、あらゆるチームの成績をつかさどる、唯一最大の要素だからだ。チームの成功も失敗も、全てリーダーに懸かっている。 リーダーの姿勢が、チーム全体の雰囲気をつくる。成績が伸びるのも、伸び悩むのも、リーダー次第なのだ。これはチーム全体をまとめるトップのリーダーだけでなく、チーム内の小さなチームを仕切る若手のリーダーにも当てはまる。 私自身が「地獄週間」でボートクルー・リーダーを務めた経験を振り返ると、失敗して力を出し切れなかった日も、成功した日もあった。 私のボートクルーも時折成績が伸びずに苦しんだが、それは私自身が「ボートの先頭の一番難しいポジションに就いて、リーダーシップを発揮するべきだ」と気付くまでの話だった。 勝つためには、クルーを激しく、本人たちが「やれる」と思っている以上に駆り立てなくてはならない。 あのとき気付いたのだ。先のことや遠くて見えないゴールではなく、目の前の具体的な目標――100メートル先の海岸標識や陸標や道路標識――を目指させたほうがはるかに効果的だ、と。 ※10月5日号「ビジネスに役立つ NAVY SEALS 12のリーダー術」特集より