<退職後の余裕資金のために資産形成を始める場合、数ある投資手段のなかでもなぜ株式インデックス投資が魅力的なのか。実際のデータをもとに検証する> *この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2021年10月08日付)からの転載です。 1――はじめに 資産形成は老後資金のみならず、自助努力が求められる流れになってきた。2019年6月に、金融庁の金融審議会で報告された長寿社会の日本における「老後資金の2,000万問題」が世間で大きな物議を醸した。「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば1」、公的年金の他に、2,000万円の金融資産が必要だと提唱された。こうしたこともあり、老後資金の早めの準備など、将来のために資産形成を始めたいと考える人が多くなっている。 資産形成の手段においては預貯金、債券、株式(個別株)、投資信託、不動産などがある。しかし、数ある資産形成手段の中で、なぜ株式インデックス投資が魅力的なのかを、まず初めに説明してみたい。 現状、預貯金は安全性が高いが、低金利環境で収益性は極めてゼロに近い。個人向け国債も元本割れリスクがなく安全性が高いものの、低金利で収益性が低い。一方で、株式は後ほど説明するが、価格が短期的に大きく変動するリスクはあるが、収益性が高く、分散や長期投資等でリスクを抑制することもできるため、長期の資産形成に向いている。 株式に投資する方法はいくつかある。まず、株式の個別株に投資する場合は、多くの銘柄から自らのニーズに合わせて自由に選択し投資することができる。しかし、企業に関する情報収集などの手間と一定以上の金融知識が求められ、また、1銘柄当たり最低でも投資資金として数万円程度を要するため、リスク軽減のために多くの銘柄へ分散投資するには相当な金額が必要となる。そのため、投資の初心者にはハードルが高い。 一方で、株式投資には、投資信託という、専門の運用会社が投資家から集めたお金を一つ大きな資金としてまとめ、株式などに、国・地域と業種に分散投資できる2手段がある。最低金額も100円から始められるものがあり、少額から手軽に投資できる。 投資信託の中ではさらに、プロの運用者が選択した比較的少数の銘柄を組み入れて各種指数を上回る収益を目指すアクティブ型投資信託と、各種指数と同様の値動きを目指すインデックス型投資信託に分けられる。 主要な市場インデックス型投資信託はニュース等でも報道される有名な株式市場の各種指数の動きと連動しており、値動きが把握しやすい。また、20年、30年後のための資産形成の場合、コストがとても重要になるが、インデックス型投資信託は、一般的にアクティブ型投資信託よりコストが安い。また、インデックス型投資信託は数多くの銘柄を組み込んでいるので、少数の株式に投資するよりもリスクが分散されており、相対的にリスクが小さい。以上のことから、株式インデックス投資は、資産形成の手段として初心者に適していると筆者は考えている。 ──────────────── 1 金融審議会「市場ワーキング・グループ報告書」(2019年6月3日)16頁より抜粋。 2 投資信託協会ウェブサイト「投資信託を学ぼう」―「そもそも投資信託とは?」を参照した。 ===== 本稿では、通常ファイナンスで使われる統計学の専門用語をなるべく使わずに株式インデックス投資について説明してみたい。株式投資と言えば一般的にまだまだ怖いというイメージを持つ人もいるが、実は株式インデックスに長期投資をすれば、ある程度リスクを低減できる。ただ、日本で投資できる1,000種以上3のインデックス投信商品から、どれを選んだらいいのか戸惑ってしまう方もいるだろう。そこで、本稿では主要な株式インデックスについて紹介し、過去のデータに基づいて、どの株式インデックスを選択すべきだったかについて説明することで、今後の資産形成の際に参考になるような情報を提供してみたい。 2――株式インデックスについて知るべきこと 1|国内外における代表的な株式インデックスの紹介 ニュース、インターネットなどを通じて情報を簡単に入手でき、値動きが把握しやすい観点から、本稿では図表1に挙げた株式インデックスを分析の対象とする。 代表的な日本株式インデックスにはTOPIXと日経平均株価がある。TOPIXは時価総額が東京証券取引所上場企業全体の96.3%4を占めており、日本経済の動向を示す指標でもある。日経平均株価は1950年9月7日から算出され、長い歴史と高い指標性を持っており、一般に広く知られている。 代表的な米国株式インデックスにはS&P500、ダウ平均株価とナスダック100がある。S&P500の時価総額は米国株式市場全体の約80%を占めており、米国の株式市場動向を広く反映している。ダウ平均株価は米国を代表する企業の株価動向を示しており、ニュース等でよく報道される。ナスダック100はITやバイオテクノロジーなど最新技術を持つ企業と米国に上場している海外企業が含まれている。 ──────────────── 3 投資信託協会ウェブサイトより、公募株式投信のインデックスファンド数が1,079(2021年8月末時点)。 4 日本取引所グループウェブサイトより、東京証券取引所上場企業全体の時価総額は東証一部、東証二部、マザーズとジャスダックの時価総額(浮動株ベース、円単位)で計算した(2021年9月末時点)。 ===== 世界の各国・地域を代表するインデックスもある。米国ニューヨークに本拠地があるMSCI社が算出するインデックスシリーズが投資信託によく採用されている。MSCIコクサイは米国、イギリス、フランス、カナダ等の先進国株式が組み入れられているが日本株式は除かれている。一方で、MSCI WorldはMSCIコクサイと異なり、日本株式が組み入れられている。MSCIエマージング・マーケッツ(EM)は中国、韓国、インド、ブラジルなどの新興国株式が組み入れられている。先進国と新興国の両方の株式を組み入れているのがMSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)である。 2|代表的な株式インデックスの過去の推移 国内外における代表な株式インデックスの過去の推移を振り返ってみよう。 日本から見た代表的な4つの金融・経済危機を取り上げ、株価暴落を挟む形で以下の期間に分けてそれぞれ見ていきたい。 ・日本バブル崩壊直前からITバブル崩壊直前まで(1990年初~2000年2月末) ・ITバブル崩壊直前からリーマン・ショック直前まで(2000年2月末~2007年10月末) ・リーマン・ショック直前からコロナ・ショック直前まで(2007年10月末~2019年12月末) ・コロナ・ショック直前から現在まで(2019年12月末~2021年9月末) 株式インデックスには通常ニュースで報道されるプライスインデックス(PI、Price Index)だけでなく、トータルリターンインデックス(RI、Total Return Index)もある。トータルリターンインデックス、つまり配当込み指数は、構成銘柄の価格変化等によるキャピタルゲイン(売却益)だけでなく、分配金の再投資等によるインカムゲイン(配当収益)も反映しているため、常にプライスインデックスを上回る5。本稿では、投資信託の運用成績を表すのに用いられるトータルリターンインデックスを原則的に取り上げる6。 また、株式インデックス以外の資産クラスのインデックスとの値動きの違いを説明するため、リーマン・ショック以降の期間に限り、国内債券を代表するインデックスであるNOMURA-BPI(総合)と国内の上場不動産投資信託のJ-REITを比較対象として加えている。 ──────────────── 5 S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社の指数の基礎情報「インデックス・リテラシー」サイトを参照した。 6 ナスダック100のRIは2003年9月24日から算出された。本稿では、ナスダック100のパフォーマンスを保守的に示すため、1989年12月末から2003年8月末までPIを使用した。 ===== (1) 日本バブル崩壊直前からITバブル崩壊直前まで 1980年代後半、日本はバブル景気に沸いており、株価についても上昇を続け1989年末にTOPIXと日経平均株価は史上最高値をつけた。1990年に入ってもバブルの状況はしばらく続いていたが、いわゆるバブルがはじけてバブル不況に陥った。特に景気の不調を先取りする株価はいち早く反応し、1990年8月にイラクのクウェート侵攻(湾岸戦争の始まり)で世界的な範囲で株価暴落が発生した(図表2:赤塗り部分)。それ以降、日本株式は長期間に亘り伸び悩んだが、1995年以降、米国、先進国、新興国と世界株式インデックスは総じて上昇した。 それでは、この期間について、1990年初の値を100として各株式インデックスの推移を見てみよう。 この期間、2000年2月末までで上昇幅が一番大きかったのはナスダック100で、最低値が69.7と一時的に3割程度下落したものの、最終値は1,460.2にまで上昇し、14倍以上と異常なまでの値上がりとなった。次に上昇幅が大きかったのはS&P500とダウ平均株価、MSCIコクサイで、最低値が80台と一時的に2割ほど下落したものの、最終値が300台と3倍以上になった。MSCI WorldとMSCIエマージング・マーケッツ(EM)、MSCI ACWI も一時的に下落したが、最終値は200台と2倍以上に上昇した。 TOPIXと日経平均株価は最低値が40を切るなど6割以上も下落し、最終値もTOPIXが64.7、日経平均株価が55.4と低迷し、2000年2月末まで一度も100に回復することはなかった。 (2) ITバブル崩壊直前からリーマン・ショック直前まで 2000年3月に、上記で見たように米国のIT関連企業の株価が大幅に値上がりし、絶頂期を迎えた。しかし、株価高騰の行き過ぎを懸念する投資家が多くなり、PC関連の過剰在庫から生産調整等が行われる中、米国FRBの利上げもあって株価が急落し、IT関連企業の倒産が大幅に増えた。いわゆるITバブル崩壊である。続いて翌年9月の米国同時多発テロ事件、2003年の米国対イラク戦争などを経て、世界が同時に不況に陥った(図表3:赤塗り部分)。その後、米国は金融緩和策等を実施し、アフガニスタン紛争による軍事特需等もあって、徐々に景気は回復した。さらに、住宅ブームによる資産価格の上昇などもあり、経済の好調が続いた。アジアでは、中国が高い成長率を遂げた一方、日本は「失われた20年」の低迷期に苦しんだ。 それでは、この期間について、2000年2月末の値を100として、2007年9月末までの各インデックスの推移を確認してみよう。ナスダック100と日経平均株価を除いて、株式インデックスは概ね上昇した。 【図表3】ITバブル崩壊直前からリーマン・ショック直前までの価格推移 この期間に上昇幅が一番大きかったのは、MSCIエマージング・マーケッツ(EM)で、最終値が344.0と3倍以上になった。続いて上昇幅が高かったのはダウ平均株価、MSCI ACWI、MSCIコクサイ、MSCI Worldで最終値は150~160だった。 S&P500は最終値が134.6とそれなりの上昇となった一方で、ナスダック100は下落幅が大きく、最低値が21.5と約5分の1にまで値下がりした。大幅に下落したこともあって、ナスダック100は最終値が56.0と、半分程度にまでしか値を戻していなかった。 一方、日本株式は低迷が続いた。TOPIXの最終値が102.3とわずかに100まで回復したが、日経平均株価の最終値は90.4と100を下回った。 ===== (3) リーマン・ショック直前からコロナ・ショック直前まで 2007年半ばくらいから米国の住宅ブームが終わり、住宅価格が下落し始め、低所得者向けの住宅ローンの返済が延滞する等のサブプライム問題が発生した。その後、住宅ローンを証券化した商品のデフォルト等で信用収縮が急速に拡大し、先進国を中心に多くの金融機関が経営危機に直面した。2008年9月には米大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻し、金融システムに対する不安が広がったことで、結果として世界的な金融危機を招いた【図表4】。日本ではリーマン・ショックと呼ばれる金融危機で、世界的には「国際金融危機:Global Financial Crisis」と呼ばれる。 加えて2011年下期から、欧州債務危機も深刻化し、世界経済の不況と株式市場の低迷が長らく続いた。当初は各国政府の対応が遅く、財政出動等の規模も小さかったため、世界経済の回復は大幅に遅れた。 しかし、2012年頃から遅ればせながら、各国で積極的な財政・金融政策がとられた。例えば日本では、2012年末からデフレ脱却を目指すアベノミクスが発動され、2013年から「量的・質的金融緩和」が導入された。2016年には、マイナス金利政策と10年金利をほぼ0%で推移させるイールドカーブ・コントロールが導入された。 各国の中央銀行も非伝統的な金融政策、つまり、大規模な資産買入れ(FEDはMBS、日銀はETF、J-REIT等)等を実施した。その後、2016年に英国EU離脱国民投票、2018年に米中貿易摩擦等のリスクが顕在化し、株式インデックスはその度に下落したものの、その後に総じて上昇した。 それでは、この期間について、2007年10月末の値を100として株式インデックスの推移を確認しよう。リーマン・ショック以降、各種株式インデックスが低下し、2009年1、2月に底値をつけた(図表4:赤塗り部分)。それ以降、日本株式市場は世界特に米国株式市場との連動性が高まってきた。2013年春ごろから、MSCIエマージング・マーケッツ(EM)を除き、各種株式インデックスが続々と2007年10月末水準まで回復した。 この期間に一番上昇したのはナスダック100で最終値が417.7と4倍ほど上昇した。その次に上昇幅が大きかったのはダウ平均株価とS&P500で、それぞれの最終値は264.9、254.7となった。ついで、MSCIコクサイ、MSCI World、日経平均株価、MSCI ACWIで最終値は170~180台となった。TOPIXの最終値は137.0と小幅に上がった。一方、MSCIエマージング・マーケッツ(EM)は一時的に最低値が31.9にまで下がり、下げ幅が一番大きく、また最終値も109.4と他の株式指数と比較して低迷が続いた。 他資産クラスのインデックスも見てみよう。 国内債券インデックスのNOMURA-BPI(総合)はリーマン・ショック時もその後も変動幅が小さく、国内金利の低下もあって最終値も127.7と安定的な上昇となった。 J-REITはリーマン・ショック時に各株式インデックスとほぼ同幅で下落したが、最終値が190.6にまで回復し、米国株式インデックスに次ぐ上昇となった。 ===== (4) コロナ・ショック直前から現在まで 2020年初に新型コロナウィルスの世界的な拡大に伴って各インデックスが暴落した(図表5:赤塗り部分)。その後各国による大規模な財政・金融対策が講じられたものの、感染再拡大と各種行動制限措置のため景気の回復ペースが緩やかであった。しかし、2020年秋以降、各国による継続的な財政支出や金融政策に加えて、ワクチン開発に対する期待が高まり、実際にワクチン接種が先進国を中心に開始されるとともに、企業業績が回復しはじめ、景気の見通しも明るくなってきている。 それでは、この期間について、2019年末の値を100として見てみよう。各株式インデックスが概ね2020年11月に2019年末を超える水準まで回復し、上昇傾向にある。 この期間に上昇幅が一番大きかったのはナスダック100で、最低値が88.8であり、下落幅が最も小さく、最終値も174.8と短期間ながらも大幅な上昇となった。 次にS&P500、MSCIコクサイ、MSCI World、MSCI ACWI、日経平均株価、ダウ平均株価、TOPIX、MSCI エマージング・マーケッツ(EM)の順で上昇幅が大きく、最終値は120~140台となっている。 他資産クラスのインデックスも見てみよう。国内債券のNOMURA-BPI(総合)は変動幅が小さかったが、若干の金利上昇もあって最終値は99.2と100を切っており、収益性は極めて低い。J-REITは株式インデックスより回復がやや遅く、2021年春頃に100に戻し、最終値は103.5となんとか100を上回った。 以上、4つの代表的な金融・経済危機前後の株式インデックスの推移を見てきたが、概ね、代表的な株式インデックスは経済危機による一時落ち込みが繰り返し生じるものの、そのショックを乗り越えて長期的に上昇してきたことが分かる。特に、米国および先進国株式インデックスは1990年以来長期に亘って上昇率が高い水準を維持していることが分かる。 一方で日本株式インデックスのTOPIXと日経平均株価はいまだに1989年末の最高値を超えていないため、日本バブル崩壊から見ると長期的な収益率が相対的に低い。しかし、2000年以降はアベノミクスを契機に量的・質的金融緩和政策などによって株高・円安が進んだことで、上昇率が高くなってきていることが分かる。 3――株価下落直前に100万円を投資した場合、その後どうなる? 実際に、上記の株式インデックスを使って長期投資をする場合はどうなるか? ===== 仮に100万円を日本バブル崩壊直前、ITバブル崩壊直前、リーマン・ショック直前、コロナ・ショック直前に一括投資し、2021年9月末まで保有していたら、100万円がいくらになったかを見てみよう。 投資する起点が異なると、最終残高も大きく変わる【図表6】。本稿で選択した株式インデックスは金融・経済危機直前に投資しても年率利回りが最終的にプラスであり、最終残高が元本100万円を大きく上回ることが分かる。 株式インデックスを詳しく見ると、米国株(ナスダック100、S&P500、ダウ平均)とMSCIシリーズ(MSCIコクサイ、MSCI World、MSCI ACWI)は4つの期間において6%以上の年率利回りがあり、総じてリターンが高かった。日本株式除きのMSCIコクサイの年率利回りは、日本株式を含むMSCI World、日本と新興国株式を含むMSCI ACWIの年率利回りを常に上回っている(図表1:構成銘柄参照)。MSCI エマージング・マーケッツ(EM)は年率利回りが最大11.2%、最小2%とリターンの変動幅が大きい。日本株式インデックスの年率利回りは日本バブル崩壊直前からスタートした場合は1%未満でほぼ横ばいで、ITバブル崩壊やリーマン・ショック直前から投資すると、年率利回りは3%~6%台に上昇するが、他の株式インデックスと比べて低い。ただ短期間ではあるが、コロナ・ショック直前から投資すると、米国株には多少見劣りするものの、年率利回りは10%台である。 比較のため、他資産クラスのインデックスも見てみよう。NOMURA-BPI(総合)はリーマン・ショック後からだと金利低下局面でもあるため、年率利回りが1.7%とプラスの収益だが、コロナ・ショック直前からだと短期間ではあるが、若干の金利上昇で年率利回りがマイナス0.4%と年間400円ほど損失が出る。今後の金利上昇リスクを考えると国内債券の公社債投信は元本割れの可能性が否定できず、投資対象としては当面お勧めできない。J-REITはリーマン・ショック直前からで年率利回りが2~3%台であるが、大半の株式インデックスより見劣りしている。 図表6から、金融・経済危機直前という非常に悪いタイミング(図表7:黄色の点A)で株式インデックスに投資を開始したとしても、長期保有をすると、元本100万円が大幅に増えることが多い。例えば、日本バブル崩壊直前の1990年年初にナスダック100に100万円投資し、2021年9月末まで31年9カ月持ち続けたとすると最終残高が5,967万円と60倍近くになっている。実際は各種コストがかかるので、多少はこれよりは少なくなるが、相対的に極めて大きな金額となっている。ITバブル崩壊直前の2000年3月にダウ平均株価に100万円投資し、21年6カ月持ち続けたとすると最終残高は563万円になっている。リーマン・ショック直前の2007年11月にナスダック100に100万円投資し、13年10カ月持ち続けたとすると、最終残高は730万円になっている。 ===== 一方、日本株式インデックスを見てみよう。ITバブル崩壊直前に日経平均株価に100万円投資した場合で、最終残高は206万円と21年間も投資して2倍くらいにしかなっていない。リーマン・ショック直前に日経平均株価に100万円投資した場合はおよそ13年で最終残高が228万円になっており、米国株には見劣りする。 投資を始める時期について、金融・経済危機の最中(図表7:緑色の点B)、つまり最安値のタイミングで投資できればベストのタイミングなのであろうが、金融・経済危機がいつ起きるか、株価の最安がいつなのかは事前には予測できない。人生100年を豊かにするためのお金を効率良く準備したいのであれば、株価の短期的な値動きに一喜一憂し、試行錯誤を重ねて短期売買するよりも、良い株式インデックスを選んで長期投資をして値上がりを待つ方が堅実なのではないかと思われる。 4――株式インデックスのリスク このように株式インデックス投資に長期投資すると高い収益が期待できるのだが、注意する必要があるのは、株式インデックス投資には値下がりして含み損を抱えるリスクがあり、決して値動きがずっと安定しているわけではないということである。これまで説明してきたそれぞれの金融・経済危機直前に元本100万円を一括投資した場合、2021年9月末までの最低額を示してみた【図表8】。いずれの最低額も当然ではあるが100万円をかなり下回っている。また、各株式インデックス間の値動きの連動性が近年高まってきており、リーマン・ショック直前から投資した場合の各株式インデックス投資の最低額は2009年1、2月末時点と近しい時期にあり、一斉に50万円以下になっている。コロナ・ショック直前から投資した場合も同様で、最低額になったのは2020年3月末で70~80万円程度まで減少している。 元本割れの期間が最も長いのは日本バブル崩壊直前からTOPIXと日経平均株価に投資した場合であり、一時的に20~30万円にまで低下し、今に至るまで約30年間ほぼ元本割れの状態にある。ちなみに、配当を考慮しないプライスリターンインデックスは2021年9月末時点も元本割れしており、配当込みのトータルリターンインデックスの場合で、2020年後半から2021年初頭に元本100万円を回復している。インデックスの選択によっては、長期間に亘って元本割れから回復しないリスクがあることが分かる。各株式インデックスに投資する場合は、金融・経済危機等があると、大きな価格下落によって、元本割れを被る時期がほぼ間違いなくあると覚悟すべきである。 ===== しかし、日本の株式指数を除いて投資期間が長ければ、元本割れをした期間が投資全期間に占める割合が徐々に小さくなる傾向があり、日本バブル崩壊直前からの投資だと日本のものを除くと20%以下、元本割れの期間が最も少ない米国の株式指数は1~2%に抑えられている。つまり、最低点B(図表7:緑点)にいても我慢して持ち続けていれば、一時的に損失(図表7:マイナス)を被ったとしても、その後の好調時期の値上がり(図表7:プラス)によって埋め合わせることができている。過去データからは、一時的に株式インデックスで元本割れして含み損を抱えるリスクや不安な気持ちを受け入れることの対価として、預金等よりも極めて高い利回りが得られるということが分かる。投資対象さえ間違わなければ、長期投資は株式インデックス投資のリスクを抑制できる有効な手段として期待できるものと思われる。 5――株式インデックスの将来のパフォーマンス 過去と今後は違うので、過去を参考にしつつも、今後を見極める必要がある。長期投資はリスクが抑制できる可能性が高いとはいえ、株価上昇を見込むことができる株式インデックスに投資すべきだろう。では将来に上昇が見込まれる株式インデックスを選ぶにはどのようにすれば良いのだろうか。インデックスは個々の構成銘柄(企業)の株価から算出されるが、その構成銘柄全体の株式価値について考える必要がある。株式を将来の利益を受け取る権利だと解釈するならば、株式の現在価値は利益と、利益の期待成長率、株主要求利回りを用いて以下のように表すことができる。 式(1) 株式の現在価値=利益/(株主要求利回り-期待成長率) 式(1)から、利益が増加するか、投資家の成長期待(期待成長率)が高くなるか、株主要求利回りが低くなるかによって、株式の現在価値が高くなる。 尚、各国の潜在成長力は資本ストックの増加、労働力の増加、生産性の向上(技術革新等)、国のGDP成長等、様々な方面からもみることができる。 しかし、ここでは、具体例として、分かりやすさを優先して米国株式を代表するS&P500と日本株式を代表するTOPIXを取り上げる。 現在の企業の収益性を評価する指標であるROEを比較してみよう。最近10年間の実績から、日本企業のROEは上昇してきてはいるが、概ね6~8%、一番高くても10%を超えない程度であるのに対して、米国企業のROEはほぼ10%半ばで推移している【図表9】。日本企業のROEが低い水準にあるのはそもそもROA(利益率)が低いことに起因しており、つまり日本企業の稼ぐ力が相対的に劣後しているからだと指摘されている7。現時点では、米国企業の収益性が日本企業より高い。ただし、TOPIXは2,000社を超える多くの企業を抱えているため、今後、東証での市場区分の見直しで銘柄が厳選されれば、構成銘柄全体の収益性は多少改善する可能性がある。 ──────────────── 7 2014年、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)37頁より。ROE=ROA×回転率×レバレッジ、日米それぞれのROAが3.8% と10.5%、回転率が0.96と0.96、レバレッジが2.51と2.69(2012年本決算実績ベース、金融・不動産除く)。 ===== 次に予想PERは投資家が期待する今後の企業の収益の成長力を示す指標の一つである。S&P500を構成する米国企業は2014年以来、TOPIXを構成する日本企業との差が拡大してきている【図表10】。一方で、投資家が見誤り、予想PERが高すぎるという可能性も大いにあるが、長期に亘って予想PERが高いとなると、米国企業の成長力はずっと期待され続けており、かつその期待を裏切っていないことになる。 このようにROEと予想PERの過去のデータからみる限り、企業の収益力と投資家の成長期待が高いのは米国企業であり、将来10年くらいは、米国企業が優位であり続けるであろうと筆者は考えている。 加えて株式インデックスの銘柄選択のルールにも留意したほうが良いものと思われる。大半の株式インデックスは銘柄のスクリーニングがあり、時価総額などの条件に基づいた銘柄の入れ替えがある。中には、S&P500のように企業の収益力を銘柄選択条件とするインデックスもある。銘柄選択条件を満たさなくなった企業を除外して、他の有望企業を自動的に追加してくれるため、個別銘柄を吟味する必要がない。選択条件が厳しく、銘柄数が少なく常に優良企業が構成される株式インデックスに投資するという考え方も良いものと思われる。 6――まとめ 家計の金融資産構成について日米を比較すると、2021年3月末時点日米の現預金(日:54.3%、米:13.3%)と投信・株式(日:14.3%、米:51.0%)の比率がまさに正反対である8。特に日本は家計の預貯金額は総額1,000兆円を超えており、リスク回避傾向が非常に強いことがわかる。 本稿では、低金利環境が続いている中、預貯金以外の資産形成手段として、株式インデックス投資が非常に有効であることを示した。このことを多くの人に知ってもらいたい。価格が下がり損を抱えるリスクはあるものの、いつかは値を戻すということを信じて、売らずに我慢して長期保有すれば損はしにくい。 ===== 過去のデータを見る限り、結論として以下のことが言えると思う。 〇投資後に価格が下がっても慌てて売ることなく、辛抱強く持ち続け、価格上昇を待つ長期投資が良い。但し、老後が近くなった段階で、価格が上がり、十分満足できる資産が形成できたら、躊躇なく売却することもとても重要である。 〇株式インデックスとしては、米国株(ナスダック100、S&P500、ダウ平均)、米国株が7割以上を占める先進国株(MSCIコクサイ)などをはじめ、収益力、成長力が期待できるインデックスが良い。尚、インデックス投資ではリターンは同様なので、コストが安いものを選ぶべきである。 〇当然ながら、投資においては分散投資が重要と言われているため、通常は値動きが違う他の資産クラスへの投資も考えられる。しかし、最近の傾向として各種株式インデックスの値動きの連動性が高まってきており分散投資のメリットは小さく、一方で、国内債券投資は利回りが低すぎるため、投資するメリットは小さい。長期的な資産形成のための資金であれば、株式インデックス投資をメインに投資するのが良いのではないかと思う。 これまで一括投資を前提に、長期投資なら株式インデックス投資をメインに投資することを勧めたが、積み立て投資の場合でも結論に変わりはない。株価下落直前という最悪の条件に一括投資していた場合でも株式インデックス投資メインが良いのだから、最悪期に限らず、株価下落後の最良期にも投資する積み立て投資ならば、なおのこそ、株式インデックス投資をメインに投資することをお勧めする。 尚、これから人生100年時代の資産形成を考える方が株式インデックスに投資する場合には、税制上の優遇措置がある確定拠出年金(企業型や個人型のiDeCo)やつみたてNISAを利用すべきであると思う。さらに余裕がある場合は特定口座で株式インデックス投資から始め、慣れてきたらアクティブ型の投資信託に投資するのも良いと思う。まずは、手元に資金があれば、勇気を出して、株式インデックスに投資してみてはどうだろうか。 ──────────────── 8 いずれも2021年3月末のデータ。2021年8月20日日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」より。 (参考文献) 水野友理那「米国株式インデックス投資、どれを選べば良いのか-S&P500 vs