「シリア」の記事一覧

溺死した男児の写真から5年──欧州で忘れられた難民問題

<溺死したクルド人男児の写真で目を覚ましたはずの欧州だったが、大きかった「特別な共感」は消え去ろうとしている。移民への反感を募らせる人々から抜け落ちた視点とは> たった一枚の写真が、世論を変えた。5年前の秋のこと。それまではヨーロッパに押し寄せる「人間の群れ」(当時の英首相デービッド・キャメロンの表現)呼ばわりされていた難民たちが、急に「特別な共感」の対象となった。 Relatives of iconic drowned Syrian refugee find a home https://t.co...

アルメニアとアゼルバイジャンの戦闘開始に合わせるかのようにトルコは自由シリア軍を派遣:その真相は?

<アルメニアとの緊張関係が続くアゼルバイジャンにトルコがシリア人戦闘員を派遣。この地域で何が起きているのか......> アルメニアとアゼルバイジャンで戦闘激化 カフカス地方(コーカサス地方)のアルメニアとアゼルバイジャンの間で9月27日に戦闘が発生し、少なくとも兵士16人と多数の住民が死亡、100人余りが負傷した。 戦闘が起きたのは、旧ソ連ナゴルノ・カラバフ自治州の周辺。アゼルバイジャン領だが、アルメニア人が多く住み、1991年にアルツァフ共和国(ナゴルノ・カラバフ共和国)として独立を宣言、アルメニアがこれを実効支配している。 両国政府は、相手側の軍が先に攻撃を仕掛けたと主張、戒厳令を発令し、対決姿勢を示した。これに対して、ロシアと米国は両国に自制を促す一方、トルコはアゼルバイジャンを支持する姿勢を示した。 シリア内戦を想起させる当事者たち アルメニアとアゼルバイジャンの関係は、7月半ばからにわかに緊張を増していた。いずれも旧ソ連に属し、ロシアの影響力が強い。アルメニアは、オスマン帝国末期のアルメニア人大虐殺の因縁もあいまってトルコと険悪である一方、シリア政府とは一貫して友好関係にある。対するアゼルバイジャンは、トルコ系のアゼリー人が国民の大半を占め、トルコと関係が深い。 ロシア、トルコ、シリア...。シリア内戦の当事者でもあるこれらの国のなかで、トルコが不穏な動きを続けてきた。 PKKの系譜を汲むPYDに近いメディアのリーク シリアのクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)は2ヶ月前の7月29日、複数の独自筋の話として、イドリブ県で活動する反体制派戦闘員が、トルコの計画に従って、アゼルバイジャンに向かう準備を開始したと報じた。 同独自筋によると、この動きは、トルコのフルシ・アカル国防大臣が、アルメニアとアゼルバイジャンの軍事的緊張が高まるなかで、アゼルバイジャンへの支持を表明したことに伴うもの。 ANHAは、戦闘員数十人からなる第1陣が、イスラーム教の犠牲祭(イード・アドハー、7月19~23日)明けにトルコ領内に入り、そこからアゼルバイジャンに向かい、彼らには5,000米ドルが報酬として支払われると伝えた。 PYDはトルコ政府が「分離主義テロリスト」とみなすクルディスタン労働者党(PKK)の系譜を汲む組織であるため、ANHAの報道はプロパガンダに思えた。 米国人ジャーナリストのツイート だが、9月に入ると、今度は米国人女性ジャーナリスト・映画プロデューサーのリンジー・スネルが21日、ツイッターのアカウントで、次のように書き込んだ。 「記録によると、トルコの支援を受ける自由シリア軍(TFSA:Turkish-backed Free Syrian Army)1,000人が9月27日から30日にかけてアゼルバイジャンに派遣される。複数の情報筋から、すでに何人かは現地にいると聞いている。」 Recording claims 1000 TFSA will be sent to Azerbaijan between the 27th and 30th. I've also heard from multiple sources that some are already there. pic.twitter.com/sman56Swfb— Lindsey Snell (@LindseySnell) September 21, 2020 TFSAとは、トルコが占領するシリア北部のいわゆる「ユーフラテスの盾」地域、「オリーブの枝」地域、「平和の泉」地域で活動を続ける国民軍のこと。2017年12月にシリア革命反体制勢力国民連立(シリア革命連合)傘下の暫定内閣国防省がアレッポ県アアザーズ市の参謀委員会本部での会合で結成を宣言した反体制武装集団の連合体である。トルコによってリビアに派遣され、国民合意政府(GNA)を支援する傭兵として戦闘に参加しているのも、国民軍に所属する部隊のメンバーである。 スネルはまた、9月23日には次のようなツイートを写真付きでアップした。 「ハムザ師団(国民軍所属組織の一つ)の情報源から。おそらくハムザ師団のこれらの男たちが今日、アンカラ(トルコの首都)からバクー(アゼルバイジャンの首都)に到着した。」 From Hamza Division source. Supposedly these Hamza men arrived in Baku today via Ankara. pic.twitter.com/lgUcSl1Fkp— Lindsey Snell (@LindseySnell) September 22, 2020 2016年7月にイドリブ県での取材中に、シリアのアル=カーイダであるシャームの民のヌスラ戦線(現在の名前はシャーム解放機構)によって逮捕され、同年8月に脱走した直後、今度はトルコに不法入国しようとして同国当局に逮捕されるという経験の持ち主でもあるスネルの書き込みも、プロパガンダなどではなかった。 ===== シリア人傭兵300人以上がアゼルバイジャンに 英国を拠点とするNGOのシリア人権監視団は9月27日、シリア人傭兵300人以上がアゼルバイジャンに到着したことを確認したと発表した。 到着したのは、トルコが派遣を予定している傭兵の第1陣で、「オリーブの枝」地域(アレッポ県アフリーン郡)で活動する国民軍所属のスルターン・ムラード師団、アムシャート師団のメンバー。毎月1,500~2,000米ドルの報酬を与えられるという。 彼らは、数日前に「オリーブの枝」地域を出発し、アンカラを経由して、空路でアゼルバイジャン入り、近々第2陣もアゼルバイジャンに派遣されるという。 アルメニアとアゼルバイジャンの両軍の戦闘が始まった当日のことだった。 投稿された2本の映像 SNSではまた、アゼルバイジャンに派遣されたシリア人戦闘員を撮影したとされるビデオが2本投稿された。 1本目の投稿は、シリア人傭兵数百人を乗せた四輪駆動車の車列がアゼルバイジャン国内の基地を出発し、アルメニアとの国境地帯に向かっているとされる映像で、住民がアゼリー語で車列に声援を送る音も収録されている。 2本目の投稿は、アゼルバイジャンで負傷したとされるシリア人戦闘員が次のように訴える映像である。 若者よ、君たち、そして君たちよ、アゼルバイジャンを見てみろ。若者よ、君たち、そして君たちよ、戦闘地域を離れるな。我々の喉元に目的があり、我々の喉元に拘束されている女たちがいる。 「革命家」の悲痛なメッセージ シリア人傭兵にアゼルバイジャンに来ないよう警告するこの映像はしかしフェイクだった。 シリアの反体制系検証サイトのタアッキド(Verify-sy)が9月27日に明らかにしたところによると、映像はイドリブ県内で撮影されたもの。男性の名前はアスアド・アブドゥルハミード・イブラーヒーム(通称アブー・マスアブ・シャンナーン)で、シャーム解放機構とともに「決戦」作戦司令室を結成し、イドリブ県でシリア軍と戦闘を続ける国民軍傘下の国民解放戦線に所属するシャームの鷹の大隊メンバーだという。映像は、イブラーヒームがイドリブ県ザーウィヤ山地方での最近の戦闘で負傷し、イドリブ市内のハヤート病院で治療を受けている際に撮影されたもので、現在はイドリブ県ラアス・ヒスン村近郊にいるという。 Verify-sy、2020年9月27日 イドリブ県では、2月から3月にかけて、シリア・ロシア軍とトルコ軍・「決戦」作戦司令室が激しく交戦し、前者が同県南部を制圧した。これを受けて、3月5日、トルコとロシアは停戦合意を交わし、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路の安全を確保するための連携を強め、これに抗う勢力への締め付けを強化している。 最近では、トルコとロシアがM4高速道路以南の反体制派支配地をシリア政府の支配下に復帰させることに合意したとの情報もあり、トルコにとって反体制派の利用価値は低下している。 これまでたびたび報じられてきたリビアへのシリア人傭兵の派遣は、不要となった反体制派をシリアから排除するための一石二鳥の策だったとも言える。イドリブ県に続いて、リビアでも戦闘が収束に向かおうとしているなか、今度はアゼルバイジャンがカネで雇われた反体制派の「捨て場所」になっているかのようだ。 イブラーヒームのフェイク画像は、シリア政府やレバノンのヒズブッラーに近いマヤーディーン・チャンネルのレポーターなどが拡散したとされる。だが、そのフェイクのなかには、「自由」と「尊厳」の実現をめざす「シリア革命」の「革命家」たちの悲痛なメッセージが込められている。 ●追記(2020年9月29日) 「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」の以下の記事も合わせてご覧下さい。 「国民軍はトルコがアゼルバイジャンにシリア人傭兵を派遣していることを認める(2020年9月28日)」 「アルメニア政府はトルコによってアゼルバイジャンにシリア人傭兵4,000人が派遣され、うち81人を殺害したと発表(2020年9月28日)」 「アゼルバイジャン、トルコはシリア人傭兵の派遣を否定:「アルメニア側からの新たな挑発」(2020年9月28日)」 ●ヤフーニュース個人より転載

レバノンの港で再び火災、国境ではイスラエルのドローンが墜落し緊張走る

<経済危機でレバノン国民の政府不信が止まらない一方で、ヒズボラとイスラエルの対立も激化> 先月、発生した大爆発で広範囲が破壊されたレバノンの首都ベイルートの港で10日、再び火災が発生した。一方、レバノン軍は南部国境を通過するイスラエルのドローンを撃墜したと発表し、緊張が高まっている。 レバノン軍は10日、ベイルートの港の石油とタイヤを保管する倉庫で発生した火災について、調査を開始すると発表した。 ミシェル・ナジャール運輸相代理は、今回の火災の発生場所は、先月4日に倉庫に保管されていた硝酸アンモニウム...

シリアが「積極的無策」でコロナ感染拡大を隠す理由

<爆発的な感染拡大が進行しているのは事実だが、アサド政権が隠蔽工作を続ける切実な裏事情とは> シリア国内における新型コロナウイルスの公式の感染者数は、通貨リア・ポンドの公式の対米ドル為替レートと同じくらい正確だ──シリアの首都ダマスカスでは最近、こんなブラックジョークが人気を博している。 内戦と経済制裁、経済危機への対応に追われてきたシリアでは以前から、新型コロナウイルスの感染が爆発的に拡大しているとの噂がささやかれてきた。アサド政権は絶対に認めないだろうが、フォーリン・ポリシー誌はこの噂が事実であ...

UAEとイスラエルの国交正常化合意によってシリアは何を得られるか?

<UAEとイスラエルが国交正常化合意に、エジプト、イラン、トルコ、そしてパレスチナ自治政府が強く反発するなか、シリアは(今のところ)、明確な姿勢を示していない。その理由は......> UAEとイスラエルが国交正常化合意、反発するヒズブッラー ドナルド・トランプ米大統領は8月13日、アラブ首長国連邦(UAE)とイスラエルが国交正常化に向かうことで合意したと発表した。 エジプト、イラン、トルコ、そしてパレスチナ自治政府が強く反発するなか、イスラエルと今も戦争状態にある紛争当事国の一つレバノンでは、ヒズ...

【レバノン大爆発】日頃の戦争を上回る最大の悲劇に団結する中東諸国

<レバノンのシーア派武装組織ヒズボラをテロ指定するアメリカから交戦中のイスラエルまでが次々と支援を表明。狙いは影響力の増大か> 8月4日にレバノンの首都ベイルートで大規模な爆発が発生したことを受けて、一方ではシリアとイラン、もう一方ではイスラエルとアメリカという、対立関係にある複数の勢力がそれぞれレバノン政府に支援を申し出ている。 レバノンの長年の盟友であるシリアのワリード・ムアレム外相は5日、レバノンのシャーベル・ワハビ新外相と話し、弔意と団結の意を表明した上で「可能な限りの支援を提供する意思」を...

無防備なシリア難民に迫る新型コロナの脅威──越境支援期間の終了で人道危機に拍車

<ただでさえ脆弱なシリア国内の医療体制だが、検査キットなど救命物資を届けるための越境ルートが断たれれば、コロナ拡大は破滅的な結果をもたらしかねない> シリアへの国境を越えた人道支援を継続するための国連決議2504号は、7月10日に期限切れを迎えた。国連安全保障理事会では先週、2つの決議案が採決されたが、結果はいずれも否決だった。 シリア北西部のイドリブ県では、新型コロナウイルスの最初の感染例が報告された。この地域ではロシアの支援を受けたバシャル・アサド大統領の政権軍が大規模な攻勢に出ている。このまま...