「紛争」の記事一覧

アサド政権が越えてはならない「一線」を越えた日

<アサド政権は国連調査団の目の前で化学兵器による大規模攻撃を強行した> ワシントン・ポスト紙のジョビー・ウォリックは、国家安全保障に詳しいピュリツァー賞受賞記者。新刊書『レッドライン』(未邦訳)は、シリアにおける化学兵器の発見・破壊と過激派組織イスラム国(IS)の打倒を目指したアメリカの闘いに焦点を当てている。 同書は、別の人権侵害疑惑の調査で既に首都ダマスカス入りしていた国連調査団の2013年8月21日の信じ難い経験も描いている。その日、近郊の村々に新たな攻撃が行われ、少なくとも1400人が死亡。...

インドはどうやって中国軍の「侵入」を撃退したのか

<小競り合いが続いていたカシミール地方でインドが中国軍を押し返した戦術と戦略> インドと中国は2月10日、過去50年間で最大の衝突が生じていた国境紛争で、一部地域からの撤退を開始した。 実効支配線を挟んだにらみ合いは続いているが、今回問題となったインド北東部、ラダック地方のパンゴン湖周辺では、両軍が装甲車などを撤収する様子が衛星写真などで確認された。インドと中国は、領有権争いのある地域を「緩衝地帯」とも呼んでいる。 この結果にインドは大喜びしているに違いない。実効支配線を侵害してインド側に入り込んで...

【ルポ】全てを失ったナゴルノカラバフ住民の「涙の旅路」

<家を捨て、集団脱出。行き先は分からない──帰属先をめぐる紛争の終結で全てを失った人々が、絶望と悲劇の中で思うのは> 家財道具を積み上げた車が長い列を作り、その横をトラックが擦り抜けていく。荷台には、壁からワイヤが突き出たトタン屋根の店舗が丸ごと載っていた。 家畜をよそへ移す余裕がなかった住民はニワトリの首をはね、馬のはらわたを抜いた。冷気の中に湯気が立ち上る。家畜の群れを連れて、山道を何キロも移動した者もいる。 それは、集団脱出の悲劇的な相貌だった。 アルメニアのニコル・パシニャン首相が、6週間続...

完全停戦ナゴルノカラバフ紛争、支配地を失ったのはアルメニア

<ロシアの仲介で9月から続く紛争についに終止符。アルメニアでは停戦合意に反対するデモ隊が......> アルメニアのパシニャン首相は11月10日、実効支配地ナゴルノカラバフをめぐりアゼルバイジャンとの間で9月から続いていた紛争に終止符を打ったと発表した。 ロシアの仲介で完全停戦に合意。アルメニアは支配地の多くを失うことになった。パシニャンはSNSの声明で「私自身と全国民にとって非常に苦痛で困難な決断だった」と述べた。 パシニャンに続きロシアのプーチン大統領もこれを認める声明を発表。今後5年にわたり、...

トルコを紛争に駆り立てる「新オスマン主義」の危険度

<ナゴルノカラバフに介入するのはエルドアンの自意識と被害者意識ゆえ。「大国トルコの復活」の呼び掛けは、経済停滞で不満をためた国民のガス抜きに最適だ> たいていの人が忘れかけていたナゴルノカラバフ紛争が再び火を噴いた。国際社会は(珍しく一致して)四半世紀来の停戦の維持を呼び掛けているが、トルコだけは違う。同国のレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は無条件でアゼルバイジャンを支持すると宣言し、恒久的な解決につながらない停戦は無意味だと主張している(編集部注:ロシアは10月10日、アゼルバイジャンとアル...

「トランプがノーベル平和賞」があり得ないこれだけの理由

<平和に貢献した歴代受賞者や多くの候補者には、ある決定的な資質があった。平和と正義への情熱、よりよい未来を信じる楽観主義、そして──。1996年に同賞を受賞したジョゼ・ラモス・ホルタ氏が寄稿> ノーベル平和賞候補には、国家元首から医療団、無名の人々まで300を超える個人・団体が挙がる。だが私が知る限り、自分が候補になったことを発表したのはただ1人、トランプ米大統領だけだ。 私は1996年に同賞をいただき、歴代受賞者や数多くの候補と知り合うチャンスに恵まれてきた。平和に貢献する彼らには、ある決定的な資...

「国際社会の無関心のせい」とアゼルバイジャン大統領 数百人の死者が出ているもよう

<ナゴルノカラバフの帰属をめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの戦闘による被害は双方の都市部まで及び、民間人も犠牲になっている> ナゴルノカラバフで再び戦闘が始まったのは国際社会の「無関心」のせいだ──。アゼルバイジャンのアリエフ大統領は自分の責任を棚に上げて、そう非難した。 同国西部のナゴルノカラバフ自治州では9月末から隣国アルメニアとの戦闘が激化し、4年前の武力衝突以来、最も深刻な事態に発展した。しかも今回は被害が双方の都市部にまで及び、既に数百人の死者が出ているもようだ。 アゼルバイジャン側の主...

突き刺さったミサイル アゼルバイジャン×アルメニアの火種は消し去れるか

アルメニアが実効支配し、係争地となっているアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州をめぐって、9月末から両国間で軍事衝突が再燃。 アゼルバイジャンのミンゲチェビル市もミサイル攻撃を受けた(写真)。 長年にわたり対立してきた両国だが、コロナ禍で社会のストレスが高まるなか政治家が愛国心をあおっているとの見方もある。 10月10日には停戦が発表されたが、先行きは不透明だ。 <2020年10月20日号掲載> ===== アパートが爆撃され、早速破られた停戦合意 BBC News-YouTube...

溺死した男児の写真から5年──欧州で忘れられた難民問題

<溺死したクルド人男児の写真で目を覚ましたはずの欧州だったが、大きかった「特別な共感」は消え去ろうとしている。移民への反感を募らせる人々から抜け落ちた視点とは> たった一枚の写真が、世論を変えた。5年前の秋のこと。それまではヨーロッパに押し寄せる「人間の群れ」(当時の英首相デービッド・キャメロンの表現)呼ばわりされていた難民たちが、急に「特別な共感」の対象となった。 Relatives of iconic drowned Syrian refugee find a home https://t.co...

中印衝突の舞台は海上へ 中国の野心に巻き込まれるタイに「分断」の危機?

<邁進する一帯一路構想でシーレーンが焦点に──中国から運河建設を迫られるタイのジレンマ> 太平洋における米中の新冷戦は、ひとまず脇に置こう。インドと中国の間では既に、はるかに熱い戦争が始まっている。今年6月にはヒマラヤ地方の係争地域で両国軍が衝突し、少なくとも20人が死亡した。 海上では、中国がインド洋の主要航路沿いに軍事基地や商業の拠点を確保する「真珠の首飾り」構想で、インドを包囲しようとしている。 インド洋、ひいてはインドの支配をうかがう中国の戦略にとって、最大の脆弱性はマラッカ海峡だ。シンガポ...